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夜鳥 (創元推理文庫)
フランスのポオと呼ばれ、ヴィリエ・ド・リラダン、モーパッサンの系譜に列なる作風をもって仏英読書人を魅了した、鬼才ルヴェル。恐怖と残酷、謎や意外性に満ち、ペーソスと人情味を...
夜鳥 (創元推理文庫)
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商品説明
フランスのポオと呼ばれ、ヴィリエ・ド・リラダン、モーパッサンの系譜に列なる作風をもって仏英読書人を魅了した、鬼才ルヴェル。恐怖と残酷、謎や意外性に満ち、ペーソスと人情味を湛える作品群は、戦前〈新青年〉等に訳載されて時の探偵文壇を熱狂させ、揺籃期にあった国内の創作活動に多大な影響を与えたといわれる。31篇収録。エッセイ=田中早苗・小酒井不木・甲賀三郎・江戸川乱歩・夢野久作/解説=牧眞司【商品解説】
収録作品一覧
或る精神異常者 | 16-22 | |
---|---|---|
麻酔剤 | 23-31 | |
幻想 | 32-40 |
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紙の本
古くて新しくて短くて、深く濃い。
2003/04/13 17:36
2人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
さすがは創元社。平然とさりげなく古くて新しい作家を「新刊」として刊行するもんだ。
「古い」というのは、田中早苗による訳文の語彙を当たれば一目瞭然。
「衣嚢(かくし)」、「草臥(くたび)れた」、「完爾完爾(にこにこ)」など、今日ではほとんど使用されることのない、一見して古めかしい、けれども味わいのある表記の数々も、実際に読む段にはさほど不自然には感じられない。これは、訳文が日本語としてかなり洗練されているためでしょう。
本書の解説によると、作品が日本で紹介されたのは大正十一年頃から新青年で、というのだから、「年代物」、の作家であり作品であることは確かだ。当然、作中で描かれる風俗も十九世紀末から二十世紀初頭あたりのものになる。例えば、「乞食」や「娼婦」がよく題材にされるが、これは現在の「ホームレス」や「援助交際」とは似て非なるもの、本物の「貧困」とか「下層階級」という言葉が真実味を持っていた時代の話だからだ。お話し舞台が古いからといって、内容までが陳腐化しているとは限らない。むしろ、類型的に造形された登場人物の心情と行動は、類型的な描かれているが故、不思議な説得力を持つ。たいていの作品が、日本語に直して四百字詰め原稿用紙二十枚以内の短さであるのも、肝心の部分だけシャープにすぱっと決めている感じがしていい。
しかし、巻末に訳者と解説者の解題があるのはいいとして、それとは別に、小酒井不木、甲賀三郎、江戸川乱歩、夢野久作らの「ルヴィエル賛歌」が収録されているのは、豪華というかなんというか。しかも、どれもこれもべた褒めに近い内容だというのは……。いや、わかるけどね。
酩酊亭亭主
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怪奇、幻想、恐怖の短編集
2004/01/08 23:08
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ピエロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて雑誌「新成年」に翻訳紹介されて、一世を風靡したというモーリス・ルヴェルの短編小説。怪奇と幻想、残酷で暗い内容のものが多いのに、語り口がとてもうまいのであたりがとても柔らかく感じるのですが、いいタイミングでフッと恐怖が忍び込んできて背筋が寒くなります。なるほど、当時の人々に好意的に受け入れられたのもうなずけます。
解説によると、ルヴェルの紹介には、訳者の田中早苗氏の功績が大きかったのだそう。原書で読んでとても気に入り、周りの人薦めて回り、翻訳発表し、ついには一冊の本にまとめて出版される(本書は昭和初期に刊行された同題の短編集に新たに一作を加えてまとめたもの)。作者にとってみれば、これほど幸せなことはないでしょうし、訳者にしてもそうでしょう。惚れ込んだ相手の本を出版でき相応の評価を得られたのですから。
人気のある海外作家の作品は多くの出版社が競い合うように出版されるのに、いい作品を書いていながら知名度の低い作家の作品はシリーズものでもあるにかかわらず一、二作翻訳されたきりだったり、全く紹介されていなかったりと、売上にばかり気をとられているように見える中で、本書のように、地味ながらも作者ばかりでなく訳者の熱意まで伝わってくるような作品に一つでも多く出会いたいものです。
紙の本
哀愁と皮肉に彩られた、人間そして人生そのものに、時として潜む残酷さ
2013/01/07 14:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ミルシェ - この投稿者のレビュー一覧を見る
とにかく当時の私に、鮮烈な読後感を与えた作品でした。
この本を読了したのは、だいぶ前になるのですが、まだ当時は、その時感じた印象を、上手く表現しきる語彙を自分の中に、持ち合わせていなかった事と、また、自分の中で感じたものを、上手く言語化できなかった所もありました。このため、今までこの作品の書評を書く事は、これまでできないままでした。
この短編群の内容を一言で言ってしまえば、十九世紀フランスのパリ周辺や農村などを舞台にした、「戦慄の残酷物語」になるのでしょうが、けしてそれだけには留まらない、様々な余韻を含んだ物語群だと思います。
最初は、確かに残酷で仄暗い感じの物語が多いなと思いましたが、読み進める内に、単に人間・行為自体の残酷さというよりも、不意に訪れる時がある、人生そのものの残酷さとでもいうようなものを、感じるようになりました。しばしば、その両方の要素を、兼ね備えているようなものも、混在していますが。また、人間そのものの不気味さ・怪奇を描いたものもあれば、実際に怪奇な類の話も、含まれています。
また、一口に戦慄といっても、本当に人間の悪意などに恐れ戦くようなものもあれば、(「或る精神異常者」・「犬舎」・「青蠅」・「暗中の接吻」など。)
時として訪れる人生の残酷さに、心震えるというようなものなども、あるような感じです。
(「幻想」・「孤独」・「碧眼」・「フェリシテ」・「小さきもの」など。)
また、やはり救いともなり、更に違う色合いを与えているのは、根底にあるペーソスと温もりだと思います。
「父」などは、哀しい中にも、どこか温かさが残る読後感でした。
また、私がこの主人公と同じ女性であるという事もあり、
この「フェリシテ」も、特に心に残る話の一つです。
思わず読んでいて、作者は男性なのに、何でこんなに女性の気持ちがわかるんだろう?と思ってしまいました。
また、「至福」という名を持つ、主人公のフェリシテが、本文の仲でも表現されているように、娼婦という、このような職業の垢とでもいうようなものに、どこか染まりきらない、一抹の清々しさを持ち合わせた女性だけに、あのラストは、より一層胸に迫るものがありました。
この短編には、人生そのものの残酷さというものの他にも、悪意なき残酷さとでもいうようなものも、感じました。
そして、そこがよけいに哀しい。
それから、解説の中でも指摘されていますが、
このルヴェルの作風は、どこかモーパッサンにも通じる所があると思います。これら一連の物語を、表層的に捉えてしまうと、登場人物に下層階級の人々が目立つ事から、こういう世界に生きる人々の悲哀を、
一見描いたもののように思われます。
この作品が書かれた時代背景も、ある程度は影響しているとは思われますが、しかし、やはり、これは短編というスタイルから、登場させる人物を、あえてこのように極度に類型化した上で、人生、人間の感情の機微など、様々なものを表現しようとしているという事でしょう。
自分が今のみじめな自分から、突如輝かしい、何か別の者になれたように思えた喜びも束の間、たちまち、そこから現実に引き戻される寂寥感、
不意にもたらされた僥倖、そして、なまじ思いがけず、それがもたらされてしまったがために、そんな喜びを知らないままで生きてきた時よりも、味わわされる、更により深い絶望、喪失感など、
現代でも十分に通じる、変わらない普遍性を帯びている
のではないかと思います。
紙の本
素晴らしい短編集
2019/11/28 00:39
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ねったいぎょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この短編集をどうとらえるかは人それぞれですが、私としてはただ単に不気味な話というわけではなく、純文学のような思想性を感じました。訳者が上手いということはあるのでしょうが、素晴らしい文章であり、読み進めるのがもったいないと思いました。少しずつ読んでいきたい、まさに名作です。
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毒の効いた短編集
2003/06/16 12:12
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sekt - この投稿者のレビュー一覧を見る
それぞれの話はごく短いものなのですが、オチに毒が効いてます。
人情味あふれるホロリとしそうな話の最後にほら、信頼を寄せた先にほら、裏切りの証しにほら……。
「こう終わると嫌だなあ」と思うような最悪の場面が目の前に繰り広げられ、闇を見つめているような気分に。
だから、夜鳥なんでしょうね。