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紙の本
限りなく広がる誰かの部屋が。
2008/11/23 17:54
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ばー - この投稿者のレビュー一覧を見る
人の住む部屋にはその人の個性が滲む出るもので、どんなにステレオタイプな見かけをしていても、その実、一部屋たりとも同じ部屋はない。どこかに違いはあるし、むしろ、だからこそこの本のような本が世に出る証明にもなる。
都築響一の『TOKYO STYLE』は、ページをめくる手が止まらなくなる一冊だった。どこまでも拡がる誰かの部屋、部屋、部屋。それらの部屋には、姿形が簡素でシンプルで、どれだけ非有機的であろうとも、誰かの息吹が必ず感じられたし、どれだけ煩雑で、汚く、足の踏み場が無くても、住んでみたくなる魔力に満ちていた。
この本の中の部屋に「清潔」という言葉が似合う部屋は少ない。むしろ、作者が触れているように、「カオス」、「混沌」という言葉が似合いすぎる部屋が過半を占める。
そのような意味で、この本は「インテリア・ブック」、「美術本」というジャンルからは大きく離れる。それはそのまま作者の意図通り、私たちに一般的な美、美術的な美とは違う、汚く、整理されてない美を思い起こさせることに成功している。
綺麗で整っていて、ソフィスティスケートされた空間だけが、部屋の理想ではない、という一つのアンチ・インテリアを示唆させるこの本の試みは、「少しでも自分の部屋をかっこよく見せたい」という私のような見栄っ張りインテリア初心者だけでなく、資本主義の世の中で自由に着飾る元・猿の私たちを強烈に罵倒しているように思える。かっこいい部屋が部屋の理想なのではなく、理想の部屋は、住みよい部屋=ありのままの部屋なんだ、と最も分かりやすい手段でこちらに伝達してくれる。その意思は猛烈に良い。
ともかく、個人的にもこの本は宝物だ。きっと何度も読み返すに違いない。読書中は、感傷のような感情がじっとりと胸にあった。懐かしくも温かい、だけど、私とはなんの関係もない、なんて楽しいことか、他人の部屋。ただ大量の本がある部屋が載っていたから買っただけなのだが、得した気分。
人の住む部屋は、棲む部屋なのであり、この本の中に出てくる部屋達が、とても懐かしく感じるのは、私にとってはきっと一生知らないであろう、踏み入らないであろう部屋だからなのか、満遍なくどれもが一過性に満ちている。この部屋達は紛れも無く一瞬の部屋達であり、知らない誰かの生活の1ページであり、カメラのシャッターを切ったそのすぐ後に紛れも無くこの部屋達は無くなる。文章も然り、なのだが、写真はそういう意味での「ある瞬間にとどまる瞬間」が限りなく儚い。写真としてモノは残るが、その向こうの対象はすでにない。現に、あとがきにもあるように、書籍化された当時においてすでにこの部屋の住人達は90%が引越しをしてしまっていたらしい。当然と言えば当然、だが、私はますます感傷を覚えた。
『TOKYO STYLE』と銘打って描かれた生活の一場面が、真実の『TOKYO STYLE』なのだ、と忘れずにいたいと思う。
紙の本
80年代への近過去トリップ
2003/03/15 10:11
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GG - この投稿者のレビュー一覧を見る
友人の高校教師に聞いた話だが、最近の高校生には親元を離れたいという意識が薄いらしい。理由は、携帯の普及やインターネットの浸透によって、どこにいても個になることができるようになったということらしい(それから不況の影響?)。しかし、私のような旧世代の人間には、十代後半で親元を離れたいと思わないなんて信じられない。大学の選択だって、学部・学科もさることながら、とりあえず親元を離れるために遠いところから考えはじめたりしたものだ。念のため、周囲の同世代に確かめたら皆同じような感覚を持っていた。
だから都会の一人暮しと、それに必然のように伴うビンボーというのは、憧れの対象ではあっても嫌悪の対象となることは決してなかった。松本零士の「男おいどん」を小学校高学年で読んで、将来はこんな生活をするのかなあと思ったし、いしいひさいちの「バイトくん」の頃はもう大学生で、実感をもちながら大笑いした。
そんな私にとって、この写真集はあの80年代を思い出すための格好の材料である。撮影されたの91〜93年なので80年代というのはちょっと違うが、あとがきで著者が書いている通り、若者の貧乏暮らしのありようなんて大体似たり寄ったりなのである。それでも音楽好きの住人の部屋には大きな違いがある。LPレコード(それからカセット・テープ)の存在に時代を感じてしまう。今の高校生だってアナログ盤の存在は知ってはいるだろうけど、あの一枚のLPを買うためにどれだけためらったり、迷ったりしたものか、そういう感情は想像がつかないのだろうと思う。
同世代の同好の士に、再発売された岡崎京子『東京ガールズブラボー』と一緒にお勧めします。プチ・ノスタルジーというところでしょうか。
紙の本
部屋というよりは住みか
2003/04/02 06:22
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:スピカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
他人の部屋には皆興味があるものだ。
自分も、時々周りのあの人のあんな部屋、こんな部屋を
想像しては楽しんでいる。
この本に載っているのは、部屋というよりは住みか。
その人が生活している息遣いのする空間。
起きたら起きっぱなしの寝床、
物が棚からあふれたらとりあえずファンシー
ボックスに詰め込んでしのいでいる独身男性の寝室、
バリバリのキャリアウーマンのスタイリッシュな部屋に
ひっそりと置かれるくまさんのぬいぐるみ…。
どこか憎めない、カッコ悪い住みかばかり。
その中途半端で今イチ垢抜けきれない住みかと同様、
とうてい完璧になんて転がってゆくはずもない
「生活してゆくこと」が、この本を見ると突如、
とてもいとおしくなる。
紙の本
不思議な写真集
2022/01/31 19:54
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とらとら - この投稿者のレビュー一覧を見る
どちらかというと、雑然とした狭い部屋の様子が並んだ写真集です。
生活感がありすぎるくらいの、ちょっと昔の、一人暮らしの男の部屋といったものが多いです。なぜか、いろいろと想像しながら眺めてしまいます。
紙の本
ありふれた“内面”たちがかたちづくる小さな空間
2004/01/24 00:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
書棚拝見、といった類の写真を見るのが、昔から好きだった。著名人であれ無名人であれ、誰かが、少なくとも一度は手に取り、目を通し、もしかしたら高揚し涙したかもしれず、沈思し玩味したかもしれない、そういった書物が整然と、あるいは雑然と、ただそこに並べられ重なりあっているだけの、しかし当の本人は不在の、写真を眺めているうち、なぜかしら、けっして足を踏み入れたり、視線をそよがせることのかなわぬ、他人の“内面”に入り込んだような気にさせられる。それは書物だけのことではなくて、机であれベッドであれ、衣類や雑貨や電気器具であれ、はたまた灰皿や屑カゴやマネキンであれ、およそ不在の主との“関係”の痕跡を色濃くとどめた“物”たちのつくりあげる、動かし難い不動の配列そのものが、確固たる“内面”を、ひっそりとそこに立ち上げている。都築響一さんが“スタイル”と言うのは、そのような、どこにでもあって、ありふれた“内面”たちがかたちづくる、小さな空間のことだ。