紙の本
神から自然へ
2006/05/07 22:53
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
本シリーズは、物理学史でほとんど省みられることがなかったという、中世ヨーロッパの磁力観について、数々の文献による根拠を挙げながら、当時の思想的・歴史的背景を交えて解説している。本書はその第2冊で、ルネサンスの前期と後期における”魔術”の変遷と磁力の関係についてふれられている。
ルネサンス期に生じた学問の変化の理由として挙げられているのが、印刷術の普及と大航海時代である。前者は利潤追求の観点から、それまでの学術言語であったラテン語から、読者層の多い自国語の文献の増加を招いた。後者は観測点の増加の観点から、これまで盲信されてきた古代の文献の権威低下を招いた。
これらの転換点を境に、同じ不可思議な磁気現象にもかかわらず、神・天使・悪魔など外因によってもたらされると考えられていたものが、自然の内因に起因するとみなされるようになった。また、思弁的文献的現象論が、実験的現象論に変化し、近代物理学への道を開くことになる。
これを読んでちょっとでも興味を引かれた方は、ご一読いただかれてはいかがでしょうか。
紙の本
「魔術」こそが科学への道
2004/05/15 22:02
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る
磁力の概念をめぐってのヨーロッパにおける言説を分析することで、近代科学の始まりを準備したものを解き明かす、という壮大なテーマで展開される「磁力と重力の発見」第二巻。
冒頭、磁力をいかに研究するかという方法について決定的転換をなしたという、ニコラウス・クザーヌスが登場する。彼が提示したのは、磁力の強さを数値化することであった。その提案は、いままでの磁力の本質、原因のみを追及していく本質論的磁力論と一線を画し、数値化し法則化することによって数理科学としての近代物理学への道を切り開くものであった。しかし、その後ルネサンス期においては、魔術思想の普及とともに、世界を象徴的なものとして捉える見方が優勢となり、定量的測定という近代物理学への道はデッラ・ポルタの登場まで持ち越されることになる。
そして二巻ではおもにルネサンス期の言説にスポットが当てられることになるのだが、ここで前面にせり出してくるのは「魔術」である。「魔術」と「科学」とは一見鋭く対立する要素のように思われるが、本書では両者に密接な関係があるという。
ルネサンス期において「魔術」は、超自然的な霊魂、奇跡などの関与において行われるもの(ダイモン魔術)と経験的、実践的な技術として自然のメカニズムを利用するもの(自然魔術)とに峻別される。そしてその「自然魔術」がルネサンスをまたいで「経験的で数学的でかつ実践的な」傾向を持ち始めてくるのである。
この動きと軌を一にして、ラテン語による教会独占の知のあり方が、各国語つまり俗語での出版、翻訳を通じて革新されていく。結果、その実践、実験がそれまで行われてきた「旧態依然とした書物偏重の知」を脱却する契機となり、それまでの千数百年のあいだ信じられてきた俗説、迷信の類をはっきりと否定していくことになる。
「自然魔術」は「錬金術」という言葉でイメージされる超自然的な能力をもたらすものではなく、自然にある力をいかに使うかという技術へと変貌する。
本書末尾において磁力研究に決定的な転換をもたらしたと見られるデッラ・ポルタについて本書ではこうある。
「磁石をめぐる古代からの言い伝えの多くを実際に実験することによって否定し、こうして文献魔術から実験魔術への転換を成し遂げ、磁石にまつわるいくつもの迷信を過去のものとしたのである。そして自然認識にたいする中世的な秘匿体質から脱皮し、魔術の脱神秘化、大衆化をはかったことにおいても、『自然魔術』は近代科学を準備するものであった」
「魔術」思想から現れた方法が、クザーヌスの方法を受け継ぐ形になって、近代科学への道をひらいたという指摘は面白い。機械論的な接触などによる運動だけを信じる立場(こちらの方が近代的な見方に見える)からすればあり得ないものである「磁力」は、魔術思想の側からすればあり得べき現象であり、そうして肯定的に捉えたことで、より科学的な方法は「魔術」の実践から生まれたということだろう。
紙の本
「自然魔術」という触媒の役割
2003/07/09 12:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:三中信宏 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第2巻は〈魔術〉が中心テーマとなる.「魔術」と聞いて後ずさり
する読者はきっと少なくないだろう。しかし,この巻こそ,全体の
中でもっとも刺激的かつおもしろいと私は感じる.いわゆる〈暗黒
の中世〉からルネサンスを経て,近代の科学に連なる系譜を考える
とき,さまざまなタイプの〈魔術〉とよばれる「技芸」があったわ
けで,著者はその中でも遠隔作用としての「磁力」は〈魔術〉その
ものであったことを指摘する.しかも,〈魔術〉の発展とともに進
んできた「実験的手法」と「経験的思考」は,その後の近代科学が
育つ揺籃であったことを著者は示す.
第10章では,この〈魔術〉に光を当てる.ルネサンスにおける
〈魔術〉の復権は,人間が自然を支配できるとみなすルネサンスの
人間中心主義の精神のもうひとつの発露であると著者は言う(p.34
3).もちろん,もともとの〈魔術〉は超自然的な霊(ダイモン)
によるとみなされる行為だが,クザーヌス以降,そのような〈ダイ
モン魔術〉とは別個の〈自然魔術〉が登場してくる(p.348).著
者はこの〈自然魔術〉がその後の科学に与えた影響を「力」概念の
史的検討を通して調べる.遠隔力という〈隠れた力(virtus
occulta)〉をあやつるという点では同一であっても,宗教的な
〈ダイモン魔術〉と定量的な〈自然魔術〉とは異なっている(p.37
0)という著者の主張は,その後の章でも繰り返し述べられる.
第15章では,ルネサンス後期の自然魔術を論じる.〈隠れた力〉
も最終的には自然的原因に帰着されるのであって,ダイモンのよう
な超自然的原因をもちだすのはまちがっているという見解(p.51
7)は,「自然主義的で技術的な魔術観」(p.524)をもたらす.現
代の多くの読者にとっては,「魔術」と「科学」の並列は違和感が
ぬぐえないが,本書でいう〈自然魔術〉はほとんど【実験科学】と
同義であるといってよいことに読者は気付かされる.
欲を言えば,ここでも中世の形而上学(存在論)との関わりに言及
があってほしかった.なぜ「本質」を求める実念論的姿勢が中世の
スコラ学に広まっていたのか.対立する唯名論の立場はどうだった
のかとか.アリストテレス的な演繹主義が本質主義をベースにして
いたことは事実だろうし.いずれにせよ,演繹的なスコラ学と超自
然的な〈ダイモン魔術〉を両極端としたとき,非演繹的でしかも実
験に基づく〈自然魔術〉がその内分点に位置するという著者の主張
は説得的だ.
第16章は,デッラ・ポルタのベストセラー『自然魔術』(1558)
をとり上げる.タイトルとは裏腹に,ほとんど「博物誌」に近い内
容をもつとされる本書は,「思弁的な文献魔術から実証性を重んじ
る実験魔術への転換」(p.571)を遂げたという点で画期的な書物
でありとくに,デッラ・ポルタの磁石研究は後世の歴史家がことごとく
見逃してきたが,その内容は続く時代の先鞭をつけたものにほか
ならないと著者は言う.
この章の終わりの部分で,著者は〈魔術〉と〈科学〉のちがいをま
とめている(pp.599ff.).〈魔術〉の秘匿性に対する〈科学〉の
公開性という対比は,実はそれほど正確ではなく,むしろ初期段階
では〈魔術〉も〈科学〉もともに公開性と秘匿性を併せもっていた
と考えるべきだろうと著者は言う(p.601).科学の裾野が広がる
につれて,出版や教育を通じて秘匿性がしだいに消失し,世俗的に
なっていったというのが著者の意見である.
(第3巻に続く)
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第9章:ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化 305
1. ニコラウス・クザーヌスと『知ある無知』 305
2. クザーヌスの宇宙論 310
3. 自然認識における数の重要性 316
4. クザーヌスの磁力観 326
第10章:古代の発見と前期ルネサンスの魔術 333
1. ルネサンスにおける魔術の復活 333
2. 魔術思想普及の背景 341
3. ピコとフィチーノの魔術思想 346
4. 魔力としての磁力 354
5. アグリッパの魔術——象徴としての自然 358
第11章:大航海時代と偏角の発見 372
1. 「磁石の山」をめぐって 372
2. 磁気羅針儀と世界の発見 380
3. 偏角の発見とコロンブスをめぐって 388
4. 偏角の定量的測定 395
5. 地球上の磁極という概念の形成 403
第12章:ロバート・ノーマンと『新しい引力』 412
1. 伏角の発見 412
2. 磁力をめぐる考察 423
3. 科学の新しい担い手 430
4. ロバート・レコードとジョン・ディー 434
第13章:鉱業の発展と磁力の特異性 444
1. 十六世紀文化革命 444
2. ビリングッチョの『ピロテクニア』 451
3. ゲオルギウス・アグリコラ 458
4. 錬金術に対する態度 467
5. ビリングッチョとアグリコラの磁力認識 472
第14章:パラケルススと磁気治療 481
1. パラケルスス 481
2. パラケルススの医学と魔術 491
3. パラケルススの磁力観 496
4. 死後の影響——武器軟膏をめぐって 502
第15章:後期ルネサンスの魔術思想とその変貌 510
1. 魔術思想の脱神秘化 510
2. ピエトロ・ポンポナッツィとレジナルド・スコット 515
3. 魔術と実験的方法 524
4. ジョン・ディーと魔術の数学化・技術化 531
5. カルダーノの魔術と電磁気学研究 543
6. ジョルダノ・ブルーノにおける電磁気の理解 551
第16章:デッラ・ポルタの磁力研究 559
1. デッラ・ポルタの『自然魔術』とその背景 559
2. 文献魔術から実験魔術へ 568
3. 『自然魔術』と実験科学 574
4. 『自然魔術』における磁力研究の概要 578
5. デッラ・ポルタによる磁石の実験 585
6. デッラ・ポルタの理論的発見 594
7. 魔術と科学 599
注 [1-18]
投稿元:
レビューを見る
(2004.04.15読了)(2004.02.28購入)
●ニコラウス・クザーヌス(1401-1464)
神についで宇宙をも無限ととらえている。地動説と無限宇宙論の展開の先取り。
(文章を強引に要約すると)「地球を宇宙の固定した不動の中心とする事は不可能である。中心でありえないところの地球が、どんな運動にも欠けている、ということはありえない。」
地球が動いていることが日常の感覚に感知されないことに対しては、
「われわれが運動を把握するのは、固定点との比較による以外には道がない。水の真中に浮かぶ舟の中に座を占めていて、水が流れるのを知らず、両岸を見ないならば、どのようにして舟が運動しているのを把握するであろう。」
と運動の相対性を主張している。地球の絶対静止の否定が、近代的な世界像への一歩。
アリストテレスの宇宙論では「地球上で見られる重量物体の落下を宇宙の唯一の絶対的中心に向かう自然運動と見る」。クザーヌスは「地上では重量物体が地球に向かって落下し煙が地表から離れてゆくのと同様に、太陽表面でもその他の星でもそれと同じ現象が見られる」と主張する。(万有引力の法則へ)
クザーヌスは宗教を相対化し運動を相対化し位置を相対化し、そして天体を相対化した。
「どんな探究も比を媒介として用いるがゆえに比較的な探究である」と主張し、自然法則の数式化へと繋がる。磁力強度の定量的測定も提案している。
●自然魔術
「一般に魔術は二種類ある。一方はダイモンに頼り、他方はダイモンに頼らない」「ダイモンに頼らない魔術を自然魔術」という。自然魔術は、自然的理由で説明できる。
フィレンツェのマルシリオ・フィチーノ(1433‐1499)と
ネッテスハイムのコルネリウス・アグリッパ(1486頃‐1535)が主に紹介されている。
離れたものの相互作用の可能性は、磁石と琥珀の事例を基に述べられる。
「自然界は諸事物とその相互作用からなり、人は観察を通してその力を知ることができるという魔術思想が、万有引力の概念を準備した。」
●偏角の発見
【偏角】地磁気の水平磁力の方向と子午線のなす角。すなわち、磁針の指す北の方向と地理学上の北の方向のなす角。「大辞林」より
偏角の発見は、コロンブス以前ということだが、いつごろかは確定できない。いずれにしても、ラス・カサスの編纂した「コロンブス航海誌」(岩波文庫、1977年)の中に偏角についての記述がある。偏角の発見によって、磁針の志向性が天に由来するものではなく、地球に起因するものであるという認識に導かれてゆく。
磁針の指す点を地球上に置き磁極という概念を提唱したのは、地図の投影図法で有名なオランダの数学者のメルカトール(1512-1594)である。1546年2月23日の手紙の中で述べている。
●伏角の発見
磁針が水平線となす角を伏角といい、これがゼロではないことを発見した。
発見者は、ドイツ人ゲオルク・ハルトマンとイギリス人ロバート・ノーマン。
ドイツ人ゲオルク・ハルトマンは、1544年の手紙の中で、針を磁化させると水平にならず9度前後下向きに傾くと述べている。この手紙の公表は、1831年ということなので、一般に知られてはいない。
イギリス人ロバート・���ーマンは、1581年に「新しい引力」という本を著し、その中で伏角の精密な測定とそれに関する考察を述べている。後世に与えた影響からするとノーマンのほうに軍配が上がるだろう。実験とその観察に基づいて著したという点でも近代科学につながってくる。
●16世紀文化革命
ラテン語主流の出版から、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、オランダ語等の俗語書籍の出版が技術者・職人によって行われるようになってきた。印刷技術がヨーロッパ全域に広まった結果である。書籍は修道院、大学から、一般の読者へと広がった。
●ジェロラモ・カルダーノ
ミラノ生まれ。三次方程式の解の公式の提唱者。数学的確率論の創始者。
自伝には、「あらゆる物を観察することで、自然においては何事も偶然には起こらないと思った。」と書いているが「占星術はもとより夢占いや守護霊といったものも信じていた。」
1551年に出版した「微細なものについて」の中で、「自然運動には4種類ある。第一は真空忌避による空気の少ないほうに向かって吸い込まれる運動、第二は高圧によって押し出される運動、第三は重い物体の下方の運動と軽い物体の上方への運動、第四がヘラクレスの石(磁石)と鉄および琥珀と麦藁の間に見られる相互運動である。」といっている。
現代の見方では、大気の力、重力、電磁力ということになる。
静電気力の要因は摩擦それ自体ではなく、摩擦に伴う熱に帰せられている。
静電気力と磁力の違いについては、「琥珀は軽いものであればなんでも引き寄せるが、磁石が引き寄せるのは、鉄だけである。間に遮るものがあれば琥珀は籾殻を引き寄せなくなるが、磁石の鉄に対する引力は同様にしても妨げられる事はない。琥珀が逆二籾殻に引かれる事はないが、磁石は鉄に引かれる。」と述べている。
●ジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ
ナポリ生まれ。1535頃-1615。1989年に「自然魔術」全20巻をナポリで出版。ケプラーやフランシス・ベーコンもこれを読み、ニュートンの蔵書にも含まれていたという。
磁石について、「磁石には相反する二つの極があり、それぞれが北と南を指す。磁石を分割してもそれぞれ必ず両極を持つ。磁力はその両端の極で最も大きい。磁石どうしを接触させても磁力が変化しない。磁石の異なる極は引き合うが相反する極は反撥する。」ことが語られている。記述が具体的なので、自分で実際に実験した結果に基づくものと判断される。
多くの迷信についても実験で確かめている。「にんにくを塗られた磁石はその力を失う。ダイヤモンドが磁石の力を妨げる。雄山羊の血がダイヤモンドを破壊する。雄山羊の血が磁力を回復する。」というような事はないことが記述されている。
デッラ・ポルタの功績は、「力の作用圏」という重要な概念の創始者ということ。
「磁石の力はその位置から広がり、磁石により近ければそれはより強く引きつけ、遠くなるにつれて弱まり、そして十分遠くになれば力は完全に消滅し何も作用しなくなる。その力の及ぶ範囲を力の作用圏という。」
磁力の強さを定量的に測定する手段を考案している。測定結果を公式にすれば近代科学へと繋がってゆく。
☆関連図書(既読)
「磁力と重力の発見1 古代・中世」山本義��著、みすず書房、2003.05.22
(「BOOK」データベースより)amazon
古代以来、もっぱら磁力によって例示されてきた“遠隔力”は、近代自然科学の誕生をしるしづける力概念の確立にどのように結びついていったのか。第2巻では、従来の力学史・電磁気学史でほとんど無視されてきたといっていいルネサンス期を探る。本書は技術者たちの技術にたいする実験的・合理的アプローチと、俗語による科学書執筆の意味を重視しつつ、思想の枠組としての魔術がはたした役割に最大の注目を払う。脱神秘化する魔術と理論化される技術。清新の気にみちた時代に、やがてふたつの流れは合流し、後期ルネサンスの魔術思想の変質―実験魔術―をへて、新しい科学の思想と方法を産み出すのである。
投稿元:
レビューを見る
前著古代編からの続編。
時代はルネサンス。科学が現在の科学に近づくきっかけとなった時代である。
が、まだ磁力と重力の今日的な理解には程遠い。ルネサンス時代の特徴として、
1.哲学とりわけ神学からの科学の脱却
2.現象論からの性質の理解
が古代とこの時代の分水嶺であるように思われる。
前著に引き続き、哲学的な要素も取り入れた文章の深さには筆舌に尽くし難い。
投稿元:
レビューを見る
・ケプラーの観測事実から万有引力が数学的に導き出され、この公式で様々な運動が説明されれば、万有引力の正しさは証明される。
第3巻 p.860
投稿元:
レビューを見る
磁力と重力、という観点から科学哲学史を紐解く本です。本書第二巻は、中世を脱し近代にさしかかるルネッサンスが舞台です。以下は本文を読んで思った感想です。必ずしも本書の内容と一致しているわけではありませんが、いろんなことに思いを馳せずにはいられませんでした。 * * * * *この時代の大きな特色としては、以下があります。 1.大航海時代 2.魔術の時代いずれも磁力、磁石というものが大きな意味を持ちます。この時代になり、ようやく人々は古典からではなく、自然の観察から知識をつむぎだすことに意義を認めるようになります。 ・ルネッサンスという時代の空気のなせる業だったのか ・大航海時代によるビジネスの急激な拡大が、高度に合理的な判断を要請したのか ・教会の支配力低下、人々の魔術への傾倒によるものか →イスラム圏からの魔術(錬金術=化学、数学、技術、etc...)の影響は?こんな中で、遠隔力を作用させる磁石というものはきわめて特異な存在だったものと思われます。こんなグッチョグチョの坩堝のような状況から、近代合理精神の粋である科学が、一歩ずつ成長する様が確認できて、非常に興味深いです。本書の著者の慧眼と博識に脱帽です!
投稿元:
レビューを見る
本シリーズは、物理学史でほとんど省みられることがなかったという、中世ヨーロッパの磁力観について、数々の文献による根拠を挙げながら、当時の思想的・歴史的背景を交えて解説している。本書はその第2冊で、ルネサンスの前期と後期における”魔術”の変遷と磁力の関係についてふれられている。
ルネサンス期に生じた学問の変化の理由として挙げられているのが、印刷術の普及と大航海時代である。前者は利潤追求の観点から、それまでの学術言語であったラテン語から、読者層の多い自国語の文献の増加を招いた。後者は観測点の増加の観点から、これまで盲信されてきた古代の文献の権威低下を招いた。
これらの転換点を境に、同じ不可思議な磁気現象にもかかわらず、神・天使・悪魔など外因によってもたらされると考えられていたものが、自然の内因に起因するとみなされるようになった。また、思弁的文献的現象論が、実験的現象論に変化し、近代物理学への道を開くことになる。
これを読んでちょっとでも興味を引かれた方は、ご一読いただかれてはいかがでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
12世紀のアリストテレス再発見から、スコラ哲学を超えて、アリストテレスを否定していくための実験精神として、ルネサンスを準備したプラトニズム、ヘルメス主義、錬金術、を通した「自然魔術」があったこと、とても面白い。
アリストテレスの凄さは、アリストテレス的精神によってアリストテレスを否定できたこと、と思ってたけど、訂正が必要だ。
アリストテレス的精神は、スコラ哲学として固着してしまっていた。そこに自然魔術的な発想、自然を観察して真実を明かしていくことが加わっていく。
また、出版によって、隠されてた知識が広く公開されたことでら職人達が数学などを学んだこと。
そういったことが相まって、近代科学の萌芽となったこと。
ちょっとまだ整理しきれてないけども、おおよそそんなあたりのこと。凄いよね。コーフンする!
ルネサンスのうねりを感じる
投稿元:
レビューを見る
ニュートンは誰の肩に乗っていたのか。
確かにルネサンスにおいて見出されたのは、長い中世よりもはるか過去のギリシャ全盛期であったが、
語られなかった時代に進歩が何もなかったというわけでは決してない。
世界を支配していた『宗教』からある日突然『科学』が産まれるわけはなく、
術式を用いて再現性のある現象を発生させる『魔術・錬金術』が間に挟まる。
そう。これはファンタジー世界ではなく、現実世界における『魔術・錬金術』とは一体なんであったのかを解き明かす本とも言える。
前巻で語られたのが、謎の力である"磁力"を当時の論理でこじつけて説明していた時代の話だとしたら、
本巻は、わからないものはわからないとして、その効果を考える段階に至った話だろう。
科学の前段における錬金術・自然魔術において、その一歩となったのは力の数値化であった。
十五世紀にニコラウス・クザーヌスが磁力を重さとして計測したのと同じ頃、
航海技術の進化によって、誤差に悩まされながらも各地における方位磁石の偏角と伏角が測定される。
一方で、傷口ではなく傷つけた刃の方に薬を塗れば治療できるとした武器軟膏という怪しげな錬金術もあったが、
その原理不明な遠隔作用を、天体の重力や磁石の偶力と比較して否定できる論理はなかった。
占星術は観測技術の進化によって、天体が地上物体に影響を及ぼす力を考える天文学に繋がり、
洞窟は金属を生育させるという錬金術的発想は、地球の自己運動、活性的存在である物質としての見方を生み出す。
かように、生物学的な進化というものがそうであるように、科学の進化も決して直線的ではなく、
その時代に適応した結果、次へつながるものと、そうでないものを産み出して行く。
本書は、未だ科学に至らないデッラ・ポルタの自然魔術論で一旦幕引ける。
数々の迷信が実験によって否定され、得た知見を広く公開することで脱神秘化・大衆化がなされ、
定量的測定と力の作用圏の概念により、数学的関数で表される力という近代物理学への端緒は開かれた。
科学に至るまでの道は整った。次巻に続く。
投稿元:
レビューを見る
時代はルネサンスに移り、キリスト教の桎梏を脱した技術者や魔術師が、近代科学のお膳立てをしていく様子が描かれる。
投稿元:
レビューを見る
第九章 ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
1 ニコラウス・クザーヌスと『知ある無知』
2 クザーヌスの宇宙論
3 自然認識における数の重要性
4 クザーヌスの磁力観
第十章 古代の発見と前期ルネサンスの魔術
1 ルネサンスにおける魔術の復活
2 魔術思想普及の背景
3 ピコとフィチーノの魔術思想
4 魔力としての磁力
5 アグリッパの魔術——象徴としての自然
第十一章 大航海時代と偏角の発見
1 「磁石の山」をめぐって
2 磁気羅針儀と世界の発見
3 偏角の発見とコロンブスをめぐって
4 偏角の定量的測定
5 地球上の磁極という概念の形成
第十二章 ロバート・ノーマンと『新しい引力』
1 伏角の発見
2 磁力をめぐる考察
3 科学の新しい担い手
4 ロバート・レコードとジョン・ディー
第十三章 鉱業の発展と磁力の特異性
1 一六世紀文化革命
2 ビリングッチョの『ピロテクニア』
3 ゲオルギウス・アグリコラ
4 錬金術に対する態度
5 ビリングッチョとアグリコラの磁力認識
第十四章 パラケルススと磁気治療
1 パラケルスス
2 パラケルススの医学と魔術
3 パラケルススの磁力観
4 死後の影響——武器軟膏をめぐって
第十五章 後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
1 魔術思想の脱神秘化
2 ピエトロ・ポンポナッツィとレジナルド・スコット
3 魔術と実験的方法
4 ジョン・ディーと魔術の数学化・技術化
5 カルダーノの魔術と電磁気学研究
6 ジョルダノ・ブルーノにおける電磁力の理解
第十六章 デッラ・ポルタの磁力研究
1 デッラ・ポルタの『自然魔術』とその背景
2 文献魔術から実験魔術へ
3 『自然魔術』と実験科学
4 『自然魔術』における磁力研究の概要
5 デッラ・ポルタによる磁石の実験
6 デッラ・ポルタの理論的発見
7 魔術と科学