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マルドゥック・スクランブル The First Compression−−圧縮 (ハヤカワ文庫 JA)
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紙の本
定形外フェアリィテイル
2006/07/28 01:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:*K* - この投稿者のレビュー一覧を見る
規定の型を外れているのは、その描かれた世界の未来的な様相の所為ではない。
鼠でも何でも良いが、哀れな姿に身を窶した王子が不運な少女の随伴者となり、知恵だとか、無力ながらに不思議な技をもって旅を支え、苦難に耐え、悪い魔法使いか何かを滅ぼして幸福に結ばれる。
おとぎ話というのは、そうしたものでは無かったか。
少女は幼い娼婦。
黄金の鼠は人語を解し、様々な道具に姿を変える。魔法では無く科学によって、ではあるが。
そして、悪い魔法使い…あるいは、邪な王、醜い悪魔であるべき男。
ただ善良であるだけで道が開け救いの手が差し伸べられる、おとぎ話の殻を割ってみれば、少女娼婦の名に選ばれた孵りかけの雛鳥がグロテスクにこぼれ落ちる。
現実と変わらず、一切が勝手良く片付けられることはなく、問題は常に不完全に解決する。すべてが、希望だけで上手く運ぶことなど無い。教訓にもならない、有り触れた光景の描写である。それが魔法の世界と変わらない、どこか見慣れた光景も残した未来世界であるとしても。
鼠は、詰まるところ鼠に過ぎない。
少女は、少女に過ぎない。
魔法使いは万能ではない、そうであれば、導く者や少女が希望を抱くことさえも無く、万事が彼の思いのままに済むのだから。
世界や人々や正義や理想のためではなく、少女は少女自身のために戦った。
幸福の幕の陰に、あらゆる実際が翳ることもなく、装飾を払ってみれば、あまりに身近で現実的な骨子を露に、悲しみや後悔を抱いて、それでも勝って生き残るための、おとぎ話に似た物語。
紙の本
火柱は反撃の狼煙。もう逃げない。育ち、奪還し、回復する。
2004/01/09 22:30
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3307 - この投稿者のレビュー一覧を見る
その世界は、たとえ唯一無二の存在ではあっても、
四次元を従えたネズミ型万能兵器が居るくらいには突飛で、
被害者がやがて加害者になる暴力の連鎖が存在する程度に身近。
・ルーン=バロット
感じた痛みを自分から切り離し、やり過ごしてきた少女。
・ウフコック=ペンティーノ
肉体はマスコット、ハートは二枚目。ネズミ型万能兵器。
・ドクター・イースター
ハカセ。役どころは「おやっさん」。飄々とクール。
・ディムズデイル=ボイルド
最強の刺客、バロットたちの追っ手。立ちふさがる壁。
・SFのお楽しみ、思わず欲しくなるアイテムの数々。
・物語の構造は、複数の童話モチーフを散りばめて普遍と接続。
・姑息・サイコ・大人物。敵役も充実、勢いもスリルも完璧。
本書の魅力を挙げれば切りがないけれど、
私にとって、これらの要素も世界も何もかも全ては
上記4人のためだけに用意された、化学変化用のシャーレ。
シンプルなルールが美しく機能するから、ご都合主義は混ざらない。
おとぎ話もRPGも、さらわれた姫は救出を待つことが多いけど、
我らがヒロイン バロットは、自分を自分の手で取り戻す。
剣の代わりにウフコックを肩に、復讐活劇の旅路を行く。
■ 「そいつは良かった」
■ ドクターはいったんウフコックから目を離し、しみじみと
■ コーヒーをすすった。
■ 「何が良いんだ、ドクター?」
■ 「マリッジブルーって知ってるか、ウフコック」
■ 「なんだ、それ」
■ 「一度決めたことに対して、ぐだぐだぬかすことさ。個人的な感情が
■ どうとか、自分は大丈夫なのかとか、何が必然で何が偶然なのかとか、
■ そういったことをだらだら考えるんだ」
■ 「俺がそれだと?」
■ (2巻・P189より引用)
生き延びるために殻をまとったバロットの閉じた世界を薄く包み、
辛抱強く声をかけ続けるウフコックは、彼女のためだけに存在する孵卵器。
生まれ直す卵、温め続けるウフコック。彼らをずっと見ていたい一冊。
紙の本
SF大賞受賞作として
2004/03/01 14:37
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:san - この投稿者のレビュー一覧を見る
実は−5星なんです。この本の評価。
・軍事…
・コンピュータの仮想現実
・美少女もの
・M系の女の子
という4つの流行を持込んだ作品です。
#“げてものおたくSF”ですね…これは。
いろんなSFが出て、今、この世界は絢爛豪華な新人がいっぱい。
にもかかわらず、本書を早川文庫のJAに入れる編集者の勇気を尊敬
します。
星雲賞といえば、取れそうで取れなかった優秀な作家も数知れず。
同じような軍事系の色を出した神林長平さんの作品とかと比べる
方が悪いのかも。
文章自体は、それなりなのに、この違和感はなんだろう?
やはり星−(マイナス)5の作品です。
紙の本
純情、戦場、過剰に気丈
2009/01/10 15:29
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
大きな長い戦争があり、そこには人間にはコントロールできないような科学技術が級数的なスケールでつぎ込まれた。兵士も市民もぼろぼろになり、秩序も倫理もまったく様相を変えてしまった。そんな中で生まれ育った子供達と、戦争で大切なものを失った人々の物語だ。
悪夢のような科学技術は封印されたが、その幻影は今も少しずつ社会を蝕んでいる。再構成された世界には無数の陥穽が残っており、そこに落ち込んだ者はただ奪われるだけの存在に成り果てるしかない。大きな虚無感だけを抱える少女の自分の生を取り戻そうとする戦いは、あまりにも過激で、過剰だ。そうすることで、時代の喪失したものをすべては取り戻すのだとでもいうほどに。たぶん社会のネットワーク化が進むことで、人間関係は拡大し、より濃密になり、流通し詰め込まれる情報=意識は溢れ返り、その分だけ、失った時に空く穴も拡大していくのだ。押しつぶされるほどの物質=商品の圧力が消えると、自分の肉体までも拡散してしまいそうな不安が襲いかかるのだ。まるでゲーム機を取り上げられた子供や、ケータイを失った若者に、始めから無かったものと思えば、などと言ってもなんの慰めにもならないように。
ITやバイオ、脳科学から、反重力、亜空間といった超現実的なものまで、無数のガジェットが散りばめられてはいるが、人間を取り巻く環境の濃密化が既にスタートを切ってしまった現代の延長線上に過ぎない。例えば少女は成長し、あるいはパートナーを獲得し、痛みを乗り越えるかもしれない。しかしそれがおとぎ話であることは了解の上で、結末に辿り着く過程での過剰で執拗な描写の連続こそが、僕たちの行く末に待ち構える、新たなタイプの喪失による底知れない孤独への不安の噴出ではなかろうか。
デジタルテクノロジーと肉体感覚の融合によって危機を乗り越える少女の姿は、融合自体を恐怖と見立てる未来予見とは異なり、疎外される人々の脱出口をそこに見る痛々しいまでの共感が背後に感じられる。銃撃戦で、フェチズムとの対決で、確率とローテクの支配するカジノでと、トーナメント表を勝ち上がるように登っていく行く道のりは、現代人の目前にある「天国への階段」そのもののように見える。
紙の本
カジノシーンが秀逸
2004/07/24 23:17
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:早秋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
勢いがあって全3巻を読みとおしてしまう。凄い。
私はSFという冠がついたものを余り読まないのだが(ごめんなさい、偏見ですね)これは違和感なく読めた。
作者の筆力やしっかりとした世界観、人物の魅力のお蔭かと思う。
なんといっても圧巻はカジノシーン!
描写が秀逸。
このシーンを読みたいがために、何度も最初から読み返した。
読むか否か迷っている人で、カジノに興味があるなら読むべし。
このカジノシーンだけでも読む価値がある。
SFに対するとっつきにくさが緩和されたかも知れない。
なににせよ、こんな作品があることに感謝。
紙の本
工藤進監督映画化原作
2016/04/15 18:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
舞台となる未来都市は高度に文明が発達しているが、どこか重苦しい雰囲気がある。そんななかでも、死んだはずの肉体に命を与えられた少女の生命力には圧倒された。
紙の本
金属の肌をまとった少女のスタイリッシュなバイオレンスアクション
2003/08/13 05:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Okawa@風の十二方位 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『「綺麗にしてやる、俺が綺麗にしてやる」そう言い残して男は少女を置き去りにした。燃え盛る車の中で少女娼婦バロットはつぶやく、「何故わたしのなの?」 炎が少女を燃えつくす前にバロットを救い出したのは、一人の男と金色のネズミだった。
再び生きるチャンスをつかんだバロット。魔術にも等しい技術で金属の肌をまとい、あらゆる武器へと姿を変えられる生体兵器ウフコックを相棒に、少女は自分を焼き殺した男シェルを追う。追うものと追われるもの、暴力の嵐は街に、ビルに、そしてそれぞれの心の中にも吹き荒れる。冲方丁が描くスタイリッシュなバイオレンスアクション!』
(全三巻読了後の書評です)
かっこいいです! 重力を制御する魔人のようなミリタリー・ガイや、犠牲者のパーツを自らに移植する殺人狂達。彼らに立ち向かう少女バロット。金属の肌で体を覆い、生体兵器ウフコックの銃を撃つ戦闘シーンは実にハードボイルド!
しかし、それだけがこの作品の魅力ではありません。スタイリッシュなバイオレンス作品というのは、かっこはよくても心の内面に触れない場合が多く、逆に内面の描写をするとキャラがじめじめしてかっこよくなくなるというジレンマをかかえています。しかし! この作品ではパワー(暴力)を使うことの恐れと葛藤をテーマをしながら、スタイリッシュな雰囲気をなくしません。キャラ達の名前が表しているように、外見が硬ければ硬いほど中身は柔らかい、力をふるう者ほどその実恐怖に追い詰められている、そんな内面の葛藤がストーリーの中に良く織り込まれています。
全三巻中ほとんど一巻分使われたギャンブルのシーンもユニーク。むしろギャンブルの駆け引きの中にも、そんな葛藤のテンションが見事に表されています。葛藤を乗り越える自らのスタイルを身に着けたギャンブラー達も登場、バロットを導いていきます(キャラ的にはむしろこっちの方が立っているかも(笑))。虐げられるものから虐げるものへ、パワー(暴力)を手にしたバロット。彼女が戦いの末に最後にたどり着いた場所、マルドゥック(天国への階段)にあなたは何を見出しますか?
冲方丁が描く「少女と敵と武器」の物語。ディープなテーマを良く煮込んだスタイリッシュなバイオレンスアクションです!
(第1巻圧縮では、バロットとウフコックの出会いとバロットの力への目覚めが中心です)
紙の本
君は死してダイヤとなるのか?
2003/06/18 14:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:成瀬 洋一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
パトロンによって焼き殺されるところだった少女を救ったのは、戦争によって生み出された禁断のテクノロジーだった。手術を施したドクターは、緊急措置として用いられた技術が合法になるか非合法になるかは、彼女次第だと告げた。そして彼女の傍らには常に金色のネズミの姿があった。やはり戦争によって生まれた禁断のテクノロジーの産物であり、高い知能を持った変幻自在の兵器だ。彼もまたその存在が合法と非合法のはざまで揺れ動いている。
少女は自分を殺そうとした男たちと戦わねばならない。法廷で相手方の弁護士と、そして市街で敵の放った殺し屋たちと。
面白いです。クァールみたいな能力を手に入れた美少女が、マトリクスみたいなアクションを繰り広げるハードボイルドSFといったら伝わりますか? 残念なことは、話のクライマックスで「続くっ!!」と終わっていること。アクション映画のラスト15分で上映が停止したような感覚。早急な続巻の刊行が望まれます。
少女とネズミとドクターの関係はなかなか愉しいし、人体改造マニアの殺し屋たちはかなり気持ち悪い。登場人物は個性的であり、イメージをビジュアル的に広げる工夫もしている一方で、少女の内面や感情のゆらぎも手を抜くことなく書きつづっています。
これはちょっと掘り出し物だという予感がしているので、早く完結させて予感を確信に変えさせて欲しいと思いますね。