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紙の本
長さの勝利──もしくは英国版人形浄瑠璃の世界
2004/10/11 17:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはもう「長さ」の勝利と言うほかはない。総数80人超の人物(折り込みの「五十音順登場人物表」がなかったらたぶん途方に暮れただろう)が文庫本五冊二千頁超にわたり血縁、因縁入り乱れて糾う雄編を一気読みして、物理的な「長さ」をもってしか表現できない物語的感興というものが確かにあると実感させられた。私利と陰謀と裏切りにまみれた悲惨な出来事がジェット・コースターのように繰り出され、さてようやく復讐と正義の時を迎えたかと思うと「シャレード(芝居)」に絡めとられた「人生の目的」をめぐる主人公の内省が突然シンプルな物語世界の進行を緩慢なものにする。数世代を遡っての「デイヴィッド・コパフィールド式のくだんないこと」((c) ホールデン・コールフィールド)の奔流はほとんど読者の記憶力の容量を超えている。このあたりの過剰と転調を解説の小池滋氏は小説技法ともからませて「ポスト・モダン的小説」と表現しているのだろうが、それとてやはり「長さ」ゆえの効果にほかならない。物語世界に溺れる、というより淫する体験はケン・フォレットの『大聖堂』に読み耽って以来のことで、あの見事な中世物語ほどの深い愉悦はなかったにせよこの英国版人形浄瑠璃の世界には時間を忘れたっぷりと堪能させられた。