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商品説明
嵐山の奥の奥にある、ちょっとマイナーな名刹・大悲閣千光寺には次々と奇妙な事件が持ち込まれて…。元広域窃盗犯にして寺男の有馬次郎と、穏やかな相貌と鋭い観察眼をあわせもつ住職の2人が、難事件の謎に迫る!【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
北森 鴻
- 略歴
- 〈北森鴻〉1961年山口県生まれ。「狂乱廿四考」で第6回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。「花の下にて春死なむ」で第52回日本推理作家協会賞受賞。ほかの著作に「狐闇」「共犯マジック」など多数。
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紙の本
北森鴻は水森堅の夢を見るか?
2003/08/29 00:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
推理作家は、しばしば作品中に、同姓同名の人物を登場させる。
作品中に登場する彼等のキャラは、大きく分けて3つ。
1.読者が「こんな人なんだろうなぁ。」と抱くイメージ通りのキャラクター
2.傍観者及び筆記者で影が薄い、無色透明のキャラクター
3.「えっ! 何でこんな人なの?」と読者のイメージをことごとく裏切るキャラクター
また、全く同姓同名にしなくても、漏れ聞こえる情報から勝手に
「このキャラはきっと作者だ。」と読者が勝手に想像する場合もある。
本作の著者・北森鴻氏についても、
「調理師免許を持っていて料理が上手い」という話が漏れ聞こえれば、
「『花の下にて春死なむ』『桜宵』に登場するビアバー
「香菜里屋」のマスター・工藤のモデルは著者では?」と考える。
さらにサングラスをかけた近影写真などから、「冬狐堂シリーズ」
「蓮丈那智シリーズ」のクールなヒロインのモデルは、やはり著者なのか?
という想像が膨らむ。
「ううむ、こんなイメージを持たれてしまっては、まずいまずい。
百害あって一利なし。」
と著者が考えたかどうかは定かでないが、(この場合の利と害って何だろう)
本書に登場する、もう一人の著者は、先に挙げたパターンのうちの、三番目のキャラ。
「不如帰の人」で華々しく登場するはずだった彼は、いきなり事件の重要参考人
になってしまう。その彼とは、水森堅。肩書きは大日本バカミス作家協会賞受賞作家。対象作は『鼻の下のばして花ムンムン』。よくもまぁ、『花の下にて春死なむ』
から、こんなにバカらしい題名を考えつきますね。
彼を大学の講演会に招待したのが、みやこ新聞文化部の折原けい。彼女がよくお茶を
御馳走になりに行くのが、嵐山の奥にある大悲閣。そこの寺男をやっている有馬次郎は
元泥棒だが、住職以外は誰もその過去を知らない。当然、けいも知らないので、彼を
「アルマジロ」と読んで、いいように使っている。その彼女の上を行くいい加減
キャラが、水森。彼はこの後「支那そば館の謎」でも、勇んで
事件解決に乗り出すが、彼が張り切れば張り切るほど「ドツボにはまってさあ大変」
になる典型的三枚目キャラ。けいだけでは、はじけっぷりが足らないと思った
ので、著者が補強したのか?確かに北森さん、クールな女性を描くのは上手いけれど、その逆の女性は、今一つノリが良くないので、
ムンちゃんこと水森氏が今後準レギュラーくらいのポジションで、
引っ掻き回してくれると、ちょうどいい。レギュラーになると、
シリーズ全体が別の雰囲気になりそうだから、御遠慮願って。
ああ、涙目で見つめないで下さい、ムンちゃんてば。
「不如帰の人」「支那そば館の謎」2篇でいなくなったかと
思ったら、ムンちゃんは、けいと次郎のいきつけの居酒屋「十兵衛」に、
何と20万のツケを残していってしまった所から始まるのが、本
篇屈指の渋い物語「居酒屋十兵衛」。
この短篇に登場する、黙って耐える男・藤尾や、
「異教徒の晩餐」に登場する影のあるアブナイ男・九條のような、
従来の北森作品に出てきたキャラクター達の特別出演役者を迎えて、
毎回活躍するのが
不動明王という異名を持ち、穏やかにして何でも悟り、時には誰よりも
早く真相に辿り着く頭脳担当の住職、情報担当のけい、あくまでも
裏で行動する次郎のトリオ。従来路線と、今回かなり
取り入れてみたドタバタ&お笑い路線のミックスでの
見切り発車のような所があるので、場合によっては今までの
ファンは面喰らうかもしれない。
私は先に『パンドラ'S ボックス』で、北森さんのいろんなジャンルの
作品を読んでいたので、そんなに意外に感じず、京都のアイテムが
推理のポイントになっている短篇を楽しめた。
そういえば、『パンドラ'S ボックス』所収の「鬼子母神の選択肢」より、
随分会話文が上手くなりましたね、北森さん。
紙の本
どの作家もユーモアといえば一つの決まりきった登場人物しか思い浮かばないのでしょうか。流石の北森にも、その壁はあったんだなあ、と少し残念でした
2005/07/12 21:09
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
笑えない短編です。ユーモアの部分が空回りしている感じ。あれー、どこかでこれに似た現象にであったことが、と思って記憶の底を探ってみたら、ありました、逢坂剛の噴飯推理、御茶ノ水署シリーズ『しのびよる月 』『配達される女 』と二匹目の泥鰌がいなかった『相棒に気をつけろ』、或いは田中啓文の傑作脱力『蓬莱洞の研究』と柳の下には幽霊しか出ない『UMAハンター馬子』。
装幀は奥沢光雄、イラストは、はざま隆治。デザインとしては、内容に敬意を表したのか、軽め、軽装本ではあります。で、それに拍車をかけるのが、はざまのイラスト。今にも動きそうな、ニュートラルでちょっとよれ気味の線は、はっきり言って私好み。ただし「裏京都ミステリー」という注のようなものがねえ、そそっかしい私は「裏東京ミステリー」に読めちゃうわけですよ、ま、京都にひとは自慢げに京都ラーメンなんていうくれど、支那そばとくれば、やっぱ東京でしょ。ね、表紙に五重の塔が書いてあったって、思い込んだ人には浅草の塔にしか思えないし。ということで、誤読のまま突っ走った私は、読み始めてすぐに、保津川〜っ?嵐山〜っ?と叫ぶわけ。???が一杯。
収められているのは看板に偽りなく裏京都のミステリばかり6編。頭に傷を負った死体が持っていたのは僕だけが使っていた商売道具だった「不動明王の憂鬱」。有名な版画家が殺された。限定版のはずの作品が大量にあらわれて「異教徒の晩餐」。あんなに素直で清らかだった訪問客が殺された「鮎踊る夜に」。バカミス界の大御所というか、ケチなマイナー作家が消えた「不如意の人」。消えたアメリカ人はどこにいった、そりゃ、そばにいるだろ「支那そば館の謎」。最近、経営方針を変えてしまった居酒屋の謎をさぐる「居酒屋十兵衛」。
主人公は、僕、昔は広域窃盗犯で、今は嵐山の奥の奥にある知る人ぞ知る名刹大悲閣千光寺の寺男・有馬次郎。その僕をアルマジロと呼び捨てというか、失礼にも誤読し続けるのが京都みやこ新聞文化部の記者・折原けい。その折原に図々しさと神経のがさつさ、あつかましさでそっくりというのが京都府警捜査一係の碇屋警部。それに輪をかけた破廉恥漢のバカミス作家・水森堅。僕の過去を知りながら優しく見守ってくれるマイクロフト(ごめん、マイクロソフトじゃあないから)みたいな住職と、僕に美味しい御飯を食べさせてくれる寿司割烹・十兵衛の大将。
いつもの北森ならば、民俗学的薀蓄や考古学、骨董の世界の知識がてんこ盛り状態なわけだけれど、この本に限って言えば、副題の「裏京都ミステリー」という文句ほどに京都のことがべたっと語られるわけではありません。むしろ、舞台を京都にしたガチガチの本格推理とみたほうがいい。その出来は、かなりのレベルでしょう。ただし、ユーモア小説としては、私は楽しめません。
逢坂、田中の両氏にも似た試みをしながら、成功作と失敗作があると書きました。異論があるのを承知で書きますが、鍵は登場人物にあります。『相棒に気をつけろ』の四面堂遥、『UMAハンター馬子』の蘇我家馬子、あるいはこの本の折原けい、水森堅。基本的には他人を脅かし、騙し、嘘をつき、金を誤魔化すことを何とも思わない、厚かましい人間たちです。私はこういう現代の官僚、政治家、マスコミを体現したような人物の存在が不快でならないのです。無論、異論があるのはわかります。彼らは戯画に過ぎない、むしろその彼らの言動こそがブラックな嘲笑の対象であると。
嘲笑を抜きにした御茶ノ水署、蓬莱洞は自己完結に徹したギャグで十分面白いではないですか。ジャンルは違うけれど同じ京都を舞台にした浅田靖丸『幻神伝』にもスポーツ新聞記者の三枝裕子という、自分のことしか考えることの出来ないバカが出てきますが、この類型化を作者たちは何とも思わないのでしょうか。読む側は、マタカヨです。