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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2003.7
- 出版社: 文芸春秋
- サイズ:20cm/313p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-16-365200-0
紙の本
うらやましい人 (ベスト・エッセイ集)
富や名声にこだわらず、植物学一途に95年の人生を捧げた、高知県出身の植物学者・牧野富太郎。その孤高にして崇高な生き方にふれた表題作「うらやましい人」をはじめ、プロ、アマ6...
うらやましい人 (ベスト・エッセイ集)
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商品説明
富や名声にこだわらず、植物学一途に95年の人生を捧げた、高知県出身の植物学者・牧野富太郎。その孤高にして崇高な生き方にふれた表題作「うらやましい人」をはじめ、プロ、アマ66篇の傑作エッセイの競演。2003年版。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
視覚障害者との一期一会 | 安原みどり 著 | 12-19 |
---|---|---|
大統領と戯れ絵 | 山藤章二 著 | 20-23 |
三十人の「きせきの人」たち | 矢吹清人 著 | 24-29 |
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紙の本
うらやましい文章
2003/09/21 20:35
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
夏目漱石の『それから』の主人公代助は<高等遊民>である。父親から「三十になって遊民として、のらくらしているのは、如何にも不体裁だな」と叱責されても、意に介さない。「代助は決してのらくらしているとは思わない。ただ職業のために汚されない内容の時間を有する、上等人種と自分を考えているだけである」(岩波文庫版・37頁)。引用した岩波文庫では、代助の父親がいう<遊民>に「定職を持たないで遊んでいる者」と解説し、「明治四十四年には<高等遊民>問題として社会問題にもなっている」と締めくくっている。
<高等遊民>を現代社会に置き直すと、大学を出たけれど定職につかないフリーターのような存在になるのだろうが、代助の場合もう少し明確に働くということを定義しているように思う。「働くのもいいが、働くなら、生活以上の働でなくっちゃ名誉にならない。あらゆる神聖な労力は、みんなパンを離れている」と、友人で生活に困窮している平岡に語る場面がある。この時の代助の言葉を、生活人である平岡はほとんど理解できない。漱石は『それから』における平岡を扁平で窮屈な人間として表現しているが、実際の世俗では<高等遊民>代助が問題児で<生活人>平岡が普通の庶民だったに違いない。
毎年出版される、この「ベスト・エッセイ集」を楽しみにしている。書き手はプロアマさまざまだし、書いている内容も多岐にわたっている。生活のささやかな場面、異国との交流、故人との懐旧…、それぞれの二〇〇二年が描かれている。それらの文章を書いた人がすべて幸福の極みにあるわけではなく、その人なりの窮屈な人生だろうに、どうしてここに収められた六六篇の文章はこんなにも伸びやかで豊穣なのだろうか。こういう文章のあることがうらやましいし、そんな文章を書いた人たちの心の自由がうらやましい。
「鍍金を金に通用させようとする切ない工面より、真鍮を真鍮で通して、真鍮相当の侮蔑を我慢する方が楽である」(岩波文庫版『それから』・87頁)。代助のような生活を願うことは現代において到底無理だろう。私は平岡なのだ。それでも、せめて文章だけは自由で嘘いつわりなくありたいと思う。この本に収められた六六篇の文章のように。