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紙の本
本邦初のグルメ小説家探偵す
2006/05/14 21:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
時に、明治31年。別荘地の大磯に降り立ったのは、郵便報知新聞
(後の報知新聞)編集長、村井弦斎、35才。売り出し中の大衆小説家
でもある彼は、やがて空前のベストセラーとなる本邦初のグルメ小説
「食道楽」を書くために、祷龍館(とうりゅうかん)に滞在する。
ところがなぜか事件が起こり、彼は、首を突っ込んでゆく羽目に。
弦斎が、その人の外見からしてきた事をぴたりと言い当てる場面がある。
警官からの露骨な揶揄でも明らかなように、彼はシャーロック・ホームズの
推理方式を取っている。
20代にアメリカに渡り、ハウスボーイをした経験がある
彼ならば、物怖じしない性格も納得。好奇心が強いのは
物書きの宿命か。
ワトソン役は、松本良順の弟子で医師助手の山田文彦と、後に弦斎の妻となる、
大隈重信の従兄の長女、尾崎多嘉(作中では多嘉子・実在)。
但し、文彦はワトソンの医者の部分だけを引き継ぐ。
後藤象二郎、陸奥宗光、伊藤博文、徳川家、鍋島直大、大隈重信、西園寺公望、
梨本宮守正、伊達宗陳、池田成彬等政財界の大物達の保養所となった大磯なので、
事件のネタには事欠かないと思われたが、続編はなく、この一冊で終わっている。
西行シリーズのような、派手な立ち回りはなく、「忠臣蔵心中」から釣り
と食に関する記述を引き継ぐ。
「海から来た女」「薄荷屋敷」「消えた大隈」「冬の鶉」「滄浪閣異聞」収録。
「消えた大隈」はアガサ・クリスティの作り出した名探偵エルキュール・ポアロものの短編「総理大臣の失踪」の
パロディか?
明治時代、洋食がどのように描かれていたか知る事ができて興味深い。
ただ、惜しむらくは、
松本良順(順)が役者衆を呼び込んで海水浴場のプロモーションをはかった実際のエピソードと、架空の事件を組み合わせた「薄荷屋敷」と「冬の鶉」の2篇以外、
料理にまつわる事件がないことである。まだ皆が洋食に精通してなかった
時代に、「食道楽」を書こうとしていた弦斎だからこそ、この方面の謎解きにおいて
一歩先んじていた、という状況をもっと登場させて欲しかった。