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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2003.9
- 出版社: 東京創元社
- レーベル: 海外文学セレクション
- サイズ:20cm/190p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-488-01637-1
紙の本
閉じた本 (海外文学セレクション)
交通事故で眼球を失い、隠棲し世間と隔絶した生活をしているブッカー賞作家ポールのもとに、口述筆記の助手としてやってきた青年ジョン。彼は仕事を鮮やかにこなし、家政婦の代わりに...
閉じた本 (海外文学セレクション)
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商品説明
交通事故で眼球を失い、隠棲し世間と隔絶した生活をしているブッカー賞作家ポールのもとに、口述筆記の助手としてやってきた青年ジョン。彼は仕事を鮮やかにこなし、家政婦の代わりに料理もこなす。だが、何かがおかしい…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ギルバート・アデア
- 略歴
- 〈アデア〉1944年生まれ。イギリスの作家・批評家。映画評論やポストモダン文化評論などでも著名。著書に「作者の死」「ポストモダニストは二度ベルを鳴らす」がある。
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紙の本
小説というミステリ
2004/04/04 11:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:三月うさぎ(兄) - この投稿者のレビュー一覧を見る
「閉じた本」は、遅読のぼくでも半日で一気読み。
全編99%が会話。失明した作家と、彼の目として雇われた
青年のやりとりが続き、作家が青年の言葉の誠実さに疑いを
抱くところから一気に緊迫していきます。
ところがこの作品、実はミステリの皮をかぶった小説論なのかも。
タイトルの「閉じた本」が暗示するように、自己言及小説の
究極であって、しかも/しかし、ものの見事にエンターテインメント。
帯の宣伝文句『結末にやってくる驚き』は、ミステリの結末としても、
「現代文学」の結末としても一級品と思います。
紙の本
自分の信じてきた記憶が信じられなくなっていく恐怖
2004/06/25 00:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あんず86 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本を開いてまず驚くのは、この本のすべてが会話と独白でのみ書かれているということです。
普通の本ではある地の文が全くないのですね。
これにはちょっと驚きました。
会話だけとなると、演劇の台本や戯曲などを読んでいる気分になるかと思えばそうでもない。
そういった本は通常、ト書きとかいうものがあって一応、読者には状況が知らされているのですから。
この本の場合は違います。
読者は登場人物の周囲の状況については全くわからないまま進んでいる。
何もない白紙の状態で、わけがわからなまいまま、進まされているわけですね。
この状態は事故で眼球を失い、盲目となってしまった主人公ポールと全く同じです。
それだけに読者はポールと同じ恐怖を味わっていくのですが…
それがじわじわと、真綿で首を絞めるような感じでくるんですね。
盲目の作家ポールの代わりに口述筆記することになった助手ジョン・ライダーが何者なのか、いったい何を目論んでいるのか?
まさに、恐怖でした。それも派手に驚かす感じじゃなくて、心理的な怖さです。夜、ひとりで闇の中にいると、ふっと後ろをふりかえりたくなる。何物かの視線を感じて…そんな具合です。
途中、ジョンの言っていることがおかしくなり、それのどこが本当で嘘なのかわからなくなりました。
解説にもありましたが、イギリス人でさえわからないことがあるのに、私たち日本人がそれらの事柄について精通している、などということがあるわけはありません。
普段から自分が信じてきた記憶が根っこからくずれてきそうな…そんな恐ろしさを感じました。
そしてラストのこのどんでんがえし&大逆転。
まさに思ってもみないことの連続でした。
ストーリー的にはそれほど特異な点もない、よくある話なのかもしれないけれど。
ほんというと読後感もあまりよくないかもしれないけれど。
でもなぜか読むのをとめられなかった本です。
紙の本
踏みつけられても負けるなよ。
2004/01/18 14:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
推理小説であることを期待して読み出すといささか失望するんじゃないかと思う。なんつーか、ムカシからよくある設定で、結末までの運びもほぼ予想通り。これならオベール『マーチ博士の四人の息子』の方が読みごたえもあるし起伏に富んで面白かった。ではサスペンスものかというとさほどの恐怖感もなく、はっきり言って「なんで今更創元社がこんな本を出したのか?」と頭を捻りたくなるくらいだが、にもかかわらず駄作ではないし、切って捨てるには惜しい格調と哀切があるのだった。
あるときテレビ番組(お悩み解決もの)に、ストーカー被害に遭っている会社員が出演し、犯人を突きとめてもらう、という企画があった。具体的には『注文した覚えのない通販の商品が日々続々と宅配される』という古式床しい被害で、ストーカーより嫌がらせといった感の強いネタである。
見た感想は、「こいつ(被害者)絶対自分でタネまいてるよな」といったものだ。番組の中では紛れもなく被害者扱いされていたが、自ら認めたところによればこの会社員は日頃から周りの人にズケズケ物を言うタイプであり、特に目下の相手からは嫌われている可能性もなくはない、という、よくいるイヤな奴だったのだ。たぶん会社の人とかに尋ねれば、『可能性もなくはない』どころか『心底憎い』という意見だって出るだろう。私は身近にいるイヤな奴のことを思い浮かべつつ、圧倒的に犯人側に肩入れして番組を見たのである。
こういう人(この被害者のような)は過分に自信を持っており、仕事はできるしそれなりに正義感で、口を開けば絵に描いたような正論しか言わず、体育会系型の人間関係(ヤクザや暴走族を含む。日本の企業だって似たようなもんだし)ではスイスイ出世する。実際に社会を動かすのがこういう人達なんだろうからナマケモノな私などが文句をいってはいけないのだろうが、連中はその過程で実に多くのものを踏みつけにしていくのだ。要は無神経ってことだけど。少しくらい痛い目に合ったってバチは当たるまい。
踏みつけにされるのは、こういう人にとって数量的価値(金・地位・名声など)のないもの、すなわちそれほど血の気の多くない草食動物的な人々である。弱いものは淘汰されて当然、という考えもあるだろうが、生存競争に勝ちぬいた強い奴ばかりの世の中なんて想像するだけで嫌だ(もっともその中に私はいないが)。
番組の終盤、犯人はめでたく特定されたものの、それはなんと普段から仲のいい同僚で、被害者の愕然かつ呆然とした顔は『いい映像』として放映され、私はひとり含み笑いをしたものである。
もし気弱で陰険な人がこの書評に目を留めてくれているとしたらその人に言いますが、読了してから、つまりすべての秘密が明らかになってからもう一度読み返すことをお薦めしますね。これは私やあなたの夢の物語です。強い人達から隅の方へ追いやられたり押し潰されたりしながらも心の奥にあるものを静かに守って行きたいと願う人達のための物語です。たぶん。
というわけで、定石通りとはいえやはりこの結末はやや辛い。でも社会の秩序も大事だし、やはりこの結末しかないんだろうな、と思うので不満はない。ま、黄金の様式美健在なり、というところか。
紙の本
ミステリとしての出来をうんぬんするよりも、独白と会話だけで構成された小説の可能性について、「書くこと」に意識的な人が考えるのに良い本…かな?
2003/10/17 19:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
このサイトに感想を投稿し始めたころ、★印をつけられることを知らないで「評価保留」にしていたことがしばらくつづいていたが、それ以来初めて「評価保留」をクリックした。
自分の場合、この★の数というのは、その時々のコンディションが一定しない読み手としての満足度、つまり気分次第の絶対評価だ。過去に読んだ同ジャンルや同一作家の本との比較はあまりしていない。
きのう手ごたえのある本を読んで印象に残っていれば、きょう読んだ本の印象はどうしたってそれに左右されてしまう。日々知恵がついたり減ってしまったり、物の考え方が変化しているのに、客観的な評価を試みるというのも至難の業である。
不幸にして、★1つ、あるいは2つ程度の満足しか得られなかった本については、記憶に留めるのも不愉快なので速やかに忘れるようにしている。そういう本ですら、年月が経れば物の受け止め方が変わり、別の満足が得られるかもしれない。きのうの自分に自信を持つのも、明日の自分を当てにするのも危険な気がする。こと、何かを知りたくて、得たくて、本を読んでいくのであれば…。
とまあ、くだくだした断りのあとに、なぜ「評価保留」で、さらにこの本について書き留めているかという本題に入る。2つの側面に自分の内面が裂かれ、満足度が2つに分かれて困ってしまった。
ブッカー賞作家として英国の文壇での地位を確立した作家の物語で、見出しに挙げた「独白」というのは彼の心情吐露になっている。彼は交通事故に遭い、顔にひどい傷を負った上、眼球を失ってしまい、世捨て人同然に隠棲している。それが遺書を残すようなつもりで自伝的回想録を書くことを決意する。
自力での執筆が無理な彼が思いついたのは「口述筆記」で、助手を雇うことになる。プライドが高く、視力を失ったことで気難しくもなっている作家がまずまずの合格点を出したのが、ジョンと名乗る青年である。
作家の代りに原稿を打ち込むだけでなく、取材に出向いたり、夜の散歩につき合ったり、家事も行って目ざましい働きをするジョンだが、ふとしたことから作家のなかに疑念が湧いてくる。
サスペンス小説としては、途中で大まかな予想がつく。最後の最後になって、独白と会話で成り立つ特殊な構成を納得させる意外な仕掛けも立ち上がってはくるものの…。ミステリのガゼットが多く盛られているわけではないし、伏線が複雑で重層的というわけでもないが、引き摺られていく内容ではある。私にとっての最大の不満は、謎が暴かれる時に明らかにされる作家の過去で、これは正直何だかなあ…と思い切り萎えた。
しかし、ミステリ&サスペンス小説としての満足度とは別に、構成からも明らかなように、この小説は「書くこと」についての意識が高い。独白と会話しかないという設定は、そもそも盲人と同じ状況に読み手を誘導するという意図であるが、その状況が読書という行為にトレースできるというのが、作者であるアデアの思いである。無論、独白と会話でどこまで書けるかという実験的な意味合いもあろう。
エピソードが気に入らないにも関わらず、記憶に留めるべき1冊だと感じたのは、このような書かれたものとしての本に対する考察に興味惹かれたからである。