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商品説明
【日本推理作家協会賞(第57回)】あの「ドグラ・マグラ」はいかにして書かれたか。犯罪・狂気・聖俗・闇…。常に社会の最底辺を見据えて生み出された独特な作品世界の舞台裏をガイドする久作ワールドの迷路案内。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
多田 茂治
- 略歴
- 〈多田茂治〉1928年福岡県生まれ。九州大学経済学部卒業。新聞記者、週刊誌編集者を経て文筆業。日本近現代史にかかわるノンフィクション、伝記を執筆。著書に「グラバー家の最期」「夢野一族」など。
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紙の本
久作ワールドを極めたいと思わせる、久作の幻魔術とは。
2009/08/26 10:55
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
夢野久作はさまざまな作品を残しているが、中でも『近世快人伝』は傑作と思っている。
その作品に登場する快人の中でも魚屋の大将である篠崎仁三郎のくだりは爆笑ものだ。その篠崎仁三郎が本書の冒頭に紹介されていて、「やはり、あなたもそうですか」と著者と両手で握手したいほどこの魚屋仁三郎の語りはおもしろい。破天荒、それでいてどこか真面目で、周囲を笑わせてしまう仁三郎。風貌は異なるものの、小松政夫さんに篠崎仁三郎のセリフを語らせたら、さぞ、おもしろかろうと思う。
まさに博多仁和加のボケて突っ込んで落とし込んでの芸を見せられたあと、徐々に徐々に久作晩年の作品である『ドグラ・マグラ』に至る背景や複雑な人間関係、思想関係を著者は説いていくが、これは評論でありながら久作の評伝として完結されている。巻末には久作に関わった人々、事件などが簡潔に各章ごとに補足され、年譜、参考文献までをもがついている。
各章のそこここに、久作に対する著者の憧れと親しみ、哀れみがないまぜになった言葉があふれている。
この夢野久作の評論とも評伝ともいえる一冊において欠かすことのできない人物は久作の父杉山茂丸である。杉山茂丸といっても誰だろうと思うかもしれないが、明治、大正という時代において政界の黒幕と呼ばれた人物である。もともとは、伊藤博文の暗殺に上京した茂丸だが、逆に長州閥の元勲を手玉にとって薩長藩閥政治を裏で操った人物である。目立たぬ場所にあるが、築地本願寺の一隅に長州閥の児玉源太郎と杉山茂丸の人間関係を示す石碑もある。
この杉山茂丸も久作に負けじ劣らず多くの著作を残した人であるが、久作が作家・新聞記者として活躍する場を授けただけに、父親であると同時にプロデューサーであるかもしれない。
しかしながら、この父親が右翼の源流である玄洋社の頭山満と盟友であったために夢野久作は右翼と思われている節がある。
しかし、夢野久作の秘書であった紫村一重はばりばりの共産党員であり、一斉検挙で逮捕されながらも久作のよき議論の相手でもあった。これからして久作を右翼と断定することに無理があるが、杉山茂丸も無政府主義者の大杉栄を内務大臣の後藤新平に紹介するほどなので親子ともども右翼と限定できない枠の大きを感じる。
とまれ、夢野久作にしても杉山茂丸にしても、今から一世紀以上も前に欧米の物質文明によって日本が精神的堕落社会に陥ってしまうことを予見していたことに驚きを禁じ得ない。そう感心した瞬間、久作のドグラ・マグラにしてやられている。