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紙の本
幽閉されていた代表作、新生
2007/09/27 03:37
9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yu-I - この投稿者のレビュー一覧を見る
丸尾末広というと、まず最初に、あのレトロで美麗な絵が思い浮かぶ。そして次に、その美しさを逆手にとったような、過激なエログロナンセンスを想起する。
そこでこの「少女椿」なのであるが、そもそもこの話は、昭和初期に製作され街頭で演じられていた紙芝居が原作なのだそうである。そこに丸尾がグロテスクな要素をふんだんに盛り込んで漫画化した作品、というわけだ。
もう、これを聞いただけで著者のファンはワクワクしてしまうだろう。昭和初期の紙芝居に、エログロナンセンス。なんて丸尾末広的な、魅力的な取り合わせだろう。
あらすじが添付されていないので、おおまかに記す。
主人公はみどりちゃんという12歳の女の子。父が家出をし、母が死に、一人路頭に迷っているところを、だまされて、見世物小屋の芸人にされてしまう。小屋ではいじめられこき使われて、外を歩けば見世物小屋の子だといってまたいじめられ…という、なんとも悲惨なストーリーである。
その見世物小屋というのがフリークスの一座で、数々のフリークスを著者らしい華麗な絵で描いているのだから、特に江戸川乱歩などが好きな人にはたまらないのではないかと思う。
また冒頭の16ページは、黒と赤の二色刷りで、これがまた赤が映えてグロテスクな描写に鮮やかな毒を加えている。そして人気コミックにはフルカラーページがちょっと挟まれることも珍しくない昨今、なんとなくレトロな感じがして、妙に作風に合っているのである。
ところで、タイトルにあるとおり、「改訂版」である。1984年に最初に発売されて以来、この作品は二度の改訂がなされている。
残念ながら筆者は前の版を手にしたことがないので見比べることができず、一度目の改訂か、二度目なのか、どちらで削除されたものか判断できないのだが、ちょっと「惨すぎる」シーンがいくつかカットされているようである。
しかしまあ物語の大筋には関係のない部分だし、全体の毒々しくアブない雰囲気は健在。…というか、この物語自体の持つ「ヤバさ」は削りようがない。大筋に関わる部分がすでにヤバすぎるのである。詳しく書くといわゆるネタバレのタブーに抵触してしまうのでここには書かないが、フリークスの見世物一座でいじめられる少女、という設定だけでも、じゅうぶんに推して知ることができよう。
それでも、ファンにとってはやはり残念なことである。まあそのぶんあらたに描きおろされたページも多いので、それで我慢するしかないといったところか。
またこの作品はアニメ化もされており、そちらのほうが旧版に忠実なようであるから、どうしても気になるという向きは見比べてみるのもいいだろう。
内容が内容だけにということか、上映禁止とされていた時期もあり、現在もVHSにもDVDにもなっておらずなかなか観ることは難しかったのだが、なんと現在ニコニコ動画にて閲覧することが可能である。
このアニメにもさまざまな興味深いエピソードがあるのだが…あまり何もかも明かしてしまうのも興醒めだろうから、この作品が気に入ったのならば、調べてみるのも一興かと思う。
とかくいわくの多い作品で、容易に手に入ることは幸い。
ただ読めば終わりではなく、観賞に堪える美しい絵と造本(少々値が張ろうが、ハードカバーのしっかりした造りがふさわしい)。
読み返すほどに切なさを増す細部までゆきわたる濃厚な悲劇。
手元に置いておく価値のある一冊だと思う。いい買い物をしました。
では、みどりちゃんに幸多からん事、せつに祈りつつ…