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紙の本
吉本より橋爪
2003/11/11 20:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GG - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆる思想書の読書を続けてきて、吉本隆明の存在はずっと謎だった。何人もの注目すべき論者から言及されているのだが、いざ読んでみると、これがほとんどの場合よくわからない。論旨が辿りにくく錯綜しているし、しばしばなされる論敵への批判はハッキリ言って口汚くげんなりさせられる。どこが一体戦後思想の巨人なのだろうと感じざるを得なかった。
そこへ、あの明晰をもって鳴る橋爪大三郎の吉本隆明論が出た。長年の謎が解明される違いないと直観して早速読んでみた。
編集者を前にした口述がベースとなっているので講義を聴いているようで読みやすい。切れ味のよい断定を交えた論理展開はいつも通りで、これで随分吉本がわかった気になれた。
本書は、四部で構成されている。
第一章 吉本隆明はどんな思想家なのか:その出発点の確認
第二章 吉本隆明の仕事を読んでみる:『共同幻想論』等主著の要約
第三章 吉本隆明はどう闘ってきたのか:80年代90年代吉本を評価する
第四章 吉本思想と橋爪社会学と:吉本から受け取ったものと自分(橋爪)の課題
するする読むことができ、懸案の謎も解くことができた。吉本は戦後世界という時代の徴を深く刻まれた思想家なのだ。およそどんな思想家であれ、時代性から自由になることはできないし、また思想家たるもの固有の時代性を引きうけてこそのものである。問題は、そこからどれだけ普遍性へ飛びあがれるかにある。吉本思想の射程が同時代を超えてどこまで及んでいるのかは、私にはよくわからない。しかし、少なくとも文藝評論という主要分野と、そのレトリックにおいて世代限定性を強く持っていることがわかった。あの啖呵に喝采でき、「原生的疎外」といった術語を素直に受け取れる者(多くは団塊世代だ)だけが、良い吉本読者になれるのだろう。
もう少しきちんと言うと、吉本はマルクス主義への態度決定が若いインテリゲンチャにとって死活的問題であった冷戦期の思想家なのだ。だからその時期に自己形成を遂げた知識層にとっては受け入れるせよ反発するにせよ重要な位置を占めていた。時代がややくだって80年代の大学生だった私にとっては発言の真意が掴めなかったということなのだと思う。
ソ連が解体してから既に10年以上になる。もはや冷戦期の戦後ですらない今、若い読者が読むべきは橋爪であって、吉本ではない。著者の意図には反するかもしれないが、私はそう感じた。
「吉本を死んだ犬のように扱ってはいけない」などと言いながら、再評価する若い人が出たりするのだろうか。あまりそんな気はしないのだけれど。