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紙の本
社会ネタをヒントに防衛問題を考えさせる秀作
2003/11/25 14:00
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
近年の浅見光彦シリーズには、全都道府県制覇がねらいのものと、時事ネタをヒントに殺人事件を絡めたものが多い。本編は後者であった。
舞台は北海道の利尻島である。北海道北部はまだ浅見が行っていないところでもあった。ある政治家(大臣)から兄の警察庁刑事局長を通して浅見に事件調査の依頼があったが、これは珍しいことである。目的は一応地元警察が自殺と断定した殺人事件の再調査である。被害者は某電子機器メーカーの社員であったが、自殺の動機がない。
調査を進めるに従って、メーカーと防衛庁の癒着に発展し、遂にはメーカーが水増し請求をし、防衛庁の方が過払いの返還を求める事態になった。これは数年前に実際にあったことで、まだ記憶に新しい。
その最中に朝鮮半島から発射されたミサイルが三陸沖に着水するという大事件が勃発した。これも記憶に新しい。このミサイル発射を防衛庁がまったく探知できなかったことから、混乱をきたしてわが国の防衛体制の不備が指摘されることになった。
米国の失敗をみても明らかな通り、探知まではできるものの、それを迎撃することは容易ではない。迎撃体制を整備するにしても膨大な予算を要するものであり、それだけの予算をかけても必ずしも万全ではないことも明らかである。
こういう事件とは直接関係がない背景が本編には述べられている。内田氏は小説を借りて日本人の防衛に対する考え方を問うているのである。現在、イラクへの自衛隊派遣をめぐって、テロ組織に恫喝されて腰がふらついている現状であるが、国民一人一人が覚悟を決めなければいけないという点で大いに啓発的な小説となっている。ただし、本編の中で書かれていることは虚実ない交ぜになっている可能性もあるので、本編に限らないが、読み手としては鵜呑みにせず、注意が必要である。
防衛庁の成り立ちや内部の葛藤など、関係者しか知らないことも書かれており、冷厳たる現実を突きつけられたような気がする。
ストーリーは、汚職事件にぶつかってそちらの解決は兄の仕事となったが、浅見自身の関わる殺人事件の方は、犯人にはたどり着いたのだが、その犯人は練習機で自害するという組み立てで、これも本シリーズではよくある結末となっている。
実際におきた事件と小説とでは整合性が取られており、むしろ小説としては物足りないのだが、あまり空想的になるとSFになりかねず、かえってこのシリーズの持ち味が消されてしまいそうである。こういう結末でも納得せざるを得なかいのかも知れない。