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歴史展示とは何か 歴博フォーラム歴史系博物館の現在・未来
歴史民俗系・民族学系の博物館が現在抱えている問題点を知り、それを踏まえてこれから何を始めればよいのか? 博物館の「現実」をしっかり見つめなおした上で、その未来像と具体的実...
歴史展示とは何か 歴博フォーラム歴史系博物館の現在・未来
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商品説明
歴史民俗系・民族学系の博物館が現在抱えている問題点を知り、それを踏まえてこれから何を始めればよいのか? 博物館の「現実」をしっかり見つめなおした上で、その未来像と具体的実践例を考えるフォーラムの記録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
博物館の営みと歴史 | 吉田憲司 著 | 23-48 |
---|---|---|
歴史展示の政治性 | 金子淳 著 | 49-78 |
現代生活を展示する | 青木俊也 著 | 79-108 |
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博物館のこれから
2009/08/30 13:16
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書『歴史展示とは何か』は、2002年11月10日に国立歴史民俗博物館が開催したフォーラム、「歴史系博物館の現在・未来」についての記録です。歴史民俗系博物館が抱える問題を明白にし、今後の展望を図ることを目的としたフォーラムで、7人の博物館関係者の報告と討論から構成されています。
タイトルにある歴史展示とは何なのでしょうか。そもそも博物館の役割は何なのでしょう。博物館の歴史展示には展示する人物の歴史観が反映してしまいますし、博物館設立に政治性が影響することがあります。1968年の明治百年には、それを契機として県立レベルの博物館建設が相次いだということですが、このことは後者の状況を如実に示しています。
展示や設立に一定の公平性が保たれないとしたら、博物館が果たす公共的効力に実効性はあり得るのでしょうか。この疑問は博物館の存在意義すら疑わしいものになってしまいます。
ところで、博物館の役割は展示だけではありません。資料を収集し、保存・修復、調査研究そして歴史教育もまた、博物館が担う重要な使命です。展示は調査研究成果が反映したもので、資料の収集や保存・修復は調査研究の前提作業として不可欠です。そして、これらが相互に絡み合って、はじめて博物館は一つの大きな機能を果たすのです。それは歴史教育の場を提供するという機能です。
国立歴史民俗博物館では観客調査を実施し、展示のあり方について検証してきたそうです。その結果、視覚に与えるインパクトの強さが見出されています。そして、観客が自分との関連性や現代との関連性を展示物に見出せたときに関心が高まることが指摘されました。
展示物をただ見るという行為には、展示者の考えを享受するという前提が存在してしまいます。しかし、観客の中に一定の視点が存在していれば、それとの比較により関心が高まり、展示物に対する見方も大きく変わるのではないでしょうか。
歴史展示は、展示した段階での見解を反映させたもの。研究の進展に伴って覆る可能性を常に秘めているのです。そのため真実の再現をいくら追求しても、不完全という枠から抜け出すことは不可能と言えます。しかし、だからこそ展示者は大胆とも言えるような復元を提示することが可能なのかもしれません。
ただ、それに対する観客の側にも一定の理解力が求められるのでしょう。限りなく可能な解釈の一つを展示という形で享受し、それを自分なりに咀嚼して理解する。解釈の多様性を明白にしておき、展示にはその一つを示しているに過ぎないことを理解しておけば、展示以外の解釈を積極的に試みる気持ちを起こすことも可能でしょう。このことは歴史展示と教育プログラムの交わり易さを示唆するものです。そして、交わりをより深く強いものにするために、学芸員と教育者の両方の役割を果たす人物が不可欠です。それはまさに外国博物館で導入されている教育学芸員と言えます。
美術史家のダンカン・キャメロンは博物館のあり方の選択に二つあることを示したそうです。一つはテンプル的役割で、もう一つはフォーラム的なそれです。前者はすでに評価が定まった宝物を拝みにくる神殿のようなもので、後者は議論を闘わせる場所としての役割です。
生涯学習が叫ばれて久しいですが、フォーラム的博物館の充実はいまだ図られていないのではないでしょうか。テンプル的博物館を廃絶する機運は、今後高まっていくと予測されます。しかし、全ての博物館を一括りにして機能不全にしてしまう前に、フォーラム的性質を充実させた博物館を各地に確立し、社会に浸透させる必要があります。フォーラム的場の提供し、同時にフォーラムの内容を充実させること。さらに、フォーラムの内容に教育という枠まで包括させること。これらが博物館の担うべき、そして求められている役割だと感じました。