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紙の本
リプリーの最後?
2004/11/01 11:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カワイルカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
リプリーシリーズの第五作。シリーズ物というと、どんなに面白くともだんだん新鮮みがなくなるものだが、本シリーズに限ってそれがない。未読の方はどれか一冊でも読んでみてほしい。今まで読んでいなかったことを後悔するに違いない。
これがシリーズの最後の作品ということもあって、今まで以上に結末が気になった。前作までは主人公が逃げ延びるのは予想できるが、今回はシリーズ最後の作品なのでどうなるのかわからない。
トム・リプリーは何度となく犯罪に手を染め、そのたびに警察の手を逃れてきた。が、ある日、近所にプリッチャードというアメリカ人の夫婦が越してきたことによって、平穏な生活に亀裂が入る。プリッチャードはトムの犯した殺人事件を探り出しそうとして彼にまとわりついてくる。トムに嫌がらせをして楽しんでいるだけだといっているが、何を企んでいるのかよくわからない。
本書は第二作の『贋作』で扱われた「ダーワット事件」をベースにして書かれている。トムは四年前に、ダーワットの贋作がばれるのを防ぐためにマーチソンというアメリカ人を殺していたのだ。プッリチャードはこの事件を掘り起こし、トムを追いつめてゆく。
このシリーズが面白い理由のひとつは、トムが何を考えているのかわからないことである。彼は必ずしも計画的に行動しているわけではなく、思いつきで行動することが多いので、何をするのか予測がつかないのだ。読者はトムに感情移入しながら、起こりつつある事をわくわくしながら読むことになる。
日常的なディテールを積み重ねて読者を引っ張っていくハイスミスの手並みもあいかわらず見事というしかない。死の四年前の70歳のときの作品だが、少しも衰えを感じさせるところはない。
このシリーズ全作品がお薦めなのだが、『贋作』と『リプリーをまねた少年』が品切れになっているのは残念なことである。
(星4つというのは、ハイスミスの作品としてはということであって、普通なら星5つになるところです)
村上ドルフィンホテル
紙の本
ハイスミス・ワールドへようこそ
2004/01/16 23:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わじゃ - この投稿者のレビュー一覧を見る
50年代に「パラノイアの詩人」と謳われたミステリー作家、パトリシア・ハイスミス。彼女が特に愛し、映画「太陽がいっぱい」「リプリー」で世界中に奇妙な共感を生んだキャラクター、トム・リプリーは原作で読むといいがたく魅力的。被害妄想気味で自己中心的、頭がよくて、強迫的に行動力があり、クールでエレガントなものが好きで、恋人を大切にし、そしてそれぞれの度合いがちょっとずつ人より並外れている、つまりごく多数派の人間のもつ特徴を体現している不思議な人物です。今時の、怪物のように単純至極なサイコ・キラーとは一癖もふた癖も違ってる。
例えば、引っ越してきた隣人が自分の家のまわりをうろついて写真を撮ったりしてたら、誰だっていやな気持ちになりますよね。やめて欲しいと穏やかな手段で伝えたり、町内会でさりげなく言ってみたり、それでもやめてくれなかったら、引っ越していってくれないかなーと願う… 行動には移さないまでも殺意をおぼえさえするかもしれない。
お話は、この隣人の目的や何者なのか? という謎とともに進んでいきます。トムは敢然とこのいやらしい隣人に立ち向かいます。同棲する彼女の身の安全を心配し、近所の気持ちのいい友人達の力を借りたりもします。ストーカーに対処するにはこうあるべきってくらい、爽やかで毅然としたトムの姿を楽しめます… っていうのはもちろん、トムには贋作画家を自殺にみせかけて殺した過去があると、読者は知っているからなんです!
じゃあトムなら、実際にこの隣人を殺してしまうんでしょうか? トムはもちろんそれを考える。でもハイスミス・ワールドではそういうことは起こらない。なんなのよ〜 と笑うしかないオチは他の作家にされたら激怒すること間違いなし(苦笑)
トムもトムなら、隣人も隣人なのです。そもそも人間てへんな生き物なんだよなーと、自分のへんさに少々うんざりすることもある私はハイスミス・ワールドに入り込むたびに、奇妙な安心感を覚えるのです。
LA DOLCE VITA