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懐かしくて寂しい
2004/01/04 16:41
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投稿者:松井高志 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1970年代後半から80年代半ばにかけていろいろな少女コミック誌で活躍したストーリーマンガ家・さべあのまさんの作品がメディア・ファクトリーから文庫全集となって刊行され始めている。この期間大学生から社会人になりたてで、よくコミックを読んだのでむちゃくちゃ懐かしい。思わず買ってしまった。この第2巻は外国(といっても特定の土地を連想させるわけではなく、まぁ外国という名のユートピアみたいなもの)を舞台にしたストーリーものを集めている。「地球の午后3時」は朝日ソノラマの「ストロベリー・シリーズ」というコミック単行本で当時読んだが、「ミス・ブロディの青春」(初出は別冊「LaLa」)は当時読み逃し、長らく読みたいと思っていたもの。
70年代のマンガらしく、やや描き込みすぎて画面が暑い。また、話も腰が抜けるほどベタな作りであるが、当時はこれでとても面白かったのだ(多分)。大人びてはいるが実は純真(無垢とはいわない)な子供が出てくるところなどは、もろに70年代風味である。
「ミス・ブロディの……」は20年間待たされたため、同窓会で昔告白した同級生に会ってしまった時のように(自分がそういう目にあったわけではないが)、面白いというよりはこっぱずかしい。問題があるとすれば、視点の揺れ。最初、このマンガではミス・ブロディが「謎」であり、彼女の心を主に物語の視点であるカメラマンのアンディが解きほぐし、二人が恋に落ちてゆく。このプロセスで、視点がいつの間にかミス・ブロディに移動し、逆に「謎」はアンディの側にわだかまる。アンディには腹違いの姉がいて、それがミス・ブロディの書いた小説の主人公に酷似していること、アンディが実は病を抱えていることが分かって、物語はにわかに悲劇的な色彩を帯びる。しかし、視点が一貫しないことで、この二人にはどうも読者が共感・同情できない。語り手を別個に設定するとか、視点を一貫させるべきだったと思う。また、自分の病が致命的であると知らされてから、アンディがミス・ブロディになぜそれを打ち明けなかったのか理解できない(もちろん通俗物語の作中人物の行為として、である)。彼女を悲しませまいとするのであれば、前もって「自分の死に場所や先の人生を決めてしまった」などと言うべきではないだろう。メロドラマとしてはちょっとこのホコロビは看過できない。
最後に収められている「夢見る筺の王子」は、コミック作家が誠実であればあるほど、年月に逆らうことが難しい、ということを教えてくれる。それを思うと、変わらない作家というのは実に凄いなぁ、と思うのである。