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紙の本
『サイレント・ジョー』のパーカーが猟奇殺人事件に挑む
2004/03/01 22:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エンドルフィン - この投稿者のレビュー一覧を見る
『サイレント・ジョー』で多くの読者を魅了したT.ジェファーソン・パーカー。彼の新作『ブルー・アワー』です。新作といっても、日本での紹介が遅くなっただけで、実際には1999年の作品だ。取りあえず出版社の言い方にならえば、マーシ・レイボーン・シリーズの一作目ということになる。本シリーズの三作目『ブラック・ウォーター』はすでに早川書房から昨年の2月に単行本として出版されている。
カリフォルニア州オレンジ郡。ショッピング・モールから美しい女性が失踪するという事件が相次いで発生する。しばらくして、女性の持っていたバッグと血だまりのあとが発見される。死体なき猟期殺人事件か? すでに退職していた元警部補のティム・ヘスは乞われて捜査に復帰する。パートナーは気が強いことで有名な女性巡査部長マーシ・レイボーン。過去に性犯罪の起こしている人物を中心に容疑者を絞り込もうとする二人の前に一人の男が浮かんでくる…。
三人称で犯人の行動も描写しながら、ひょっとしてこいつが真犯人か、そう思わせておいてからくりがあるのか、と読者はあれこれ考えながら読むことになる。『サイレント・ジョー』では不幸な過去をもつ青年ジョー・トロナのキャラクターが多くの読者の支持を得た主な要因だったと思う。そうした方面に長けた作家との印象を持っていたが、本作『ブルー・アワー』では、猟奇殺人というパーカーらしからぬテーマを扱いながら、ミステリのプロットの妙にも冴えをみせている。良い意味で期待を裏切る秀作です。
無論パーカーらしく人物造形でも読ませてくれる。ティム・ヘスはすでに67歳、おまけに肺ガンを患い放射線治療を受けながらの捜査だ。一方のマーシー・レイボーンは四十歳で殺人課、五十歳で重要犯罪課の指揮を執り、五十八歳までには保安官に選出されたいと公言してはばからないタイプだ。実戦で銃の抜いたことは一度しかないが、そのときのせりふが「ジャック、あんたもじきに死体だよ」というのだから、イメージができるでしょう。親子ほど年齢の離れた、孤独な二人はやがて惹かれあうのだが、その姿にはどこか哀感がつきまとう。そして結末では、このシリーズ二作目以降のマーシの有り様に大きな影響を与える出来事がまっている。三作目『ブラック・ウォーター』では、過去のいきさつも曖昧で、マーシ・レイボーンの人物像があまりはっきりしないという印象があったのだが、本編を読むと納得できる部分が多い。この『ブルー・アワー』では、ヘスの眼を通した姿を描くことによってマーシの印象を鮮明にすることに成功している。
マーシ・レイボーン・シリーズとなっているが、『ブルー・アワー』の段階から作者のパーカーがそう考えていたわけではあるまい。原題が"The Blue Hour" 、"Red Light" 、"Black Water"と続くシリーズはさしずめカラー・シリーズとでも呼べばいいのだろうか。上で述べたように、このシリーズは最初から順に読むほうがいいでしょうね。