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紙の本
手塚治虫が生涯を通じて訴え続けた、未来を生きる人々へのメッセージ
2001/06/23 12:20
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タッピング - この投稿者のレビュー一覧を見る
地球はまさにガラス球だ。美しく、頑丈なようだが、手を滑らせて落としてしまえば割れてしまう…。
本書は巨匠・手塚治虫さんのエッセイだ。本書には手塚さんからの、未来を生きる人々に向けたメッセージがこめられている。
手塚さんは、科学技術をテーマにした作品を多数世に送り出した。その中でも有名なのが「鉄腕アトム」だ。
「鉄腕アトム」は、科学を礼賛したものだと考えられることも多い。しかし、手塚さんの「鉄腕アトム」にこめた思いは、それとはまったく逆のものだ。「ロボット工学やバイオテクノロジーなど先端の科学技術が暴走すれば、どんなことになるか、幸せのための技術が人類滅亡の引き金ともなりかねない、いや現になりつつあることをテーマにしているのです」と、手塚さんは本書に記している。
美しく豊かな自然の中で治少年は遊び、安らぎを得、多くのことを学んだ。もちろん自然の中には厳しさもあるが、そこから命の尊さ、はかなさを学んだのだ。この自然の中での体験こそが手塚治虫の原点だといえる。
ところが自分と同じ人間たちが、自然を破壊し、戦争によって多くの人を殺し、傷つけた。特に治少年の戦争体験は、恐ろしく、悲惨だ。
手塚治虫は人間の愚かさ、醜さをいやというほど思い知らされた。だから手塚さんはマンガを描くことに命をかけた。マンガを描くことで、人間が忘れてはいけないことを訴えたのだ。
確かに今の社会は閉塞感に満ち、未来への希望などとても持てそうにない。しかし、地球を死の惑星にするのも、生と幸福に満ちた惑星にするのも、私たち人間次第なのだ。
本書は、大切なものに気づかせてくれる。希望をもって生きていくための力を与えてくれる。ぜひ一読されることをお勧めしたい。
紙の本
こんな一書があったとは!
2020/03/21 09:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
手塚治虫さんの作品は漫画で読むよりもテレビで見る事の方が圧倒的に多数を占めていました。また、幼少期に見ていた事が多かったので、本書に記述されていたようなテーマや洞察には当然ながら至りませんでした。
漫画を通じて何を訴えたいのかというメッセージ性が高く、今の時代の漫画と比較する突出していると感じます。
文体も話しかけてくる様なスタイルなのに、様々な四字熟語や英語のカタカナ表記があったりする点からすると、中学生後年から高校生位が読み手の対象かなという気がします。
本の厚みが薄く、文字も文庫本としてはかなり大きいのに、一日では読み切れませんでした。冒頭から最後迄かなり濃縮された内容でした。全く以て無駄がない一書でした。自然・科学・人間・生き方等、多岐に亘る内容について言及されていて、読み応えがあったのと同時に、色々と考え巡らせられました。貴重な本だと思います。
紙の本
正義を描く漫画家が伝えるメッセージ
2005/09/09 15:15
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:RinMusic - この投稿者のレビュー一覧を見る
福知山線で三田方面から宝塚へ、中山寺を過ぎると武庫川が断崖を削って流れている。崖からこぼれ落ちそうなほど住宅ができ、道路に車が溢れている姿は、治虫少年の知るところのものではなかったが、大きな変貌を遂げる現代日本に生きた一少年はやがて、幼少期の至高の経験を漫画の主人公に代弁させていった。(大人になるとそれを幻想として片付けてしまいがちだが)子供は夢を見るが、その夢の厳しさを時々知っている。『アドルフに告ぐ』で、ドイツ大使館の追っ手から逃れる少年アドルフは神戸から宝塚を越えて有馬温泉まで行く。必死の大逃行も有馬温泉で待ち伏せされて捕まるはめになるが、そこで少年アドルフはその追っ手と揉み合い橋の上から突き落とす。ここには子供なりの精一杯の“正義”がある—それは体制や社会が振りかざす“正義”とは異質の、人間としての謙虚な“正義”ではないだろうか? そう、手塚治虫という漫画家は小さな正義を描く漫画家だった。破れない壁をアトムに、治せない病をブラック・ジャックに、超自然的対象の謎に負ける写楽に、冒険させては人間的限界を教え込んでいる(そしてやがて人間的正義へと方向づける)。
私たちは万物の霊長として、その科学力を過信して奢っている損存在である。<自然や人間性を置き忘れて、ひたすら進歩のみをめざして突っ走る科学技術が、どんなに深い亀裂や歪みを社会にもたらし、差別を生み、人間や生命あるものを無残に傷つけていくかをも描いたつもりです>(p.26)と言って、手塚治虫はアトムに鉄腕という責め苦を与えた。誰もが持ちたがるアトムの力強さ、それが諸刃であることを諭している。未完の『ルートヴィヒ・B』で楽聖ベートーヴェンが大自然の奏でを彷徨として聞いているように、耳を澄ませて大自然に生きる術を聞き取ることを、手塚漫画はライフワークにしていたように思われる。—<ガキ大将といっしょに日暮れまで走りまわって遊べる幻想の王国でした>(p.13)