紙の本
ハードSFウルトラマン
2004/03/24 20:43
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
プラズマ生物、というものがいたと思いねぇ。広範囲・低密度に広がり、ある程度自分の体の形や大きさ、構造を、自分自身の意志で作り替えることができ、知性があり、膨大なエネルギーを体内に秘めていて、宇宙にぷかぷか浮かんでいる……そんな生物を。そんな生物でも知性があり、仲間同士で社会を作っている。社会という物があれば、当然、そこから落ちこぼれるのも出てくる。本人のミスや偶然が重なり、不本意ながら種族内で「落ちこぼれ」になってしまった「ガ」が、本書の主人公(の一人)だ。「ガ」は、名誉挽回を計って、種族全体に不利益な(同時に、正体がいまだ判然としていない)敵、「影」を追って、本来の住処とはまったく異なる環境である地球上に降りてくる。
その途中、「ガ」と「影」の追跡劇に巻き込まれ、墜落した旅客機にたまたま」居合わせた諸星隼人が、もう一人の主人公だ。諸星は奇跡の生還(実際には、「ガ」による恣意的な身体の再生)し、以後、「影」によって怪事件が起こるたびに、「ガ」によって「超人」に変身して戦うようになる……。
はい、ここまで書けばわかる方には分かりますね。大まかなシュチュエーションは「ウルトラマン」です。でも、これ、著者が小林泰三でレーベルが「角川ホラー文庫」なんですよ。かなりスプラッタ、グロテスクな描写が盛り込まれていて、なおかつ、ハードSF的な考証もかなりしっかりやっています。
個人的にはグロ関係の描写はあまり引っかからなかったけど、「ガ」の種族の生態とかの設定とかがかなり作り込まれていて、そのあたりだけでも面白かったです。あと、「影」(一種のオートマトンか? 「影」自体の意志はあまり感じられない。プログラムされたままの行動をルーチンでやっている、という感じで)の影響を受けた人間たちの行動のばかばかしさ、愚かさに大いに失笑。宇宙生物の「ガ」が、全キャラクターの中で一番まともに見えるのってどうよ?
設定とかはかなり突飛だけど、意外なところで笑えて(まあ、苦笑がかなり混ざっているんだけど)、意外な所で一種の詩情がある(特にラストは、いい。かなり、いい)。なんだかんだいって、かなりお得な一冊でした。
酩酊亭亭主
電子書籍
これは我々ウルトラファンが楽しむための作品だ
2023/04/28 20:03
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投稿者:マーブル - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはウルトラマン世代こそが堪能できる作品だ。その名前。その出会い。その形状。その叫び声。貸してくれた我が子には決して理解のできない小さな類似に歓喜する。大きな設定部分から気づかずに読み過ごしてしまいそうなところまで。ああ、これは我々ウルトラファンが楽しむための作品だ。しかし、ウルトラファンだけでなく、グロテスク好きのためだけでなく。SFとしても楽しめる。人類とは次元の違う生命体の描写も非常にクールだ。宇宙のあちこちに離れ離れに存在する生命体同士が、簡単に意思疎通してしまう従来のSFが陳腐に見えかねない。
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旅客機の墜落事故。乗客全員が死亡と思われた壮絶な事故現場から、諸星隼人は腕一本の状態から甦った。 一方、真空と磁場と電離体からなる世界で「影」を追い求める生命体”ガ”は城壁測量士を失い地球へと到達した。”ガ”は隼人と接近遭遇し、冒険を重ねる…。人類が破滅しようとしていた。新興宗教、「人間もどき」。血肉が世界を覆う―。日本SF大賞の候補作となった、超SFハード・アクション。
初めて読んだ小林泰三の作品。
とにかく面白かった!
この作者の特徴であるリアルでグロテスクな表現には衝撃を受けたが、淡々と描かれる登場人物の感情もしっかりしていてたのしめた。
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ウルトラマン研究序説が話題になったのが91年。この小説はリアル・ウルトラマンであり、リアル・デビルマンではあるけれど、そのセンスは科学や社会学ではなく、あくまでもSF。
人間は脳内の情報と肉でしかないと割り切る徹底的クールなスプラッタ。ホラーっていうのは悪趣味なギャグだと常々思う。原型を留めなくなった主人公の肉を触手がせっせと拾って再生する描写のおかしいことといったら!後味の悪いホラーではなく、いっぱい死んじゃっても爽やかってのがいい。まちがってもお食事中の話題には向かないけど。
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SFアクションホラーとでも言うのでしょうか、強烈なグロ・戦闘描写と、一方の主人公である『ガ』達『一族』の描写が鮮烈な作品です。
結構分厚い本なのですが、読み始めるととまらない。私がアクションホラー系の作品が好きだということもありますが、描き出される世界観の妙、お話のところどころにでてくる様々な作品に対するオマージュが心地よくて、引き込まれます。鮮烈なアクション描写も熱いですし、これはかなりオススメ。特に二十代後半から三十代後半の人はかなり楽しめると思いますです。このあたりの年代の人なら分かる様々な作品へのオマージュが、物語を引き立てるスパイスになっているんですよ。
物語のあらすじを説明するのは野暮なんで避けておきますが、聖書だの人知を超える存在だの、崩壊していく世界だの、ツボをついた設定と説得力のある文章は素晴らしいです。ちょっと登場人物が皆、論理的過ぎる気もしますが、それがこの作品の世界観を下支えしている所もあるので、欠点とは言い難いかな。
最後に一言でこの作品を紹介しようと思います。読んだ人なら分かると思いますが、SFホラー版○○○○○○。
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ウルトラマンをハードSFで再現したらどうなるか。小林泰三はこんなバカなことを大真面目にやってしまう作家なのです。グロホラーとハードSFが見事に融合し、ダークなアクション大作ここに降臨てなもんよ。なにげに今までの作品の小ネタやガジェット周りを再利用して補強している部分などもあり、集大成ともいえる作品となっております。ただ、なんといってもウルトラマンなわけでして、頭の固い人には文句たらたらでしょうが、そこはそれ、我々ボンクラには楽しくてしょうがないところですよ。逆に考えれば、ネタだと思って読んだ方はそのスケールの大きさと練りこまれた描写に驚かれることでしょう。作者は短編作家と見られる向きもありますが、長編でもこれだけは文句の付けがたい作品だと思われます。
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冷徹な理論によって紡がれた”黙示録”
ウ○トラマンのパロディにして、ハードSFの最高傑作。
でも後半は永井豪のデビルマンチックでした。
要所要所で小林泰三らしい笑いもちりばめられていて素敵。
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『SFが読みたい! 2002年版』で国内二位だった作品。
一言で言ってしまえば、スプラッタでグロい。
にごった、どろっとした粘着質の液体が町中にあふれるさまが表現されていて、それらをリアルに思い描くことができる。主人公の体が破壊・崩壊し、再生されていく様も見事だ。
しかし、ただグロいだけでは終わっていなかった。
われわれ人類をはじめとする地球上の生物とはまったくかけ離れたタイプの宇宙人が非常に細かく描かれている。
この宇宙人は、プラズマと磁気から構成されているらしい。そして自己はデータの集まりであり、データを違う個体と共有することができる(この描写は宇宙人のデータ交換にすぎないのに、なぜかエロい)。とにかく、いままで思いつきもしなかったような宇宙人が描かれ、それがまたリアルなのだ。
ΑΩはあらゆるSFテーマを扱っている。宇宙人とのファーストコンタクト、宇宙人による侵略、超人に変身し悪と戦う主人公、新興宗教によるアルマゲドンと人類滅亡の危機、新人類の誕生・・・。こんなにぎっしり詰まっているのにもかかわらず、ぐいぐいと引き込まれてあっという間に読み終わってしまった。
ちなみに、このSFはウルトラマンを彷彿させる。
私は、ウルトラマン世代ではないので、詳しいことはわからないのだが、このSFの主人公の名は「諸星隼人」という。諸星といったら・・・たしかウルトラマン・セブンだ。
それから、ジャンプするときの掛け声は「シュワッ」。
主人公が変身した姿は白銀の巨人。
痛い描写やグロテスクな描写が苦手でなければ面白く読めるはずである。
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SFが強すぎて逆に好き。SFはあまり読まないので完読にちと苦労したけどさぁ〜。
遊んでる感じが良いね。う・ウルトラマンきた〜ってなったのは私だけでしょうか?
これを見つけた時は泰三久し振りのご対面だったからハードなのに新冊で買いました。
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2009年2月2日読了。「玩具修理者」の小林泰三の、(文字通り)血湧き肉踊るSFスプラッタ・バイオホラー作品。プラズマと磁界に存在する(人間から見た)宇宙生物「ガ」が未知の生物「影」を追って地球に降り立ち、地球人諸星隼人と共生をはじめ・・・と、『寄生獣』になると思いきやこれは『デビルマン』か?作者ならではの、建造物が肉に侵食されるモチーフも多々出現し、相変わらずの邪悪な世界が繰り広げられる。が、「超人」の描写や人物同士のどこかとぼけた神学論議など、ダークなだけでなくシニカルなユーモアも感じられ面白い。万人にすすめられる小説ではないが・・・。
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なんらかの理由で闘っている2種族の宇宙人がいる。一方が偶然地球にやって来、それを追ってもう一方のほうの宇宙人もやってくる。そして人類の迷惑をかえりみず地球で戦闘を始めてしまう。多くの場合、この宇宙人は人間の体に寄生して日頃は人間として暮らしている
知的宇宙生物「ガ」は、得体のしれない宇宙生物「影」を始末する任務を負って地球にやってくる。もちろん「影」が地球に逃げこんだからだ。ガは、飛行機事故で命を落とした諸星隼人の肉体組織を復元して彼を甦らせ、彼のなかに寄生する。こうしてガと「影」との壮絶な闘いが幕をあける。
「影」の影響によってみるみる異形に変じていく世界。最初のうち、この著者ならではのグロテスクホラーの印象なのだが、読み進むにつれ、「ウルトラマン」が顔を出しはじめる。ただしこの小説の「ウルトラマン」は汚物と苦痛と臓物と血にまみれている。
幕引きも良い。物語設定は諸星隼人にとってかなり絶望的なもので、そして確かに悲劇的な結末を迎えるのだが、それは「悲劇的でありつつ、ハッピーエンドでもあるラスト」。不思議に感動的で心地よかった。
快作/怪作である。
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この小説は、いかに早い段階でこの小説が何を意味しているかに気づけるかで読者のカンのよさを図るものさしとして使えるでしょう。
主人公は「プラズマ生命体」であるガ。彼は謎の敵「影」を追って地球にやってくる。しかしその際、旅客機との事故を起こしてしまい、その中の一人の登場客「諸星隼人」の体を使い、地球に降り立つ。
そして彼は、謎の影と戦うために三分間だけ巨大化して戦う。そして掛け声は「ヘヤ!」とか「ジュワ!」とか「ダッ!」
さすがにここらへんでいい加減読者は気づくでしょう。「ああ、ウルトラマンなのか」と。
この作品を一言に要約するならば、真面目に、かつ全力で生み出されたパロディ。ウルトラマンを再解釈して、小林テイストを入れるとこうなるんだなぁ、という結果がこの本でしょうか。まさかホラーを読んでいてロケットパンチの描写やジョジョネタを見る事になるとは予想だにしませんでした。
主人公であるガの名前が玩具修理者っていうのは、ファンだったらニヤリとくる内容かも。
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旅客機の墜落事故。乗客全員が死亡と思われた壮絶な事故現場から、諸星隼人は腕一本の状態から蘇った。
一方、真空と磁場と電離体からなる世界で「影」を追い求める生命体“ガ”は、城壁測量士を失い地球へと到来した。“ガ”は隼人と接近遭遇し、冒険を重ねる…。
人類が破滅しようとしていた。新興宗教、「人間もどき」。血肉が世界を覆う――。日本SF大賞の候補作となった、超SFハード・アクション。
文庫の後表紙に書かれたあらすじを見て、瞬時にこの作品のネタ元が分かった。
今でも実家を探せば、関連の本やビデオが出てくるであろう、幼い頃のヒーロー。ならば買わねばなるまいとレジに持って行ったのは、早四年も前のことになる。
角川ホラー文庫は中二の夏時分、バイブルのようなものであったから、作者・小林泰三の名前は知っていた。
その力量と、天才的悪意も。
だが、あくまで短編としての才能にしか触れていなかったため、文庫500ページ弱の長編には少しハードルを下げて望んだ……。
……ところが。
読み出したら止まらない小説はなかなか巡り合わない。
本書はその中でも、震えながら読んだ稀有な作品だった。
ちょうど、ネタ元から離れかけていた中学生時代、神の悪戯というべきか、空想科学読本という研究本が流行っていた。
解体されていく光の巨人に、好奇心をかきたてられながらも、夢を砕かれる音を聞いた。計算と情報による綿密なリアリティが構築されていく爽快感は、同時に複雑な気持ちを抱かせたのだ。
そんな時、出会った本書。
空想科学読本とは別ベクトルのリアリティの追求。かたや研究本、かたやSF小説だから当然であるが、圧倒的イマジネーションによるストーリーと筆力で、この上ない興奮を感じたのである。
私情から離れて記せば、(小林泰三氏のみならず、ホラー、SFの)初心者には不向きな作品である。
少なからず、作者のデビュー作は読むべきか、その存在を知っておく必要がある。
(でないと、“ガ”に訪れるラストシーンの一幕の感動は玉石の差となってしまう)
特殊用語、あまりに生々しいグロテスク描写は不快感をも招く恐れがある。
しかし、帯に書かれた超ハードSFホラー大作という肩書きは嘘をついていない。
これに惹かれた人は是非、ページを開き、隼人と“ガ”の冒険を目撃して欲しい。
すると、最後。
冥王星の軌道を超えたその向こうに、ウルトラの星が、君にも見えるはずだから。
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へたれ宇宙人が名誉挽回のため敵対する勢力を抹殺に地球に。最初の光が2つ地球に来るところはウルトラマンとベムラーを思い出す。
ウルトラマンの設定に似ているが巨大化はそんなにしない。
最後は嫁さん救出に収斂するのはちょっと。ラスボスもちょっと物足りない。光線の理屈はなるほど。
一箇所ジョジョネタ発見。
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初めは元ネタとのギャップに笑うところが度々あったけど、途中から不快極まりない描写が連続して疲労した。でもやっぱこれがこの人の持ち味。登場人物が軒並み基地外臭いとことか不快通り越してにやけてしまう。しかし、最後のあれはセルフパロディって扱いでいいのかな。