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商品説明
江戸時代の歌舞伎と現代の最大の違いは、観客がとてもリラックスできた点。江戸歌舞伎は現在のテレビだったのです。当時のような自由でのびのびして何より楽しくてたまらない歌舞伎にご案内。中村勘九郎との特別対談も収録。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
小林 恭二
- 略歴
- 〈小林恭二〉1957年兵庫県生まれ。東京大学文学部美学芸術学専修課程修了。「電話男」で第3回『海燕』新人文学賞、「カブキの日」で第11回三島由紀夫賞受賞。著書に「俳句という愉しみ」など。
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紙の本
世にいう三大名作があまり好きではありません、ってはっきり言う所なんざぁ、たまりませんなあ。それをうける勘九郎もさすが
2004/05/15 21:20
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
カバーに利用されているのは歌川国貞の『中村座三階図』、国立劇場が所蔵する浮世絵。文政7年11月の顔見世の時の中村座の楽屋風景。で、このちょっと岩波書店か何かの本を思わせるブックデザインは中岡一貴、本文中にある絶妙のイラストは中島まり。これはなかなかの優れもので、数も多くて楽しめる。特に勘九郎を描いたカットなどは、その勢いまでも描ききって見事。
本文は三章構成で、冒頭に「道のりははるか遠く険しい……か?」という文があって、それから第一章「演目別・歌舞伎の魅力」、ここでは七つの演目が取り上げられる。三人吉三、研辰の討たれ、義経千本桜、鏡獅子、怪談乳房榎、仮名手本忠臣蔵、椿説弓張月が、それ。
第二章は「中村勘九郎・小林恭二特別対談」、第三章「歌舞伎をもっと楽しもう」は歌舞伎座探検、歌舞伎の変容について、芝居四方山話、後援会についての4つに分かれる。これに、あとがき、これから歌舞伎を見る人のためにがつく。
でだ、歌舞伎大嫌い、権威・古典憎しの私が普通ならば絶対に手を出さない本である。それを読んだ理由は、ひとえに著者が小林恭二、『荒野論』『カブキの日』『首の信長』『本朝聊斎志異』『宇田川心中』といった私の好きな作品を書いている人の本だからである。ただし、この前作に当たるらしい『数寄者日記』といった茶道本と『悪への招待状』という歌舞伎案内本は、なぜか読んでいない。たまたま赤い糸に気付かなかったからかもしれない。
で、たまたまこの本と前後して小林の『宇田川心中』、近藤史恵『二人道成寺』を読むことになって、自分の幸運を思わずにはいられなかったことをここに書いておく。私の中の歌舞伎に対する憎悪(まったく偏見であることは分かってはいるけれど)が、氷解とまではいかなくても、うーむ、やっぱり見もせずに文句は言えないわな、と思わせる力がある。
いや、歌舞伎嫌いを好きにさせよう、などといった意気込みを、熱気を伝える本ではない。そんな小林に、あの中村勘九郎は、いとも気軽に対談に応じる。本心はともかくとして、それは二人の中に「古典だから、無条件で大事に扱え、保護しろ」といったお上の発想ではなく、もし自らが変わろうとはせずに人々の支持を得ることができなくなれば、歌舞伎といえども滅びても構わない、だからこそ自分たちは面白い歌舞伎を演じる、見るのだという覚悟があるからだろう。
ついでに、忠臣蔵と義経談、自民党と旧社会党、高校野球と大相撲が大嫌いな私は、小林の「ちなみに三大名作とは「千本」の他に「菅原伝授手習鑑」と「仮名手本忠臣蔵」を指します。(中略)ただこんなことを最初から言ってしまうのはルール違反かもしれませんが、わたしはこの三大名作があまり好きではありません。これより近松門左衛門、鶴屋南北、河竹黙阿弥の作品のほうがずっと好きです。」という言葉に狂喜してしまうのだ。
しかもである、小林はナント、同じことを特別対談のなかで中村勘九郎に言うのである。思わず「言っちゃっていいの?」と珍しく思うのだが、実はわたしたちのそういう本心をぶつけない限り、古典は古典のまま死滅するし、日本の政治も行政も変わらず、小松左京のいうように我々自身が沈没してしまうのだ。それがわかっているから、勘九郎は苦笑いしながら小林の言葉を受けるのである。
後援会情報も面白い。よく捕物帳を読んでいると、歌舞伎役者が贔屓の招待する席に呼ばれる記述があるけれど、それは今も変わらないらしい。わたしは、お金持ちの席にしか行かないのだろうと思っていたら、後援会に気軽に出てくるし、公演の座席によっては芝居がはねたあとに出演者と写真を撮ってもらえるものもあるらしい。唐十郎、野田秀樹といった現代演劇を変えた人たちの話もでてきて、これなら歌舞伎をみてもいいかな、と思わせてくれる。ともかく小林恭二・中村勘九郎に拍手である。