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紙の本
心が穏やかになる癒しの世界
2004/04/06 18:34
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ごんだぬき - この投稿者のレビュー一覧を見る
還ってきた最愛のシリーズに、思わず本屋で歓喜の叫びを上げそうになってしまった。
早見氏の文章は繊細で美しく、そして切ない。中でも、この水淵季里シリーズは特に美しい。著者の愛情を一身に受けているかの如く、素晴らしいまでに輝いているように感じられてならない。
主人公の「異質」であるが故の苦しみ、哀しみ、疎外感。どこか現実味を持たない、「精霊」のような彼女の心は、あまりに脆くて繊細だ。にもかかわらず、彼女の芯は強く、折れそうでいて決して折れない。その強さは「他人のため」だけに用いられる……というのが、読んでいて胸を締め付けられる。
彼女を信じ、愛し、守る周囲の人々(神も含む)の優しさは無条件の好意だ。それらすべてが絡み合って、静かな感動を導いていく。
今回は著書が永住した沖縄が半分の舞台となる。沖縄に魅せられた著者ならではの描き方が、また心地よい。沖縄の空気、におい、息づかいが伝わってくるのだ。豊かな沖縄、悲劇を秘めた沖縄、そこで繰り広げられる友情。のほほんとした沖縄の人々の、あたたかくて広い心に癒されるのは、我々が忘れたものを思い出させてくれるからかもしれない。
一文字一文字が愛おしく、一頁一頁進むのが嬉しくもあり惜しくもあった。読後、疲れていた心が凪いだ海のように穏やかな気持ちに包まれていた。
読んでない人は、ぜひ。
紙の本
「普通じゃなきゃいけないってことないよ。誰も困らないんだもの」
2004/04/22 18:57
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:成瀬 洋一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1994年のある夏の夜、リゾートホテルのフローリング床の上に、一団の老若男女が車座になって互いの小説への思いをぶつけ合い、語りあっていた。開け放した窓から涼しげな風が流れ込んでくるが、それはあっという間に熱気へと変じる。
その中の1人が、沖縄に来た感想を熱く語った。
「剣と魔法が出てくるばかりがファンタジーじゃないですよ。沖縄って、今でもユタと呼ばれる人がいるんです。そういう存在があたりまえに生活の中にある。そういう話を書いてみようと思っています」
それが早見裕司という人でした。
この人の書いた文章は、それまでにも読んだことはありましたが、SFイズム誌掲載の皮肉と洒落の効いたコラム「あかるいSF仲間」のようなものばかりであり、果たしてどんな作品を見せてくれるのかと楽しみにしていました。
それからもう10年が経ち、その人は都市伝説的なテーマの作品を発表するようになっていました。
この話はそうした1冊であり、中でも沖縄色がもっとも強く出ている作品です。
沖縄から東京に転校して来た少女・告未(つぐみ)は苛めから1度は自殺を考える。図書館の屋上から飛び降りようとした告未に声をかけたのは水淵季里という少女だった。その言葉に腹を立て、死ぬことさえ忘れた告未だったが、その直後、季里もまた同級生の少女たちに責められているのに気がつく。
人とちょっと違っている2人の少女が知り合い、友情を育むが、やがて1人が何ものかに取り憑かれ……。
面白い話なのですが、なんかすっきりしないな……と感じ、その原因を考えてみると、主人公が3人いるせいかもしれないと思いました。告未と季里と、そして沖縄です。この3者それぞれへの描写がいずれも中途半端に終わり、まだ完全に1つの作品としてこなれていないという感じです。
また、この話は別出版社から出ている『夏の鬼 その他の鬼』の直接の続編ですから、そちらを読んでいないと季里がどうしてそんな力を持っているのかとか、彼女の家族や友人たちについてすっきりしない箇所も多いです。
『夏の鬼 その他の鬼』と併せて読んでみると、その本当の面白さが伝わるんじゃないかなと思いました。