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イラク建国 「不可能な国家」の原点 (中公新書)
イラク建国 「不可能な国家」の原点
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紙の本
誰もが「国民国家」を持てるわけではない!
2004/08/05 12:15
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は日本経済新聞の辣腕記者にして、雑誌「選択」の元編集長だった阿部
重夫氏が著したもので、内容は1920年代にイラクが英国の手によって建国
されるまでの中東史である。
テーマの中核はイラクという「不可能な国家」を民主化するというアメリカ
の野望ははじめから無理であり、それはイラク建国の歴史を振り返れば自明
のことであるというものである。阿部氏は本書のエピローグで「人民民主
主義」という名の共産主義が破綻したようにネイションステイツという名の
近代国民国家も破綻し行き詰まっている。イラクという英国が無理に無理を
重ねてでっちあげた人口国家ははじめから維持することが不可能な国家で
あり、これを無理やり治めようとすればフセインのような独裁政治を
「必要悪」として導入せざるを得ない。しかし、それを継続することが
不可能となった今、イラクを国家としてどうやって維持するのか。それは
やはり不可能なのではないのか。米国がイラクから屈辱的な撤退を迫られる
のは時間の問題だ」という趣旨のことを書いている。
それにしても第一次大戦後の1920年代とはヴェルサイユ条約、不戦条約と
世界各国が戦争の惨禍への反省から侵略戦争の否定と平和主義に流れていった
つかの間の繁栄の時代かと思いきや、モスル州の大油田を確保すべくイラク
で英国がこんなに頻繁に軍事作戦を展開していたとは知らなかった。世界が
石炭の時代から石油の時代へと移行する中で、国内にほとんど油田を持たない
大英帝国が中東油田の確保にいかに焦燥感を募らせていたかが良く分る
(ちなみに国内に大油田を所有していたアメリカは中東では無理な行動を
せず、瓢箪から駒の行幸もあって世界最大の油田を持つことになるサウジ
アラビアの石油利権を易々と手に入れてしまうことになる)。
イラク情勢は出口の見えない混迷の中にあるが、その混迷が実は非常に根の
深いもので、そうは簡単に解決しないし下手をすると混乱は収まるどころか
益々深刻の度合いを増してしまうのではないかという懸念が本書を読むと
一層募ってくる。今の中東情勢を理解する好著である。
ただ苦言を言わせていただくと、文章が非常に読みにくい。流麗とは正反対の
リズムに欠ける読みにくい文体であり、通読するには骨が折れる。マスコミで
散々文章修行したはずの阿部氏はついに「岩波文化人」の枠を脱することが
出来なかったのか。それとも陥穽(かんせい)、暁闇(ぎょうあん)、渺茫
(びょうぼう)といった難解な漢語をこれでもかこれでもかと羅列したがるのは
単に久しぶりに図書館通いして勉強した阿部氏の衒学趣味なのか。理解に
苦しむところではある。