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商品説明
ピラミッドの謎に魅せられ、その生涯を「タイムマシン」の開発に費やした現代人ジェディは、紀元前2624年への時間跳躍に成功する。だが、クフ王の治世下にあるエジプトで彼が目にしたのは…。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
高野 史緒
- 略歴
- 〈高野史緒〉1966年茨城県生まれ。お茶の水女子大学人文科学研究科修士課程修了。95年、日本ファンタジーノベル大賞最終候補作「ムジカ・マキーナ」で作家デビュー。著書に「架空の王国」など。
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紙の本
工夫しているのは良く分かる。大変だったろうなあ、思う。でも、文章とヒエログリフを除いたら、結構プアじゃない?大体、年齢不詳の主人公が、結構、軽薄なんだよね
2004/07/23 18:53
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
装丁 岩郷重力+WONDER WORKZ。カバーイラスト加藤俊章。で、このホルス神を主題にしたようなカバー画、センスが抜群である。早川のSFシリーズ Jコレクション中、最高ではないだろうか。本来平面的なエジプトの壁画に、微妙に陰影をつけ、平面でありながら、どこか三次元的な印象を与えるカバー右と、灼熱の砂漠を思わせる抽象的な左側、そして絶妙の色使い。畏れ入りましたである。
「ピラミッドの謎に魅せられ、その生涯を〈タイムマシン〉の開発に費やした現代人ジェディは、紀元前2624年への時間跳躍に成功する。だが、クフ王の治世下にあるエジプトで彼が目にしたのは、建造途上にあるはずのピラミッドが発掘されている現場だった。なぜかジェディを崇拝する監督官のメトフェルもまた、その秘密については固く口を閉ざす。ピラミッドとは何か? その目的は? 帰還期限が迫るなか煩悶するジェディは、ついにクフ王その人への謁見の機会を得るが……古代エジプト哲学とSF的奇想を融合させた、『アイオーン』の著者による新境地。」
私が高野を読むのは『ムジカ・マキーナ』、『ヴァスラフ』に続いて三作目で、決していい読者ではない。どの作品も、文章の背景にもの凄い資料・情報の存在をうかがわせ、片や中世、片や近未来と近代の融合といった一筋縄では行かない時代設定に、幻想的な物語を濃密な文体で、ねちっこく描いた作品、との印象はあるが、どちらかというと知に溺れる傾向が見られて、本当の物語の面白さとは違うのではないか、といった疑問を抱きながら読んだ記憶がある。
で、この話、タイトルからも分かるように古代エジプトが舞台。全体構成は、プロローグとエピローグ、あとがき、その間に五章が挟まる。第一章は、冥界の入り口を意味する「ロスタウ」。第二章は、文字や計算を司る女神を祭る「セシュアト神殿」。第三章はクフ王がいる都「イネブ・ヘジュ」。第四章は王位更新祭であり、在位30年を越えた王が、王殺しの後に若い新王として再生する「セド祭」。第五章は、太陽神の昼の船が向かう「冥界」。
主人公は、いないような話だが、強いて言えばタイムマシンを操って古代エジプトの地に、ピラミッド建造の謎を探りに来たジェディだろう。実際の年齢は、かなり上らしいが、正直、高野の思いとは別だろう、かなり野心家の、どちらかといえば軽率な人間に見えてしまうのは、どうしたことか。
その点、若いはずなのにその落ち着いた挙措で魅力的なのが、何故か時を越えてやってきたジェディの正体を知っているようなピラミッド建造というか、発掘の監督官でクフ王の企みに反発するメトフェルであり、思惑を秘めた少女メリトラーである。その点、名前こそ頻繁に出てくるもののクフ王と王子ジェドエフホルは影が薄い。
話は、衒学的な部分を除いてしまえば単純なものなので、これ以上は書かない。で、やはり高野の特徴というか、わたしは欠点とみるのだけれど、情報に耽溺しているなあ、もっと深い話なのに、それが結局表面的な装飾に読者が、そして何より高野自身が幻惑され、結局はそこで終わってしまったかなあと思うのである。タイムマシンなどという設定抜きで、そしてヒエログリフなしで、もっと凄い王朝ドラマが展開できた気がしてならない。
古代エジプト哲学? 哲学って言葉を安易に使うなよ、これって古代宗教学だろうが、哲学・宗教・科学の未分化な時代を描いているのに、出版社はもっと用語に気をつけろよな、などと思いもする。パイロット版を書いて、それをさらに練り上げたのがこの作品だという。この主題なら、もう一度挑戦する価値があると思う。10年後を楽しみにしたい。
紙の本
古代エジプト人の生活を再現してみせた野心作
2004/05/19 11:33
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:喜多哲士 - この投稿者のレビュー一覧を見る
エジプトのピラミッドの神秘に心ひかれた男が、家財を傾けてまでしてタイムマシンを発明し、クフ王のピラミッドが建築された時代にやってくる。しかし、男は既にできあがったピラミッドを見て呆然とする。歴史学上の定説とは違い、ピラミッドが建築されたのはさらに太古の出来事だったのである。
本書は、単なる時間旅行ものではない。というよりは、時間旅行はある意味では物語を面白くする手段に過ぎないのかもしれない。
本書のテーマは、人間という存在の成り立ちを、ピラミッドという古代の巨大建造物を手がかりにして解き明かそうというものなのである。主人公の時間旅行者は、その謎を解く探偵であり、物語を進行させる狂言回しでもある。彼の視点にたった読者は、白紙の状態でピラミッドの謎に対峙し、まるで古代のその場に居合わせるような気持ちでその謎を解く作業を主人公と共有する。この構成により、本書はエンターテインメント性の高い作品に仕上がっている。
むろん、高野史緒は世間に流布するトンデモ学説をそのまま受け入れるような愚は犯さない。それどころか、ここで作者が示す回答は、そういった俗説や珍説をも包含するスケールの大きなものなのだ。
また、本書では宗教と科学の関係が追求される。登場する神官や巫女は、宗教の教義や儀式をただ単に受け継ぐだけの存在ではない。観測した結果と伝えられる神話との差異に心を悩ませるのだ。そういった高邁な思考に強引に割り込むように、俗世の権力欲のことしか頭にない人物が登場する。
聖と俗、宗教と科学、現代人と古代人……。様々な二項対立が複雑にからみあいながら、真実に向けて物語は進む。したがって、複雑な謎さえも最終的には一点に収斂されていくのである。
作者が古代史に挑んだ野心作である。乏しい史料の断片から古代エジプト人の生活を再現してみせた。その情景のリアリティには驚かされるばかりだ。
さらに、タイムマシンでもとの時代に帰る時間が決まっているという設定は、読者にスリリングな面白さを楽しませている。
本書は高野史緒の新境地開拓への意気込みを感じさせる一冊なのである。