隠し剣秋風抄 新装版 (文春文庫)
隠し剣秋風抄

このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
収録作品一覧
酒乱剣石割り | 7-50 | |
---|---|---|
汚名剣双燕 | 51-92 | |
女難剣雷切り | 93-124 |
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
剣闘の緊迫感と人の苦悩や喜びを描いたチャンバラヒューマン時代小説
2010/01/13 19:02
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
隠し剣シリーズ第二弾。
映画「武士の一分」の原作となった『盲目剣谺(こだま)返し』を含む、全9編を収録している。
物語は、隠し剣シリーズ第一弾「隠し剣孤影抄」同様、個性を持った主人公が一流の剣技で使命を果たしたり、身にかかる危難を回避するというもの。
ジャンル分けをするとすれば、チャンバラ時代小説の部類に入るだろう。
しかし、単なるチャンバラというのも違う気がする。
それは剣闘の緊迫感の他に、さまざまな境遇に置かれた人物を描いているからだろう。
その人の営みから生じる苦悩や喜びは、物語に自己主張しすぎず、しかししっかりと存在して、ひとつまみのユーモアや悲哀とともに、作品に漂う雰囲気を作り出している。
この本は購入してから、すでに3回ほど読んでおり、良い作品は何度読んでも面白い。
『酒乱剣石割り』
討手を命じられた飲んだくれの弓削甚六。萎縮し堅くなった甚六の体を酒がほぐし、秘剣石割りが飛ぶ。
ユーモアに溢れる作品。酒を欲する甚六の様子が可笑しく、妹を思う甚六が暖かい。
『汚名剣双燕』
城中で人を斬った親友香西伝八郎を前に討ち取ることができなかった八田康之助。宿敵関光弥との闘いで双燕が康之助の汚名を返上する。
かつて伝八郎の妻になる前の由利に恋心を抱いていた康之助の、狂乱した伝八郎を前に刀を抜けなかった絶妙な心の動きを描いている。
『女難剣雷切り』
最初の妻と死別し、後添いの二人に逃げられ、女中も長続きしない女難の佐治惣六。道場の先輩から受けた屈辱と女難が雷切りを呼ぶ。
惣六の相貌とスケベ心が女難の原因ともなっている訳だが、相手に嫌われてはならないと自制しようとする惣六の姿が面白い。
『陽狂剣かげろう』
佐橋半之丞は若殿の側妾と話が持ち上がった婚約者の乙江と、自身の狂気を偽り別れた。二人の間を裂いた犯人にかげろうが立ち上る。
狂気を偽る半之丞が徐々に狂気の淵へ近づき、やがて狂者となってしまう姿は痛々しく、狂気の境を越えさせた理由が切ない。
『偏屈剣蟇ノ舌』
偏屈者の馬飼庄蔵は政敵を屠るため家老らに利用され、切腹を言い渡された。蟇ノ舌が使者を捕らえ、刃は家老へと向かう。
庄蔵の人の思う通りにしたくない偏屈者の姿と対照的に、美しい姉でなく醜女の妹を心から気に入って妻に選んだ真っ直ぐな思いが気持ちよい。
『好色剣流水』
近習頭取服部弥惣右衛門の妻女に付きまとい始めた女好きの三谷助十郎。それに気づいた服部と三谷の決闘に相討ちの剣流水が流れる。
自分でも止められない三谷助十郎の好色によって、破滅への道を辿る様子が描かれ、ただ切られるだけでないラストが女好きのとしての誇りを表現しているようにも思える。
『暗黒剣千鳥』
家老の命で奸物明石嘉門を亡き者にした三崎修助以外の四人が次々と暗殺された。暗殺剣千鳥が残る一人三崎修助を狙う。
討手の仲間が次々と暗殺される緊迫感と、正体不明の犯人が暗殺剣千鳥と結びついて明らかになっていく様子は、手に汗を握る。
『孤立剣残月』
討手に成功した栄光にいまだ酔っていた小鹿七兵衛は、討手の相手の弟から理不尽な果し合いを受けた。
妻との間も冷え切り助っ人もおらず孤立無縁で理不尽な果し合いに挑む七兵衛に残月が輝く。
「祭りが終わったのに、まだ踊っているやつがおる」という過去の栄光に酔う七兵衛の様子を喩えはすばらしい。
理不尽な果し合いを避けようと奔走するも助けがいない状況が、ラストに現れる助っ人をより鮮明に描き出している。
『盲目剣谺返し』
毒味役により失明した三村新之丞と妻の、すれ違う夫婦愛を描く。妻の仇を討つ谺返しが放たれる。
全9作品中、一番のお気に入り。
不定を働いた妻を許すが、ちょっとした悪戯心で意地悪をするラストシーンは、夫と妻の絶妙な距離感と心の動きが映像となって写し出されてきて、とても印象に残った。
何度この部分だけを読み返し、読後感を持続させたか分からない。
紙の本
秘剣の輪廻
2004/10/25 23:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「隠し剣孤影抄」に続く第二弾は、偏屈、好色、とんでもない酒乱と、主人公達の独特の個性が前面に出てきている。いささか極端な彼等のキャラクターは笑いを誘うが、剣客達の置かれている状況は、一層悲惨になっている。「汚名剣双燕」の八田康之助は、「隠し剣鬼の爪」と同じパターンで、秘剣に執着する道場の同僚から執拗に果たし合いを求められる。「孤立剣残月」の小鹿七兵衛は、師匠から秘剣「残月」を伝授された程の使い手である事を見込まれ、十五年前上意討ちの命を受けるが。四十を越えた今になって、この時のツケを払わされる。「陽狂剣かげろう」では、婚約者を奪われる代償に秘剣を伝授されるが、この伝授は彼を少しも幸せにしない。言い訳のための狂気の振りが、やがて本物の狂気に変わる様は痛々しくも、恐ろしい。勝利の喜びを得るために剣を手に取るというよりは、どうしようもなく追い込まれて、剣を振るう場合が殆どだ。秘剣が呼んだ不幸を、また秘剣で振り払う。するとまた、新たな不幸に出逢う。まるで一つの輪廻に取り込まれたようだ。この輪廻を断ち切る術はないのだろうか。
最終話「盲目剣谺返し」には、座頭市ばりの盲目の剣士・三村新之丞が登場する。通常の奉公が不可能となった新之丞だが、禄はそのままとなった。妻が、自らの体を代償にしてその境遇を購った事を告白するが、妻に身分保証を約束した新之丞の上司が、実は何の口添えもせずして代償を求め続けた事が明らかになる。人の弱味につけこんだ上司を許しておけず、新之丞は果たし合いを求めるが、勝ち目は殆どない。相手の動きを察知し、機先を制するか、或いは相手の隙を突いて斬り込むのが、主な手法の秘剣において、相手の動きが見えないのは致命的だ。ましてや、新之丞は、秘剣を会得せずして盲目になっている。シリーズ史上、最もハンデのある主人公が、いかにして勝利するかが興味深いが、この物語は勝負がついた所で終わりにはならない。二度と家に戻れぬ決意をする剣士も登場する中で、待っていてくれる妻と下男がいる暮しがある武士の話でこのシリーズが締めくくられた事で、断ち切るいとぐちを見つけた。おそらく、人の心で縺れた輪廻は、剣ではなく、人の心でしかほぐれない。
人間模様と剣戟小説という異なる材料を、端正な文章というスパイスで味つけした、しみじみうまい短編集。
紙の本
映画原作
2022/01/28 17:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MR1110 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「盲目剣谺返し」は木村拓哉主演の映画「武士の一分」の原作。時代小説はとっつきにくい印象があるかもしれませんが、食わず嫌いはせずにぜひ読んで頂きたい作品です。