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商品説明
机上でしか宇宙を知らなかった学生たちが突然、小さな人工衛星を作ることになった。あるのは根気と体力と情熱、かき集めた皆の知恵だけ…。日本初の超小型衛星プロジェクトに青春をかけた工学部学生たちの一年間の記録。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
川島 レイ
- 略歴
- 〈川島レイ〉北海道大学文学部中国文学科卒業。現在、NPO法人大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)事務局長。宇宙作家クラブ会員。
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紙の本
喜び勇み、失敗の坂を転げ落ち、成功の拳を突き上げよ
2004/07/01 19:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:松浦晋也 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ものを作る、それも自分の頭でああでもないこうでもないと考え、自分の手で何かを作り上げることには原始的な快感がある。これに、自分の作ったもので他人と競うという要素が入れば、もうたまらない。子供の時に作った模型飛行機や凧、少し年配の方ならより強くしようと改造したケンカコマを思い出す人もいるだろう。
本書は、大学工学部の学生達が、3人の先生に導かれて、「作って競う」世界へと突っ込んでいった記録だ。作るのは350mlの清涼飲料水缶サイズの人工衛星「CanSat」。宇宙空間に打ち上げるわけではないが、アメリカはネバダ州の砂漠でアマチュアロケットに搭載して打ち上げ、高度3000mから降下させて実験を行い、最後はパラシュートで回収するという本格的な運用を行うものだ。
学生らは最初はおずおずと、やがて生活の全時間をかけてCanSatに取り組んでいくことになる。CanSatは実習用の教材ではない。宇宙に行かないだけの「実物」なのだ。本物の衛星を作るべく、東京大学と東京工業大学の学生らは、本気で働き、いがみあい、協力していく。登場する学生達はそれぞれに個性的だし、東大と東工大の大学のカラーの違いも出ていて、開発の過程はおもしろい読み物に仕上がっている。
学生達を導く大学の先生らも、学生諸君に負けず劣らずキャラクターがはっきりしている。最初にCanSatの概念を提唱して、「やれば出来る、出来るんだ」と焚きつけた米スタンフォード大学のトィッグス教授、油っこいもの辛いもの高カロリーなものを食べまくってもりもり行動する東京大学の中須賀助教授、色々と考え悩む学生の後ろから近づいて「こんな構造はどうだろうね」ともっと厄介な機構をそっと吹き込む東工大の松永助教授。
これらの先生達は、手取り足取り教えるということはしない。目標の面白さに取り付かれた学生達を見守り、決定的な局面で適切なアドバイスをする。そして影で資金調達を中心とした裏方に徹するのである。皆、素晴らしい先生達だ。
本書は、苦労を重ねて出来上がったCanSat打ち上げの描写で終わる。詳細は読んでのお楽しみだが、印象に残るのは成功を喜ぶ者らではない。失敗し、打ちのめされてネバダの青空を見つめる3人の学生の姿だ。失敗こそは青春の特権なのだから、打ちのめされた3人の姿にこそ、CanSatというプロジェクトの本質が凝縮されていると言えよう。
本書を、特に受験勉強に押しつぶされそうになっている高校生にお薦めする。大学をブランドで選ぶのはおろかなことである。どんな先生がいて、なにができるのかで選ぼう。ある目標に向けて「作り、競う」なら、絶望の坂を転げ落るにせよ、成功の拳を突き上げて叫ぶにせよ、どちらも素晴らしい経験なのだ。
なお、本書には後日談がある。CanSatを経験した学生達は、次に一辺10cmの直方体の衛星「CubeSat」を開発し、ロシアのロケットで本当に宇宙に打ち上げたのである。2003年6月に打ち上げられた東大と東工大の衛星は、打ち上げ後1年を経た現在も順調に地球を回り続けている。
その経緯については本書の著者の手によるインタビューがホームページで公開されている(http://www.unisec.jp/cubesatstory/)。いずれこれもまとまって本で読めるようになるだろう。とても楽しみである。
(松浦晋也 ノンフィクション・ライター)