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商品説明
遺伝子工学の爛熟により異形の地と化した27世紀ラテンアメリカ。不老不死の一族、生体甲冑を纏う放浪者との愛憎劇の果てに、解放者アンヘルが求めた世界とは? 沖方丁、小川一水に続く新鋭の叙事詩大作。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
仁木 稔
- 略歴
- 〈仁木稔〉1973年長野県生まれ。竜谷大学大学院文学研究科修士課程修了。「グアルディア」で作家デビュー。
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紙の本
早川のこのシリーズ、長女に言わせるとスカもかなりあるらしいが、これはピンのほう。もしかして日本発の世界を動かすSFが生まれつつあるのかもしれない
2004/11/05 20:22
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
さてと、なんといっても見ているだけでワクワクしてくるようなカバーイラストに触れないでは、この話は始まらない。描いているのは佐伯経多&新間大悟、ちょっと見には何だか「日経新聞」みたいな字面だけれど、カバーデザインの岩郷重力+WONDER WORKZ。と組んで結構SF関係の仕事をしている。でも、いつもはCG色が強くて、今回の作品ほど格好いいのは無い。
でだ、肝心の小説だけれど、これがいい。投打のバランスというか、外面と内面の均衡というか実に見事なのだ。まず、文章がいい。いわゆる軽さなどは微塵も感じさせない重厚そのものなのだけれど、それは漢字が多いとか造語が一杯とか、もってまわった美文調というものとは明らかに一線を画している。これぞハードSFだろう。
しかも登場するのは、美貌の軍総統、これが実は女性で、しかも自分の生みの親と関係した記憶に引きづられるというのだから、かなり危ない。そういう近親相姦的なイメージが、溢れる中にブラック・ジャックのピノ子を思わせる少女や、盲目のというか目をもたない千里眼の娘といった、なんだか森博嗣の戦略的ロリコン趣味を連想させる子供たちを取り巻くのである。
さらに実験体であり、知性機械とくる。神林長平や山田正紀、それに往年の川又千秋を思わせるではないか。しかも、その筆は予想以上に27世紀のラテンアメリカの状況を描くことに費やされる。若いSF作家の未来ものの多くが現代と殆ど変わらない近未来を舞台にし、その世界を描くよりは手軽に描ける人物の心理描写(というか独白だけれど)に筆を割くのとえらい違いだ。
ところが、それが単なるハードSFに終わらないのだから、仁木さんアンタハエライ! ロマンチックであり、ときにエロチックであり、暴力的でもあるのだ。その多面性と重い筆致。簡単に読めるものではない。まさに神林長平であり、本気を出した時の山田正紀なのである。いやいや、評価が先にきてしまった。簡単な紹介は、本の裏から引用。
「22世紀末、遺伝子管理局が統括する12基の知性機械によって繁栄していた人類文明は、とあるウイルスの蔓延によって滅びた。そして西暦2643年、ラテンアメリカ 変異体と化した人間たちと種々雑多な組織が蠢く汚濁の地にあって、自治都市エスペランサは唯一、古えの科学技術を保持していた。その実験体にして、知性機械サンティアゴに接続する生体端末の末裔アンヘルは、混沌の世界を平定すべくレコンキスタ軍を組織、不老長生のメトセラにして護衛の少年ホアキンらとともに、サンティアゴの到来が近づくグヤナ攻略を画策していた。いっぽう民衆たちのあいだでは、サンティアゴを神の降臨と参詣団が形成され、その中心には守護者として崇められる青年JDと、謎の少女カルラの姿があった。アンヘルは、ある思惑を秘めて二人との接触を切望するが……。精緻にして残虐なるSF的イメージと、異形の者たちが織りなす愛憎と退廃のオペラ 沖方丁、小川一水につづく新鋭の叙事詩大作。」
「精緻にして残虐なるSF的イメージと、異形の者たちが織りなす愛憎と退廃のオペラ」は、付け加える必要がないキャッチ。その世界の長さは470頁、急いで読んでも一週間はかかろうという代物である。しかし、見返りは大きい。ミステリに続いて、もしかするとSF世界にも世界レベルの大きな波が日本から発信されるかもしれない、そういう予感一杯である。
仁木は1973年長野生まれ。龍谷大学大学院文学研究科卒というから、結構抹香臭いSFかな、などと先入観たっぷりで読み始めると、これが見事に肩透かしを喰らう。この作品成立の顛末は、巻末の著者あとがきに詳しい。ともかく、これがデビュー作というのだから、おっそろしいSF作家が現れたものだ。早川のこのシリーズ、長女に言わせるとスカもかなりあるらしいが、これはピンのほう、一読を。
紙の本
MRSF
2004/12/27 20:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:青木レフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりに読書が楽しかった。最終局面はアリアリの展開でつらかったが。
未来は変なことになってますよモノ。
宮崎駿「未来少年コナン」(テレビ)や山田正紀の「宝石泥棒」、バルガス・リョサの「世界終末戦争」遠藤 浩輝「EDEN」に神林長平てところか、共通項のあるのは。
なかでも「世界終末戦争」が一番近いと思った。起こり得る事は全て起こり得る、という豊饒のラテンアメリカを写実している。惹句を付けるならマジックリアリズムサイエンスフィクションか。
初っ端から伏せカードをどんどん開ていく展開が気持ちいい。
タンゴ描写あり。あとホアキンの弱さ萌え。
(投射by「短歌と短剣」探検譚)
紙の本
昨今の「純愛」ブームに痛棒を食らわす快作
2004/08/18 09:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:喜多哲士 - この投稿者のレビュー一覧を見る
27世紀末のラテンアメリカを舞台に、遺伝子工学が生み出した特殊な能力を持った人々の間に生じる様々な人間模様を描いた作品である。
進み過ぎた科学が人類にもたらす悲劇をモチーフにしたSFは、いわば定番といっていい。となると、新たに紡ぎ出される物語は、その悲劇に独自性をもたせなければならないことはいうまでもない。本書には、次のような人物が登場する。
荒廃した中南米の大地に安定をもたらすといわれる巨大コンピュータ〈サンティアゴ〉の生体端子であるアンヘル。不老長生の能力を持ちアンヘルを守ることが義務の〈グアルディア〉であるホアキン。ホアキンの兄で〈サンティアゴ〉とアンヘルの秘密をすべて知っているラウル。やはり〈グアルディア〉の力を持っている旅人JDとその娘カルラ。そして目を持たない代わりに他の五感が異常に発達した〈千里眼〉のトリニら、それぞれの能力とその能力によって割り当てられた役割が、独自の悲劇を生み出しているのだ。
その構想の大きさは、注目に値する。特に、失われたテクノロジーを復活させて秩序を回復させようとしているアンヘルの二律背反ともいえる行動原理が、人間にとってテクノロジーとは何かというテーマを読者に突きつける。アンヘルを慕うホアキンは、他者に依存することをアイデンティティとする者のカリカチュアライズされた姿であり、その兄ラウルはホアキンのようになりたくてもなれず、常に斜に構えることでしか自己の存在をアピールできない者を象徴している。JDの存在は常に「自分探し」をしている現代人に対するアイロニーであろうか。とすれば、カルラはそのような人間が自分の外部に作り出すアイデンティティーといえるかもしれない。
作者の仁木稔は、本書がデビューとなる新人だということだ。主語がどこにあるかわかりにくく文章がこなれていないところや、細部の描写を綿密にしようとするあまり全体像を俯瞰しにくいという難点はある。ラテン・アメリカ以外の土地がどうなってるのかについて一切触れられていないのも、世界の全体像を把握しにくい原因のひとつだろう。また、物語全体の構造が結局は「破壊と再生」というパターンに陥ってしまうというあたりも気にかかる。しかし、そういった点を割り引いても、作者が自分のもっているテーマを真摯に追求している姿勢には好感が持てる。「愛」というものがもっている本質的なエゴイズムを強烈に打ち出し、その歪みをえぐり出す。昨今の「純愛」ブームに痛棒を食らわす快作といっていいだろう。今後に期待できる新人のデビューである。