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紙の本
ひと息に読める異文化と料理のエッセイ
2011/01/15 21:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikimaru - この投稿者のレビュー一覧を見る
冒頭から軽快な文体(話しかけるような口述筆記の形式)で、ぐいぐいと読ませてくれる。
戦後の混乱期に少年でありながら煙草を売りさばいて親に見つかった話、万引きが発覚し包丁で指を落とすと言われたこと。戦後いったんは中国姓が有利とばかりに子供たち全員が母方の戸籍にはいりつつも、高度成長期を迎え日本姓が有利と見るや、昭和46年にふたたび全員で父方の戸籍にはいった(そのため実際には「程」は通称)こと。その結果として皮肉なことに、ご自身の奥さん(結婚時に日本籍を放棄)が家族の中でひとりだけ外国人登録証を持つことになって選挙権もないとか…そんな話がよどみなく流れていく。
テレビ番組で長いことご活躍で、有名番組「料理の鉄人」で陳健一を破ったとのことで、わたしもおそらくお顔に見覚えがあるはずのお方だが、読んでいる最中はまったく予備知識がなかった。その分だけ文章に集中できた気がする。
文庫化されたのは数年前でも初版は20年くらい前に書かれたもののようで、いくぶん時代を感じる表現や考え方があるが、料理のルーツや食材の由来などの蘊蓄はさすがであり、とくに中盤までは、まったく飽きない。
内容は、おおまかに
++++++++++
1. 料理人になるまで
闇市のこと、国籍や境遇、いったんは貿易会社へ、そして料理の道へ
2. 料理は変わる
日本における餃子、ヌーヴェル中国料理、日本の食材である味噌が外国料理に与える可能性
3. 「食」の今、これから
消費者として体にいいものを選ぼう、日本と台湾の食材販売事情
石毛直道氏との対談
++++++++++
と、なっている。
台湾ではもともと人参を料理に使う習慣がなかったという。著者がテレビの料理番組でビーフンに(彩りと健康のため)人参を入れたとき、台湾出身の母親がそんな貧乏くさいものをと、怒ったそうだ。入れただけでいっぺんに料理が台無しになるような食材が、当時の人参の立場だったらしい。その後、時代は彩りや健康に配慮したものとなり、本家の台湾でも人参は使われるようになったそうだ。
後半の「食」の安全性については、ちょっと素直に読めない部分もあったが(例:低温殺菌牛乳がよくて高温殺菌はだめの論拠としてご自身のペットの反応を書くなど)、本書が回顧録であり個人的エッセイであることを考えれば、自然なことかもしれない。ご自身の思いや信念を書かれるのに、より多くの人を説得できる文章を心がければいいのに…というのは、読み手が考えても仕方がないことだ。
(ちなみにわたし個人も、食べ物に関してあれはだめこれはいいと思う傾向はあり、低温殺菌牛乳のほうが味がいいとは、たしかに考えている)
脂と油の(おもに動物性脂肪を「脂」とし、植物性を「油」と分類する)表現もP.162付近にあったが、この本が最初に書かれた20年前くらいには、世の中で植物性製品を重んじる流れがたしかにあったように記憶している。だがそういう傾向は、かならず「巻き戻り」のような時代がやってくる。そのときはたいした理由を添えなくても世の中が納得してくれたものでも、のちに見ると論拠に乏しいように思えてしまうのだろう。
わたしが「ちょっと古いな」と感じたのは、このあたりの記述であり、それ以外はたいへん面白く拝見した。