紙の本
嫉妬を通して歴史上の人物を語る異色の書。著者の歴史家としての練達した視点と人間洞察が光る!
2004/11/29 11:12
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
嫉妬は、本当にやっかいな感情である。抑えようとしても抑えることが出来なくて、体の奥底からむらむらと黒雲のように湧き上がってくる。一旦この妄執に取り憑かれると、以前のように平静ではいられなくなり、視野狭窄に陥り、以前には考えられない行動を取ってしまいがちである。誠に、「人間的な、余りに人間的な感情」と言ってよい。それ故か、古来多くの文学・戯曲・ドラマなどで幾度と無く取り上げられている。多くは、読んで字の如しで、女性に縁があるとされてきたが、男性も同じようにこの感情の虜になることもあるのは言うまでも無い。むしろ、激しい競争社会にさらされている男性の方が、その根が深く激烈であるとさえ言える。これが、一般人であれば、まだ問題は少ないのだが、一国の権力者や周囲に大きな影響力を行使できる実力者が嫉妬に取り憑かれれば、事は重大になって来る。
本書は、著名な中東史家の山内昌之氏が、日本史・世界史上の著名な人物(男性)たちの苛烈な嫉妬を臨場感溢れる筆致で綴った異色の歴史読み物である。
取り上げられているのは、日本史では、臣下に嫉妬する君主(島津久光VS西郷隆盛)、学者同士の嫉妬(中谷宇吉郎VS大学の同僚学者)、軍人同士の嫉妬(東條英機VS石原莞爾)、苛烈なライバル関係(森鴎外VS軍医官僚)、兄弟間の嫉妬(島津義久VS島津義弘)など多彩である。
著者は、嫉妬に取り憑かれた著名人たちを、高みに立って論評するのではなくて、嫉妬の渦中にある歴史上の人物たちの置かれた状況も綿密に描いている。著者のこのような姿勢が、本書を読み応えのあるものにしている。
また、著者は、嫉妬する側を一方的に論難するのではなくて、嫉妬される側にもそれなりの原因や性格上の欠点があることを指摘し、公平を期している。
例えば、幕末薩摩藩の実質的な君主である島津久光の西郷隆盛への妬心は有名であるが、著者は西郷の方にも、先代の藩主の斉彬と常に引き比べ久光を軽んじる傾向があり、この辺りに摩擦を生んだ原因があるとする。先代の意思を継いで幕末政治改革に意欲を見せる久光に向って、西郷は「御前ニハオソレナガラ地ゴロ」なので、大事を成し遂げる器ではないと言い放ったと伝えられている。「地ゴロ」とは、田舎者という意味であり、何とも刺激的な言葉である。少なくとも、家臣が君主に向って言う言葉ではないであろう。
著者は、終章で、末代まで残る大きな業績をあげながら、嫉妬を受けなかった稀有な人物として、徳川三代将軍家光の庶弟保科正之の生き様を辿り、その先見の明と克己心と知足の精神に富んだ人となりを顕彰している。保科正之の為政者としての謙虚な姿は、本書の中で一服の清涼剤と言える。しかし、考えてみると、保科正之のような人物は例外中の例外で、これほどまでの境地に達するには、並々ならぬ心の鍛錬を要することであろう。
著者は、巻末近くに、本書を締め括るかのような次のような言葉を掲げている。
『嫉妬を避ける便法はない。…大事なことは、人を言葉で刺激しないことである。…思った感想や考えをすぐに口にださいないことである。「沈黙は金なり」とはやはり至言なのだ』
一見何気ない言葉のように思えるが、歴史上の人物たちの激しい嫉妬する姿を
思い浮かべると、実感のある言葉として胸に迫ってくる。
著者の山内昌之氏は、硬派の歴史家と知られ専門の中東史以外にも多くの本を執筆している。本書は、著者の本の中でも、異色の地位を占めると思われる。幅広い歴史上の知識と博識を有する著者にして、初めて書ける書物と言えよう。著者には、平易に書かれながらも歴史の隠された断面に触れることが出来る本書のような書物をこれからも書いていただきたいと切望する。
電子書籍
読み物としておもしろい
2020/11/07 22:35
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投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
どのくらい真実味があるかどうかは別として。男たちの嫉妬の話はなかなかすごい。嫉妬は人間のサガとはいえ、、、
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興味深い話がいろいろ載っていて良著と思いきや、
タイトルに「世界史」とあるくせに内容の50?以上が日本史とはどういうことよ?
これじゃ詐欺だろ。
個人的な疑問だが陸遜が諸葛亮の好敵手と書いてあったが、あの二人が何を競い何を争ったの?
それはおいとくとして、やたら説教くさいのもいただけない。
おまけに碌に資料を読んでいないから勝手な人物像を作り上げ歪め過ぎ。
巻末の【主要参照文献】をみるかぎり三国志に関しても正史を全く読まず竹田晃「三国志の英傑」しか読んでないわけだし、古代ローマも塩野七生「ローマ人の物語」だけ。
これではそれもむべなるかなといったところか。
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「男の嫉妬」という切り口は面白いが、歴史エピソードをただ書き連ねただけという構成の荒さが気になった。もっと考察を練った方が面白く仕上がったと思う。
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そういう主旨の本ではありますが。
全てこじつけのように「嫉妬」の一言で片付けるのもいかがなものかと。
歴史的な造詣が浅く、新書なのに歴史の雑学ネタ本読んでいるような気分でした。(2010年5月6日読了)
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2010年に読んだ本の中でのベスト本。
山内先生といったらイスラムのイメージだけど、こんな歴史雑学の引き出しもあったんだと、思わず感激です。
出典もきちんとカバーしてる点など、評価できると思いましたね。
少しユルイとは思いつつ、思わず人に話したくなっちゃう話の連続で、大変、満足でした。
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嫉妬、怖いですね。
ですがこれが行動の原動力となる場合も。
嫉妬がなければより能力を発揮できたかもしれない人、嫉妬がなければ生き残れなかったかもしれない人、いろんな人がいます。
人間関係の中で、外して考えられないなと、つくづく思いました。
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歴史雑学のような…。でもカエサル、ポンペイウス辺りのくだりは結構知っている人も多いのでは…といった印象。いい方向に働く嫉妬なら、何事にも代えがたいエネルギーだとは思うけど、なかなかそうもいかないものね。地位や名誉を得るのって、努力や実力だけでは難しいことだと思うから、それに気付いてしまった人が、他人を陥れてまで成り上がろうとするのかな。
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「他人に中傷され非難されたときにいたずらに沈黙を守るようでは人間としての尊厳に欠ける。軽侮されることは請け合い。弁明の中で毅然として自分の正当性を主張する勇気と自信も必要」
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[ 内容 ]
喜怒哀楽とともに、誰しも無縁ではいられない感情「嫉妬」。
時に可愛らしくさえある女性のねたみに対し、本当に恐ろしいのは男たちのそねみである。
妨害、追放、殺戮…。
あの英雄を、名君を、天才学者を、独裁者をも苦しめ惑わせた、亡国の激情とは。
歴史を動かした「大いなる嫉妬」にまつわる古今東西のエピソードを通じて、世界史を読み直す。
[ 目次 ]
序章 ねたみとそねみが歴史を変える
第1章 臣下を認められない君主
第2章 烈女の一念、男を殺す
第3章 熾烈なライヴァル関係
第4章 主人の恩寵がもたらすもの
第5章 学者世界の憂鬱
第6章 天才の迂闊、秀才の周到
第7章 独裁者の業
第8章 兄弟だからこそ
第9章 相容れない者たち
終章 嫉妬されなかった男
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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古今東西の偉人の嫉妬が、バラエティ豊かに紹介される。
歴史から嫉妬について有益な教訓を見出すのはなかなか難しく、それぞれの偉人の姿を反面教師として肝に銘じるのが関の山だろう。
様々な人物のエピソードがコンパクトにまとまっているもののやや内容が薄いため、本書をきっかけに興味を持った偉人を自分でどんどん調べてみるといいかもしれない。
詳細感想→http://takatakataka1210.blog71.fc2.com/blog-entry-30.html#more
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世界史にもいろいろある。お茶の世界史、コーヒーの世界史、まっとうな世界史。
その中で、なんとも興味を引く世界史ではないかと思い、手にとってしまった。
男女の嫉妬の歴史かと思いきや、男同士の嫉妬の歴史である。
西郷隆盛が言う。「殿におかれては、恐縮ながら田舎者でございますので」
それを言われた、久光は、深く、深く根をもったという。
森鴎外も過剰な被害者意識をもち、いつもそれが他人への反発につながったという。
かのショート、ショートで有名な、星新一の父親も星薬科大学、星製薬の土台を
作った立派なかたであったが、同業者、官僚等の反感を買ったという。
徳川の中では、保科正之は、ひとの感謝を忘れない、謙虚な人間であったとあり
嫉妬を生むようなことがなかったとか、そんな話が満載であった。
ひとえに世界史といえども、人の歴史である限りは、盛りだくさんのできごとが
あるわけだ。。。
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勉強が出来る子は性格もいい,美人はキャラも美しいあるいは性格はブスなど,ある特徴とある特徴を結びつけて人物理解を簡単にする試みの中に,出世や活躍をする人は人物者であるというものがあるが,別物なのだと冷静に考えれば至極当然なことについて,これでもかと例証してくれる。
森鴎外やスターリン,毛沢東,東条英機くらいなら聞いたことがあったが,大海人皇子に対する中大兄皇子,忠長に対する家光,義経に対する頼朝,勝海舟に対する徳川慶喜,西郷隆盛に対する島津久光などそういえばというものまで歴史は嫉妬だらけ。
天才,秀才から凡人まで,嫉妬は万民に公平なんだ。
ただ,女性の嫉妬より男性の嫉妬の方がやっかいだと,世界史を嫉妬という目線から眺め渡した男性の著者がそういうのだから,きっとそうなんだろう。
以前,血なまぐさい日本画の大作を見てその強烈さに半日気持ちが悪かったことがあったが,そのことも載っていた。
前漢の高祖劉邦の正妻呂后が跡継ぎを産んだ寵姫の四肢を切断し失明させ舌を切りトイレに住まわせ人間豚として見世物にしたという逸話。壁いっぱいの絵にした画家の興味の方向性も気になるけど,西太后といい,歯止めのきかない人っているのね。
正室は臣下も追い落としまくり,この女性の死後は逆に,一族郎党皆殺しにあったとあるので,全体としておあいこなようにも見えるが
嫉妬の対象となって人生変わってそのまんまという人のほうが多く,受け流してさえいればそのうち消えてなくなるとか,抗い闘った方が勝率があがるとか,ゴールデンルールが見えてくるわけでもないので読後感は良くない。
実力を発揮しながら嫉妬をできるだけ受けずにやり過ごすためには相当のバランス感覚と大局観と感情制御術を要することはわかるのだけれど,そういう人は滅多にいないと著者も書いているので,誰もが嫉妬し嫉妬されると思っていた方がよさそう。
学者の世界の足の引っ張り合いも書かれているが,他の逸話と比較するとせこく幼稚っぽく,嫉妬を視野に入れた駆け引きを繰り広げるでもなく,一番つまらない章だった。
学校の勉強や学問に秀でるだけでは人間の全体は育たないことを自戒と共に改めて実感。
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本書は大いなる嫉妬にまつわる古今東西のエピソードを通じて世界史を読み直した本です。もちろん日本の話もあります。
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ねたみとそねみが歴史を変えるという切り口で、歴史上の人物を取りあげ、男の嫉妬がどれほど恐ろしいか、実例を挙げて解説。日本はもとより、中国、ギリシア、ヨーロッパの有名人を取りあげ、歴史の舞台で繰り広げられた嫉妬に伴う悲喜劇を物語る書。日本人では、戦国武将から文学者、政治家が取りあげられ、最後に嫉妬されなかった保科正之に触れ、嫉妬されないことの大切さとその生き方について語っている。