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商品説明
種村季弘の思索の原点が、少年期を過ごした池袋と映画をとおして語られる。初期評論を含む自選の映画エッセイとロングインタビューを収録。映画という祝祭空間に映しだされる種村ランド。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
種村 季弘
- 略歴
- 〈種村季弘〉1933〜2004年。東京生まれ。独文学者、評論家。著書に「怪物のユートピア」「種村季弘のネオ・ラビリントス」「畸形の神」など。
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紙の本
映像と戦慄
2005/01/20 22:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書に収められた類い稀なる論文の過半が1960年代及び1970
年代に書かれた事を考えると、種村氏の先見性と共に早くからあの素
晴しい文体が完成されていた事にいまさらながら驚嘆と戦慄を覚えず
にはいられないのである。氏の大ファンとしての身びいきかもしれな
い、がしかし氏は生涯を通じて駄文はただのひとつも書かなかったと
断言してしまおう。氏の文体には決め技といえる啖呵の効いた言い回
しが有る。これが、効果的な箇所で出てくると思わず、よ!正調タネ
ムラ節!!と読みながら大いなる喝采を叫ばずにはいられないのであ
るが、なんと初期の論文にもこれは頻出するのであるから堪えられな
い。氏の文章を何度読んでも楽しめてしまうゆえんである。
フェリーニに関して書かれた、映像死滅理論の魔笛奏者(タイトルか
らしてやられてしまいます)という論文。フェリーニの映像をカフカ
の不条理性と接続しつつ、ボードレールやバシュラールと絡めて論じ
ながら果てはエリアーデの神話論にシナプスを拡張していく手際は水
際立った名人芸としかいいようがない。ゴダールとフェリーニの差異
を論じ尽す様は圧巻である。10ページ程の短文ながら今後フェリー
ニを論じる際には必ず参照しなければならない秀逸の論考であろう。
ブニュエルに関して書かれた、子供部屋のブニュエル(示唆に富んだ
タイトルです)という論文。従来の(といってもこの論文が書かれた
のが1977年なのだから…)ブニュエル論を転覆させるのに充分
な強度を持った論文である。但しこの文章は続いて登場する、同じく
ブニュエルに関しての、運命の輪 格子の牢獄とセットとして読んだ
ほうが無難なようである。というのも氏は前論文において決してブニ
ュエルを批判しているわけではないのだが、ともすると創造者たるブ
ニュエルの想像力の円環が閉じられたかのように感じられてしまう可
能性もなきにしもあらずで氏は決してそのような単純な事態を白日の
もとに論じようとしている訳ではなくブニュエルという希有の映像作
家の系時的な文脈からすぐれた読みを開陳しているのであって、後者
の論文を読めばその事はただちに認識出来る。
まだまだ刺激的な論文が満載の本書であるが、あとはぜひ御一読を頂
くとして、最後の綺想の映画館と題されたロングインタビューは賢者
にして隠者の姿勢を保持し続けた感のあるタネムラ氏がいかに現代の
状況を鋭く見据えていたかがひしひしと伝わってくることばに満ちあ
ふれている。もし世相というものを一寸異なる視点から思考してみた
いというかたがたにはぜひ読んで頂きたい秀逸のインタビューである。
氏は余りにも膨大なすぐれた書物を残された。が、これから氏の著作
にチャレンジされるかたがたには映画論というカテゴリーを超えた底
知れぬレンジを有したテクストとしてまず最初に読んで頂きたい読み
ごたえ充分の書物である。