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著者紹介
山本 一力
- 略歴
- 〈山本一力〉1948年高知県生まれ。会社員を経て、「蒼竜」で第77回オール読物新人賞、「あかね空」で第126回直木賞を受賞。他の著書に「いっぽん桜」など。
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紙の本
DNAに訴えかけてきます。
2005/01/13 11:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の中には、「ニッポン」じゃなくて「日本」がある。
義に厚く礼に重きを置き、地元と人を大事にした。男は力強く女は凛として、何よりも恥を嫌った。当たり前の事なのに、なぜか泣けてくる。忘れてしまった日本の心、それが体の中の日本人としての遺伝子と、共鳴するのかもしれない。
さすがの直木賞作家だけあって、読みづらくなりがちな時代小説をさらさらと読ませ、難なく感情移入させてくれる。江戸の風情・情緒をふんだんに盛り込んで感じさせてくれながらも、はらはらドキドキと話は展開していく。日本はこんなに格好良くて、人も町も美しい国だったのだ。
「がんばれニッポン」よりも「思い出せ日本」。
紙の本
あえて、読む喜び、という点で宮部の『日暮らし』に軍配を上げるけれど、人情物としては五分、下町情緒も互角、涙では『梅咲きぬ』笑で『日暮らし』だろうか。実際は★一つの差はない
2005/02/20 21:53
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
カバーの中心を占める喜多川歌麿『立姿美人図』がいかにも心地よい装丁は斎藤可菜。題字は日野原牧。ちなみに歌麿の絵に(個人所蔵)と書いてある。私は浮世絵のコレクターとしても有名なキャバレー王こと福富太郎さんこそが、この(個人)だと思うのだが、どうだろう。
時代は寛政2年(1790)、『立姿美人図』を思わせる粋な主人公は、深川に店を構える江戸屋の4代目女将で今年42歳になる秀弥である。この物語は、彼女の回想と、その当時の江戸、深川のありようや人情が主体となる。で、回想が始まるのが宝暦3年、秀弥5歳のときである。その時、彼女の幼名は玉枝、当時の三代目秀弥と一緒に暮らしている。
江戸屋は女系で、初代、二代目とも娘ひとりを授かってきた。玉枝の母親は、夫婦仲はすこぶるよいものの、子宝に恵まれず三十代後半を迎えていた。そこに生まれたのが玉枝、可愛くないはずがない。しかし、母が娘に仕込むのは店を継ぐものに相応しい帝王教育である。
それに手を貸すのが踊りの稽古を教えることになる山村春雅、当時すでに63歳の高齢だが、その厳しい稽古と人柄で門前仲町の芸子衆の尊敬を集めている。そう、これは女性を主人公にしたビルドゥングス・ロマンでもある。当然ながら恋もある。それがどのようなものであるか、それは冒頭に予感を抱かせる形で示される。
いい話だ。少女は、単に女将としての道を歩むのではない。大切な人の死、越えることの出来ない身分の壁にぶつかりながら、相手を立てるといったいかにも日本的な根回しを自然と身につけ、歯を食いしばり、それでいてどこか優雅に後継者の道を歩む。愛する人々の死の予感に怯える少女、それは私たちの身近から消えてしまった幼い子が持つべき思いでもある。
恋に話も面白いけれど、やはり本領発揮となるのは、『ザ・ベストミステリーズ2001』収録の「端午の豆腐」を思わせる犯罪を扱う部分である。スリリングであるだけでなく、解決に至る知恵のひねりあいという部分も面白い。それが、4代目秀弥誕生の鍵にもなる。いいなあ、うまいなあと感心するばかりである。
実は、前後して宮部みゆき『日暮らし』を読んだ。こちらも深川を舞台に、犯罪、恋、人情を描く小説である。登場人物の愛らしさという点では、宮部に一日の長があるが、例えば玉枝が女将に提案する最中、その美味しさの表現となれば、それを食べた人間の反応も含めて山本に軍配をあげたい。ま、これは私が最中好きという特殊な要因があるけれど。
小説の出来としては、どちらも立派だけれど、ある意味、常道をいく面白さは山本、破格という点で宮部とでも言っておこうか。ここまで高レベルの時代小説(人情小説でもある)が、今の時代に出版される。天子さまのいる殺伐とした幕末・明治に飽いた私にとって、将軍様が治める人情の江戸は、まさに夢の舞台である。