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紙の本
今なおではなく今だから読まれるべき
2021/12/28 14:31
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
単行本の刊行は1995年であり、この時点で著者は強い危惧にかられて本書を書いたのだが、現在読むと日本社会はあの頃はまだまともだったとさえ思えてしまう。不幸ながら本書は古びるどころか、現在の日本社会においてますます読まれるべきものとなった。
紙の本
日本人の戦争観がどのように形成されたのかを戦後史の歩みの中で検証。歴史を正しく認識することの重要性を改めて実感する!
2005/05/04 11:19
15人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
現在(2005年4月)、かってないほど中国や韓国で日本批判が高まっている。発端は、日本の国連の常任理事国就任計画や小泉首相の靖国神社公式参拝にあるようだが、その根本的な原因は、先の大戦でアジア諸国に多大な惨禍を与えたにもかかわらず、充分な謝罪や反省もないままに経済路線を歩んできた日本の姿勢にあると言える。さらには、アジア諸国のことばを借りれば、「歴史教科書などで、過去の出来事を歪曲して、侵略行為を正当化」しようとしている日本の配慮を欠く姿勢にもあると言える。
本書は、アジア諸国から激しく糾弾されている日本人の戦争観がどのように形作られたのかということを、「政治家・知識人の発言、戦記物、雑誌の記事、シュミレーション戦記、「海軍史観」・「宮中グループ史観」に基づく刊行物、果てはコンピュータゲームソフトに至るまで多種多様な素材を通して検証しようとしている。それ故、本書の内容を要約するのは、難しい面があるのだが、基本的なスタンスは、「対外的には最小限の戦争責任を認めつつ、国内的にはその問題を棚上げないしはタブー化する」日本のダブルスタンダード的枠組に異議を呈することにある。
戦後の歴史を振り返って、日本の戦争責任が大きな問題となったのは、国際関係の影響を受けるかたちでのことが多く、例えば、1960年代には日韓基本条約締結に伴う韓国への賠償問題、1970年代には日中国交回復に伴う日中戦争戦後処理問題、1980年代には侵略を進出と書き換えることで国際問題に発展した「教科書検定」などの例が思い浮かぶ。いずれの場合も、国際的には最小限の責任を認めることで問題の解決を図っている。
日本の戦争責任が海外で問題になり、国内でも歴史認識を深化させようとすると、その揺り返しが必ずと言ってよいほど起っている。著者は、「東京裁判史観批判論」、「戦争両義的性格論」などのそうした動き(歴史修正主義)を批判的に取上げている。前者は、A級戦犯を裁いた国際裁判を勝者による一方的な裁きとしてその正当性に異議を唱える立場だが、著者は最近の研究を紹介したうえで、「日本の保守勢力も水面下でこの裁判に協力し、戦争責任をすべて陸軍に押し付ける方向で動いたこと、この限りではこの裁判は日米合作劇としての側面」を有しているとし、この史観の矛盾点を突いている。後者の「戦争両義的性格論」は、先の大戦は侵略戦争の面も有したかもしれないが、アジア諸国を欧米勢力から解放した面もあるとする史観である。著者は、このような史観について、「開放の側面を恣意的に解釈し、植民地大国として朝鮮・台湾を保有しながら欧米支配からの解放を唱えることの欺瞞性」を鋭く指摘している。
著者は、従来の戦争観との内面的対決を経ずして歴史からの逃避を続けるのなら、「私たちは過去の歴史をいつまでも対象化できずに、未だに戦争の世紀を生きていることを意味している」とし、戦争観を冷静に検証する必要性を訴えて本書を結んでいる。
本書の刊行は、2005年2月であるが、オリジナル本はその10年前に刊行されている。しかし、現在の日本の置かれた状況を見れば、この本の中で著者が指摘したことは歴史的妥当性を失っていない。いや、それどころか、ますます重要となって来てさえいる。中国や韓国を始めとするアジア諸国と将来に渡り良好な関係を保っていくには、日本の戦時中の行為を目を反らさずに認識し、他国の痛みを知ることから始めなくてはならない。それが、本書を読んだ率直な実感である。