稲垣足穂コレクション ２ ヰタ・マキニカリス 上 （ちくま文庫）

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投稿者：脇博道　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

月の砂漠じゃなくて星の砂漠をどこまでも散歩しているとなななんと
本を拾ってしまった黄漠奇聞これは気分がいいぞとシガレットを吹か
しながら路上じゃなくて砂漠だから御容赦そして更に歩き続けるとあ
ら不思議美しき町（師匠えらいすみません）ならぬセピア色の村が見
えてきたではないかでもこれはきっと蜃気楼にちがいないだって大き
なスクリーンのような幕が張ってあるぞはは〜んこれはコメットタル
ホがこしらえた映画かもしれないなってもしかしたらこうして歩いて
いる砂漠だって映画のなかかもしれないしなどと思ったらまわりの風
景がえらく平板に見えてきたぞこれぞタルホ好みの薄板界かもしれな
いなと思ったらデュシャンの大ガラスさえも見えてきた有様だアンフ
ラマンスだどっちのほうがこの世界観を早く発見したかってそんな事
は問題じゃないどんなに遠く離れていたって異心伝心という事がある
ではないか緑色の円筒だって同じことさデュシャンの絵にはしばしば
登場するあの円筒だって我らがタルホの手にかかれば見事に文章にな
ってしまうのだなこれがと書いていてびっくりしましたよお父さんは
だってだって現代芸術の巨匠とタルホ氏がこんなに共通点があったな
んてでも砂漠のなかにいるがゆえの虚無感から生じた幻想かもしれな
いしこれ以上の詮索はストップしてそろそろ現実にもどらなければと
思った瞬間にここはいつも散歩しているトア・ロードではないかよか
ったよかったいつものお店のショウウインドウも見えてきたことだし
一寸のぞいてみようかあれままたもやビックリだ星がビンのなかで踊
っているではないかどうやら今夜は夢から醒めそうにないようだねこ
うなったらとことんタルホ氏のキラキラした夢のなかに居続けながら
素敵な探しものをしようではないかご主人ほかのビンの星の色も見さ
せて下さいなお願いしますおっと今度はココアはいかがなんてなんと
もかたじけなくも楽しい夜である。