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商品説明
ぼくは雨が永遠に止まないことを祈った。静かに深く彼女とつながりながら…。ありえない恋、ラスト2ページの感動。ストレートな切ないラブストーリー。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
松尾 由美
- 略歴
- 〈松尾由美〉1960年石川県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒。「バルーン・タウンの殺人」でハヤカワSFコンテストに入選。著書に「ピピネラ」「銀杏坂」など。
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紙の本
気がつけば主人公とともに雨の日を待ちわびる…そんな気分になった1冊です。
2005/03/22 12:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エルフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
帯にラブストーリーと書かれているにも関わらず、読み終わるまで恋愛小説だと思わずに読みきりました。確かに切ないラブストーリーに仕上っているのですが、ただ単に恋愛小説の枠に収まらずミステリ色、SF色の濃い物語になっています。
そして読み終わった後で少し心の奥底が痛むような切なさの残る本なんです。
この本はできれば雨がシトシトと降っている日に、家の中で静かに読んで欲しい本ですね、でも逆に晴れて気持ちのよい日に読んでいても何故か周囲の音が消え、静かに雨が降っているような気分になってしまいます。
偶然済むことになった叔母の家には2匹の子猫がいた、それだけではなく何故か雨の日になると家の空気が変わっていることに気付く主人公の渉。
最初は声だけの存在だった彼女は渉に三年前の雨の日にこの部屋で起きたある事件について調査を依頼します。幽霊の彼女・千波はその日自殺をしようと決心し準備を整えていましたがひょんな事から自殺を取り止めて生きることを選んだはず…それなのに、その部屋にいた誰かによって飲まないはずの毒を飲まされて殺されてしまいました。
しかし遺書もありそれまでの行動から自殺と片付けられてしまった千波。
私を殺した犯人は誰だったのか? 犯人さえ分かれば成仏できると思う千波、雨の日だけ現れる幽霊の依頼を聞く渉。
当時のことを聞くにつれ事件の真相は二転・三転し、少しずつ分かっていく当時の真実により千波の姿も足から見え始めていくのです。
知らず知らずのうちに彼女のことを知りたいと姿・顔が見たいと思う渉と、知れば知るほど意外な真実が分かっていく三年前の千波の周りの姿。
幽霊と人間だから実るはずのない恋、本当のことを知り彼女の顔が見たいと思いつつ、最後の真実まで突きとめるということは別れを意味することに。
隠されていた千波の過去にいつしか主人公の渉と共に読者は興味を持たされページを捲る手が止まらなくなってしまいます。また首から下しか姿が見えない千波に対して怖さを感じず逆にその見える箇所の描き方のせいか幽霊なのに優雅ささえ感じてしまうのですよね。
読み終わった後、気がつくと心の中に優しい雨が降っている…寂しいけれども温かさのある不思議な読了感のある1冊でした。
紙の本
安易に「ありえない恋ラスト2ページの感動」なんて言葉を使ってもらいたくはなかったな、私なら『スパイク』をとるもん、でもねこの着想、これには正直驚きました、はい
2005/03/26 20:57
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルは、英文の副題がなければ連城三紀彦、ブックデザインは東京創元社のミステリ・フロンティアといったら、松尾と新潮社装幀室は怒るだろうなあ。
で、『雨恋』。どうもキャッチコピーが良くなかったんじゃないか、ってそんな気がする。「ありえない恋ラスト2ページの感動」なんてね、大森望が書いてる、『文学賞メッタ斬り!』の著者が褒めてる!っていうのは簡単だけど、大森って、この『雨恋』を出している新潮社の元社員だし…
で、これを2005年のベストなんて書かれると、じゃあ、同じ松尾の『スパイク』とこのオハナシ、どっちが上だって言うの?って逆に聞きたくなっちゃうわけ。
特に、ネタが幽霊でしょ。ま、これはネタバレでもなんでもなくて、冒頭でそれが簡単に明かされるし。で、それがファンタジーかっていうと、そうではなくてミステリ。WhyとWhoがテーマ。というか、それに伴う主人公の気持ちのあり方が軸なんだけれど。
で、幽霊とくれば同じ松尾の作品に『銀杏坂』という短篇集があって、その中の「横縞町綺譚」を思わない人はいないだろう。要するに、松尾にとって幽霊というのは、決して珍しい存在ではない(ちょっと違うけど)。『スパイク』では、犬が重要だったけれど、今度は猫。そう、松尾の世界は決して大きく動いては居ない。
ただし、この幽霊、姿の現し方が違っていて、それは本当に面白くって、今までこんなことを書いた人は、当人の松尾は勿論、他にも居ないだろうなあ、と唸ってしまうし、その変化が主人公に及ぼす影響っていうのも、結構、露骨に描かれていて、嫌いではない。
主人公は、沼野渉、30歳。出世コースから外れたサラリーマン。ただし、趣味の世界に生きて、とか、社会に反抗してとか、そういうタイプではない。ごくごく普通の、よくいる「いいひとなんだけど」という男である。で、渉は事情があって期間不明でアメリカに行くという叔母のマンションに転がり込むことになる。
殆どただ同然の家賃で住むことができた部屋には、彼が面倒を見ることになる二匹の猫と、一人?の幽霊がいた。雨の日にだけ姿を現す、というのではなく、ただ気配として登場するのが三年前から24歳の小田切千波、決して美人ではないけれど、どこか男の関心を惹く、そんなOLの幽霊である。なぜ彼女が幽霊となったかが、ミステリの部分。
そして結末、といっても大森の言うラスト2頁ではなくて、その前の事件の解決を読めば、おおそうか、これってやっぱり例はないよなあ、このちょっとSFチックな設定とミステリの融合っていうのは、やっぱり加納でも若竹でもなくて松尾なんだよな、と納得させるに十分のものなのだ。
でも、あえて書いておく。山本一力『だいこん』を読んだばかりの私は、この程度の物語で、愛だの恋だの騒ぐんじゃねえ!って。正直、同じ松尾なら『スパイク』のほうが上でしょ。もしかして大森望、読んでない?
このお話、恋物語として騒ぐべきじゃあない。むしろ、ミステリとしての完成度、謎の提示の仕方、そしてそれを解決しようとすることに、被害者の設定が実にうまく生かされている、そちらを見るべきだと思う。伏線が見事にいきてくる。しかも、かなりの本数の伏線が、だ。その張り方と纏めの上手さは、宮部みゆき並である。
恋と切なさと書けば、確かに読者の食いつきはいいだろう。でも、筋が違う。ラストだって、むしろ静けさ、いかにも松尾らしい品の良い、夜明けの中で露が消えていくような、そう儚さとして受け止めるのが正しい。ま、儚さ、では本は売れないかもしれないけど。
ちなみに、恋の話としてなら、あえて外タレの名前を出すのは卑怯かもしれないけれどマリオ・バルガス=リョサ『フリアとシナリオライター』をあげておく。慟哭などはないけれど、これが大人の恋でしょ、大森さん。
紙の本
帯に書いてあるようなラブストーリーではなく、ミステリーとして読めば適度に恋愛面がブレンドされていて心地よい。表紙の装丁が最高!
2005/03/06 16:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
松尾さんの作品は今回初読みである。
ご存知の方も多いと思うが、この作品、帯がかなり話題となっている。
『あの松尾由美が、こんなにストレートな切ない恋愛を書くなんて
2005年ベスト1確実!のラブストーリー』(帯から引用)
出版社の販売戦略の凄さに驚いた次第であるが、ラブストーリーを期待して読まれた方はどう感じたことだろう…
少なくとも、これまで松尾さんの作品を多数読まれてきた方には、やはり驚くべき部分=“作風としての変化”を見出せるのであろうか?
本作はジャンルとしたら“SF恋愛ミステリー”という括りに当てはまるのであろう。
読んでみてミステリーとしたら本当に巧みに書かれていると思う。
今までの松尾さんの力量が文章に乗り移っているのであろう。
多少なりとも、女性作家ならではの、男性主人公・沼野渉に対する描き方が少し納得行かない部分もあるのだけど、読者の大半が女性だからいたしかたないであろうか…
ただ、やはり本作のセールスポイントとなる“恋愛色”も多少なりとも忘れてはならない。
正直、私自身それほど感動した話ではない。
本来、本作をはミステリー面と恋愛面、どちらも均等に楽しむべき作品なのかもしれない。
不器用読者の私は(笑)、それが出来なかったのである。
私自身は“ミステリーに程よく恋愛面がブレンドされた作品である”と認識して読んだのである。
逆の読み方(“恋愛面中心”)をすればあんまり楽しめなかったのではないかな。
そう言った意味合いにおいては、賛否両論ある帯の文句(どちらかといえば否の意見の方が多いようである)は、従来からの松尾作品のファンの方が“恋愛面をもブレンドさせた作品を書くようになった!”ことを認識すべく言葉だと捉えるのが無難なような気がするのである。
帯のことに言及したので装丁についても語りたい。
特筆すべきは表紙の装丁の素晴らしさである。
これは本作を読んだ人にしかわからないのが残念だ。
男性読者なら、必ず千波の顔を想像しつつ楽しんだことに違いない。
あと、書き下ろし作品の為に文章に一切無駄がなく、わずか250ページ余りだけど読者を充分に堪能させる内容である点は高く評価したく思う。
もうひとつ付け加えると、“ネコ”好きな方が読まれたら楽しさ倍増かな。
次は“犬”が出てくる『スパイク』に挑戦予定です(笑)
少し余談になるが、出版界もどしゃ降りとまでは言わないまでも、“雨か曇り”の状態が続き本当に“本が売れない時代”である。
作家も生き残りの為に、今までと違ったジャンルや、あるいは本作のように融合したジャンルの作品を書くことを余儀なくさせられそうであることは想像にかたくない。
いったいいつになったら“日本晴れ”がやって来るのだろうか?
渉と千波の晴れた日の再会を願うように本が売れる時代の復活を願いたく思う…
トラキチのブックレビュー