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紙の本
カフカ感が世界を駆け巡る。
2010/05/09 21:55
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ひとりの人間がこの世に居場所を見出すまでの奮闘は、面白い。
親が幼い子どもに自伝を読むのを薦めるのも、『13歳のハローワーク』が流行るのも、人生を生き切るためには、絶妙なポジショニングが大事なんだよ、ということなんだと思う。そして、絶妙なポジショニングはそうそう簡単には見出せず、簡単ではないから、みっともなく奮闘する。
本書の主人公、Kのように。
おそらく世界小説史の中で最も短い名前を持つKは(これ以上短くなりようがない)、有能でもなく信心深くもなく誠実でもない。それはほとんどの我々のよう。でもそれなりに必死に生きようとすることだけは伝わってくる。Kはやったこともない測量士の仕事をあてがわれ、見たこともない城の雇い主のために、これまで会ったこともない助手二人と、ドタバタしているうちに話は進む。そう、21世紀初頭に生きる我々の生と同じように。
『城』は深刻な話でもなんでもなく、今に続くシュール芸の元祖みたいな話だ。事態は刻々とすべりまくり、その連続が今をつむぎだしていくうちに、Kは今という現実に絡め取られて、こんなはずではなかったような感覚が延々と続いて、でもだからといってそれに変わるパラレルな近未来があるかというと、きっとそうでもない。つまりは今テレビのチャンネルをひねれば日々繰り返されているお笑い番組のような現実がそこかしこにあって、それを楽しもうとしてしまえば出来なくもない。まったくもって、我々のようだ。
言うなればわたしたち現代人も現代の『城』がどこにあるのかなんてよくわかっていない。職業の持つ意味、仕事の意味、働くことの意味、人生の意義なんて、考えたってわからない。カフカの『城』は完結しない。Kはなぜ測量士で、測量士は何のために何を測るのかわからないけれど、その不可思議さの塊のような模索のなかで、キリスト者でないわたしでも、神がいなくなった世界の、つかみどころのない人生の深遠(というか浅はかさ)を見るような、こぼれおちそうな現実の肌触りを味わえてしまった。人類精神史上、カフカ感としか名付けようのないこの絶妙な感覚。そこにカフカがいた感覚。これぞ、世界の面白さ、これぞ、小説。
紙の本
この不条理を面白いと思うのか思わないのかはその人の感性の違い
2019/02/05 11:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「城」はまさしく不条理小説に決定版なのだ。主人公の測量技師kは城に行こうとするのだが、どうしてもたどりつけない。それのどこが面白いのだと言われてしまうと説明できないし、どこが面白いのかと疑問に思う人とはそれ以上文学の話はできない
紙の本
くせになる
2021/07/19 18:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ミチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
読んてるうちにくせになる一冊。あまり面白くないのになぜか読んでしまう。気がつくと読み終わってた。また機会があれば、カフカを読みたい。
紙の本
存在の不可能性
2003/02/12 18:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sei - この投稿者のレビュー一覧を見る
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フランツ・カフカ著『城』は、未完の作品だ。
でも、そもそも未完という形でしか終わることのできなかった作品なのではないだろうか?
「城」は異邦人たるKに対して、決して門を開くことはない。
著者カフカにとって、このことが「城」を物語る上での大前提であり、
この前提があるからこそ、『城』はその生命を宿すことができるのだと思う。
「城」へと足を踏み入れることのできないこと、
つまり未完であることによって、物語となり得ているのだ。
こうした不可能性こそがカフカ文学の原点であり、その魅力の源泉であると僕は思う。
カフカの一芸術家として生きることへの不可能性、生きることそのものの不可能性に対する意識が
この作品に凝縮されているように思う。
紙の本
シンシンカン
2020/12/21 07:52
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
よそ者に対する村全体の異常なまでの排他性の中でボタンの掛け違いや不条理を経験しながら、存在とは在るだけでなく属することであるという哲学的思考を展開させている書。
紙の本
立ちはだかる城
2001/02/15 06:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆぎり - この投稿者のレビュー一覧を見る
測量師のKは夜遅く、深い雪に囲まれた村に到着した。彼は「城」からの依頼を受けてこの村にやってきたのだったが、仕事の内容を聞こうと城へ行こうとしてもなかなか行くことができない。
村から見える山の上の城。見た目はそれほど立派でもなければ、威容を誇っているわけでもない。ごく平凡な田舎の建物のように見える。Kは城への道を歩き出すがいくら歩いてもつかない。道は曲がりくねり、わざと遠ざかるかのように、Kと城との距離は縮まらない。そうやって村をふらふら歩いているうちに幾人かの村人たちと関わっていく。
Kと城との間には物理的・空間的距離だけではなくて、それを上回るほどの心理的・精神的距離もはるかに長く横たわっているのだった。
現代に生きる私たちの社会にはさまざまな矛盾がある。それは普段の生活の中で背中を隔てたすぐ隣にぽっかりと黒い大きな穴をあけて待っているかのように存在している。そしていつその穴にはまり、あるいは落ち込んでしまってもおかしくはない状況が待ち構えている
社会という名の大きな機構に対する人間の困惑、あるいは焦燥、いやその感覚は言葉では表しきれないものかもしれない。それを含んだ社会が、あたかも社会システムが一つの生命を持ったものであるかのように一個の人間に対して迫り、容易にその全貌を明かすことのなく、人間を追い詰めていく状況をも指し示しているように感じられる。
そして明快な解決方法も得られないままに彷徨するKは、がんじがらめに社会の網の目に縛られた私たちを写し出しているかのような気配を漂わせる。