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商品説明
飴細工師、街頭紙芝居師、へび屋、銭湯絵師、見世物小屋、能装束師、俗曲師、幇間…。懐かしいけど、どこか新しい。絶滅寸前の職業の数々を、それを愛してやまない達人達の生き様を織り交ぜて紹介する「ハローワーク外伝」。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
秋山 真志
- 略歴
- 〈秋山真志〉昭和33年東京生まれ。明治大学文学部フランス文学科卒業。出版社勤務を経て、現在はフリーランスライター兼エディター。
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紙の本
「ああ,こういう職業もあったんだなぁ,人間って面白いなぁ」とシミジミできる本
2006/02/09 06:03
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
数年前になるが,仲間数十人で屋形船を借り切り隅田川で舟遊びと洒落込んだことがあった。オレに限れば屋形船に乗ったのはそれが三度目,季節も春と秋を経験し,生意気にも「もう屋形船はいいかな」と思っていた……んだけどねあなた,「この国で『絶滅寸前の職業』の人々に話を聞いてまわった」というこのノンフィクションの中に,その時点で東京には4人(日本全国で5人)しか残っていない幇間の一人,悠玄亭玉八を呼んで屋形船の停泊時間にその芸を見せてもらう話が出てくるのだ。
幇間芸と言ってどんなことをやるのが想像のつく人は稀だろう(と知ったかぶるオレもこの本で初めて知ったんだけどね)。著者によれば,30人ほどの客が飲み食いを始めた船の中,玉八は楽屋もないところで見事に(忍者のように,だそうな)気配を消していて,いつの間にかマイクを手に取って隅田川のガイドを始めた。自分の肌襦袢の裏を見せて笑いを取り(所謂48手が描いてある),船が停泊地点で止まるとおもむろに三味線を取り出しつま弾きながら世相漫談,都々逸など。歌舞伎役者の声帯模写から政治家,有名人などの物まね,日本舞踊を取り入れた所作事でエッチな未亡人を演じ,房事が過ぎる新婚夫婦の屏風芸,短い落語を一席挿んで「深川」,「奴さん」などの手踊りでやんやの喝采を受け,気がつくとまた気配を消して船は動き出していたという。ね,ね,これ見てみたいでしょ?
この幇間の他に取り上げられている職業は縁日などに出る飴細工師,自転車に乗ってやってくる紙芝居屋,銭湯絵師,見世物小屋に俗曲師,彫り師に真剣師にへび屋といった方々……。え,へび屋って何だって? へび屋はへび屋なんだがな……。判らなければGoogleで「黒田救命堂」のサイトを探してみてください。とにかく「ああ,こういう職業もあったんだなぁ,人間って面白いなぁ」とシミジミできること請け合いの一冊であります。
紙の本
職業の物珍しさもさることながら、働く人を支える家族や友人の存在に強く魅かれた
2005/05/31 11:37
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
俗曲師、銭湯絵師、街頭紙芝居師、能装束師、席亭…。昭和の頃まではまだ街なかで見かけることがまれではなかった日本的職業11種(+真剣師)に今も携わる人々を取材したルポ。著者がいうところの「絶滅危惧種」である職業に携わる人々は皆、私のような給与所得者とはおよそ縁遠い、起伏に富んだ人生を辿っていることが描かれています。
本書で印象深かったのは、彼らの浮沈の激しい人生を静かに支えてくれる家族や仲間の存在です。
幇間・悠玄亭玉八には小学校の校長を務める妻がいて、こんな風に胸を張ります。「これまで夫の職業を隠したことは一度もありません。(中略)自分の身ひとつで人を感動させたり、充足感を与えることができるんだもの。私にとって誇りです、夫の職業は」。
野州麻紙漉人・大森芳紀には二人三脚で麻紙作りに取り組んだ妻・淳子さんがいます。麻紙制作に成功したことを大森が淳子さんに知らせる葉書の挿話には心打たれました。
真剣師・大田学には、金に苦労する息子を黙って支え続けた母がいました。母が亡くなった時その布団の下から出てきたある物は、哀しいまでの母の深い愛情を示しています。
こうした周囲の人々の支えがあってこそなのは、なにもこうした絶滅の危機にある職業ばかりではないでしょう。家族の理解、上司や先輩の励まし、友人の支援。どんな職業に携わる人々にも支えてくれている人がきっとどこかにいるはずです。あなたにも、そして私にも。
本書内の職業が30年後も残っているかどうかは残念ながら怪しいといわざるをえません。本書がやがて、昭和から平成の初期に姿を消した職業図鑑のような存在になってしまうのもやむをえないでしょう。
それでもこれが、人と人との温かい結びつきを見せてくれる書として編まれている点を、私は評価します。職に就くというのは、そうした支援をしてくれる人々にゆっくりと出逢っていくことなのかもしれません。
紙の本
職業外伝
2005/05/16 14:50
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:多忙は怠惰の隠れ蓑 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「職業外伝」。この本は表紙と帯が目に留まって手にした本です。
伝統ある企業やロングセラーの商品を取り上げた本や、テレビの特集は比較的多いですけど、この本で取り上げているような「絶滅危惧職業」を取り上げた本は、そうはなかったと思います。
2003年に村上龍が「13歳のハローワーク」を出したときも、「へ〜、世の中にはこんな仕事もあるんだな〜」と、感心しながら読んだんですけど。まぁ「13歳のハローワーク」は「小中学生に向けた職業ガイド」というタイトルが一人歩きしてしまいましたが。。。
この「職業外伝」は飴細工師、街頭紙芝居屋、見世物小屋、といった今ではもう見かける機会もなくなってきている職業と、今現在、実際にその職に従事している人たちにインタビューをして構成しています。
ざっと読んでみて印象に残ったのは──こんな「職業」があったんだ!
ほんと、テレビのドラマで垣間見るくらいでしか知らなかった人びと。
当たり前のことかも知れませんけど、「仕事」って「職業」ですし、そこには「ひと」がいるんですよね。
目次から紹介されている職業をざっと上げてみます。
・飴細工師→ 専門の生業としている人の仕事はまさに神業の域です。
・俗曲師→ 俗曲師は「伝統的な歌舞伎曲を三味線をつま弾きながら唄い、踊る」芸人さん
・銭湯絵師
・へび屋→ へび屋は文字通り、まむし、コブラ……蛇全般に通じた職業。漢方薬、薬膳にも重用しますね。戦後しばらくは都内に30数軒のへび屋があったそうです。
・街頭紙芝居屋
・野州麻紙紙漉人(やしゅうまし かみすきにん)→ 野州は今の栃木県。大麻を原料にすき、紙を作る職人。大麻っていうとネガティブなイメージがありますが、本来の大麻は幻覚作用は弱いんだそうです。むしろ欧米産の大麻が麻薬用に品種改良されたものだそうです。
野州麻(やしゅうあさ)は神社のしめ縄や相撲の化粧まわしなど伝統芸能に欠かせない素材だそうです。
・幇間(ほうかん)→ 読めない漢字だし、知らない言葉でした。宴席で遊客の機嫌を取り、場をにぎやかにする仕事。たいこもち、男芸者のことだそうです。
・彫師→ 若い子が入れたがるタトゥーではないです。イレズミ師ですね。ここに登場する山本さんは昭和49年生まれのハマっ子です。
・能装束師
・席亭(せきてい)→ 席亭とは、寄席や落語の主宰者のことだそうです。江戸の風情を残す数少ない寄席、新宿末廣亭の三代目席亭、北村さんが寄席のプロデュースのコツを伝えてくれています。
・見世物師→ サーカスから移動動物園を経て、見世物小屋に行き着いた大野裕子さん。日本で最後の見世物師と言われています。
番外編として、真剣師となっています。
東京芸大中退の飴細工師、バレリーナと看護婦が夢だった俗曲師、60歳を超えたいまでも現役の銭湯絵師、大正元年創業の由緒あるへび屋、昭和3年生まれの紙芝居屋さん、能装束師の山口さんは明治37年生まれ。番外編に登場する真剣師、大田さんは90歳。
ところで真剣師って何のことだか分かりますか?
本文中では、その強烈な生き様が描かれています。
ここではあえて触れないので、ぜひ読んでみてください。
それぞれの職業の背景や、周辺知識を解説したコラムも充実しているので知らない世界も割りとすんなり読めます。
情報通信が発達している今の日本の中で、ともすれば風化し、消えてしまう危うさを、この本に登場する誰もが持っています。
それでも、この現代の中で懸命に生きている人たちの息吹を、この本を通じて触れてみていただければ、と思います。
紙の本
著者コメント
2005/03/27 03:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:秋山真志 - この投稿者のレビュー一覧を見る
拙著『職業外伝』のあとがきにボクはこう記した。
「動植物に絶滅危惧種があるように、職業にもそれがあると思う」
この20年間に絶滅したとおぼしき職業は、他にも門付け芸人、ラオ屋、鋳掛け屋など枚挙にいとまがない。いまの若い人たちは、こうした職業の何たるかも知らないだろう。そして、いまも多くの職業が現在進行形で絶滅しかかっているのである。これはぜひとも記録して、後世に残したいと思った。取材の対象条件はただひとつ。「現役で、その仕事の収入で暮らしている人たち」。
本書はそうした観点から日本で最後の見世物小屋、東京で最後の街頭紙芝居師、日本で最後の真剣師(賭け将棋屋)、日本で5人しかいない幇間、京都・西陣の100歳の能装束師など、下は25歳、上は100歳まで計12人の方々を取材させていただいた。
彼らの壮絶な生き様を「職業」を切り口としながら、存分に書いた。筆者の思いとして願わくば「跡を継いでくれる人が現れないか」と愚考しながら、夢中に書き綴った。「万物は流転する」のは世の倣いだが、ボクはこうした日本の伝統職を根絶やしにしてはならないと思っている。
以下、再び、「あとがき」から引用する。「天職」という言葉をたびたび本書で用いた。「天職」を意味する英語の「vocacation」は、ラテン語に由来しており、そもそもは「神様からの呼びかけ」という意味だったようだ。以下はボクの勝手な類推だが、「天職」とは地位や金や名誉とかそんな次元の問題ではなく、「神様から呼びかけられて、どうしても断れなくて、その職に就いた」ぐらいの深い意味があるのではないだろうか。
本書で取材させていただいた12人の人たちは、紆余曲折はあれ、みんな「天職」にたどり着いた稀有な方々だ。読者ターゲットはこうした職業人をリアルタイムで見知っている中高年層だが、筆者としてはむしろ若い人にこそ読んでもらいたい。単なる懐古趣味や好奇心からではなく、働くとは何か? 職業を通して、生きることの意味を探ってほしい。そして、なろうことなら自らの手で「天職」を掴み取ってほしい。
本書は後世へ残す記録の書であると共に、若い人が日本の国と自分たちの将来へと希望を繋げる書であるようにと、切なる思いを込めて書いた次第である。