中国製造業のアーキテクチャ分析 （経済政策分析シリーズ）

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（少なくともこの本が出版された2005年近辺では）
・中国はその時点で世界最大のオートバイ生産国・消費国で、それなりに技術力があるメーカーもあるのに、自社でゼロから設計したモデルがなく、デファクトスタンダードのホンダ製バイクのアレンジ品ばかり作っている
・C100,CG125（スーパーカブシリーズ）といった名エンジンは1960-70年代に完成の域にある。中国の会社はそのコピーを行い、技術力ある会社はキャブをEFIにするとか、日本に比べて劣った素材や部品でなんとかするために一部を厚くするとか、そういう工夫をしている
（技術力ある会社とない会社の差はそういう所で出るが、技術力ある会社も自社製品に向かない）

こういう事象をアーキテクチャという考え方で読み解こうとしているのが本書。

もともとの藤本先生の提唱するアーキテクチャ
・バイクのような複雑な製品はケイレツを作るクローズドでインテグラル（すりあわせ）な発展をする
・エレクトロニクス機器などはオープンでモジュラー型の発展をする
・iPhoneのApp Storeみたいなプラットフォーマーはクローズドでモジュラー型。
・中国のオートバイは互換品をキーにする疑似オープン・モジュラーと言えるのでは。
・A社が作ったC100（のコピー）向け部品とB社が作ったC100（のコピー）を組み合わせて製品を作る、みたいなことが行われていることにより、オートバイのようなものでは難しいと考えていたモジュラーが行われている
・日本ではフレームやエンジンを作るところが元請けになって他が下請けになるケイレツが発生するが、中国バイクメーカーではそういうのがない


ゼロから考えた新製品=R&Dがない、ではない。本書の中ではドクターを多数抱えた国営企業が3Dスキャナーなどを使って精緻なリバースエンジニアリングを行おうとしている間に、すでに市場で売られてるデッドコピーを元にいい加減なコピー品を早く安く売り出した民間会社がまんまと出し抜いて成功したなど、すばらしいエピソードも多い。

以下は読みながら書いたメモ
1.アーキテクチャ発想で中国製造業を考える / 藤本隆宏 著
-インテグラル（すりあわせ）型製品とオープンモジュラー製品
-中国のバイクは、まがい物の大量生産で疑似オープンモジュラーになっている
-産業の強みを理解して動くべきでむやみに安い中国に行くべきではない

2.中国産業のアーキテクチャ特性とわが国空洞化論の関係 / 伊藤薫 著
ケイレツ-時間はかかるが技術とコストを最適化できる

日本は素材、部材において、鋼板、非鉄、化学などで世界でも大きいシェアが多い　浜松フォトニクス、信越化学など

3.オープンな改造競争 / 大原盛樹 著
中国には18000種のオートバイ車種が登録されている（許認可制）が、基本的にはデッドコピーか、実力ある会社はコピーを元に独自の改良をしている。
ホンダが30年以上前に開発したC100とCG125を中国各地でコピーしている。その2つのエンジンは日本のホンダ以外の会社含めて世界中のベンチマークになっている

4.擬似オープン・アーキテクチャと技術的ロックイン / 葛東昇, 藤本隆宏 著
具体的にコピーが行われるやり方、図面をどの会社が起こすかなど
ベトナムに向けてスーパーカブのコピー品を作ろうとしたときに、ドクターを多数抱えた中国国営企業が3Dスキャナーなどを使って精緻なリバースエンジニアリングを行って5000RMBぐらいの製品を作ろうとしている間に、すでに市場で売られてるデッドコピーを元にいい加減なコピー品を1000RMBで早く安く売り出した民間会社がまんまと出し抜いて成功したなど、すばらしいエピソードも多い。

5.アーキテクチャ論から見た産業成長と経営戦略 / 太田原準, 椙山泰生 著
日本がデファクトスタンダードだったシンガーミシンを部品ごとにコピーしながら発展させた話

戦前の日本はデファクトスタンダードだったシンガー社のミシン「15種」(モデル15）は「公知なので知財の保護範囲外」としてコピーしまくっていた。コピーは部品メーカーが始めた。ただ、公差があり、それぞれの部品を組み合わせてもミシンとして動かすのは一苦労。
これを戦後GHQが指導し、部品やミシン針の型番をシンガー社そのままだったのを改め、HA-1として標準化して図面を公開し、オープンソースハードウェア化した。結果、共通図面を元に作って組み立てるだけの「アッセンブル式」の製造でミシンは低価格化し、シンガーで月3万台だったものが50万以上作られるようになった。

1950年代の日本のオートバイ産業は欧州の模倣で始まったのだけど、なぜか個々の組み立てメーカーは各社独自の模倣（まだ国内にないもの）を好み、細かい精度にこだわって外部品を使わず、標準化が進まずトータルの品質が上がらない。その状況を根本的に作ったスーパーカブの大ヒットがすべて変えた

6.中国モジュラー型産業における日本企業の戦略 / 新宅純二郎, 加藤寛之, 善本哲夫 著

製造の中国移転は、全部の製品で均等に起きているわけではなく、インテグラル（すりあわせ）が多い製品は置きづらい。たとえばエアコンのコンプレッサーは全部日本で作っている。ブラウン管でもITCブラウン管は日本企業。コアコンポーネントの品質をちゃんと上げよう

7.中国半導体産業におけるプロセス・アーキテクチャの変化 / 王淑珍, 新宅純二郎 著

中国の半導体産業は外国のキャッチアップと政府の産業振興で発展してきたが、
1991-2000の2回の5カ年計画での半導体育成は失敗して、キャッチアップもその後の自分たちでの向上も不十分だった。
2001-から見直し、それまでの統合型（設計とファウンドリ一体）から設計とウェハー製造それぞれで合弁を作るように転換、これは台湾のモデルに近い。結果SMIC,GSMCなどの巨額投資が生まれた。この時期、中国の半導体は輸出向けから国内製造向けに、中国が大きくなったことで変わった

8.中国の自動車産業と製品アーキテクチャ / 李春利, 陳晋, 藤本隆宏 著
吉利、奇瑞ほか中国主要自動車メーカーの販売台数、代表車種、スペック、コピー元や提携さきなど。
この時点ではオートバイのようなコピー製品寄せ集めやエンジンだけ日本メーカーのものに組み合わせるのは性能の問題で旗色が悪いが、トラックや軽では成立しており、セダンでもなんとかなるかもしれない

9.中国企業の製品開発 / 藤本隆宏, 李春利, 欧陽桃花 著
自動車、北京の一汽開発がソ連型の中央研究システムによる技術開発からスタートしたが、1990年頃には2000人規模の開発手段とPM制などにより日本の下位乗用車/上位トラックメーカーぐらいの開発力
ハイアールは2004年時点で4000人の技術者、全体の10%で研究開発費が4%、日本の大手は開発費が8%で技術者比率は20%を超えるので半分ぐらいの割合
実際の新型テレビの開発プロセスをインタビューしたところ、外部からの部品購入と自社設計の組み合わせ


10.中国市場戦略に向けた共生型製造モデル / 北真収 著
まとめ的な内容

11.中国製造業のアーキテクチャ / 藤本隆宏, 新宅純二郎 著
まとめ的な内容