紙の本
日本の児童小説として、海外に翻訳されても絶対に評判になると思います。特に、歴史の扱い方の上手さ、日本の児童小説史を書き換えるんじゃあないでしょうか、なんたって日本人がいない
2005/10/18 21:07
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリランドの一冊で、話の筋はさておき、なぜ田中がこの話を書きたかったのか、どのような物語にしたかったのかは巻末のあとがきに詳しく述べられています。そして、私が読んだ限り、それは成功しているといえるでしょう。特に、日本語で書かれた児童小説で、舞台をヨーロッパにした冒険談がここまでしっくりいった例を私はほとんど知りません。
田中は、この作品が世界に紹介された場合のことを軽く書いていますが、日本人が全く出てこない、そしてアメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、イギリスの近代史を上手に取り入れた作品として、堂々と世界に紹介されるべきものではないかと思います。
繰り返しますが、この本の最大の特徴は日本人が出てこないという割り切りのよさで、やはり田中芳樹が日本人ではない、ということに関係しているのかもしれません。今までにも、日本人が書いた海外を舞台にした小説は、純文学、エンタメ、たくさんありました。私が好きな後者では、逢坂剛のスペインもの、船戸与一の南米もの、森詠のアフリカものなど世界水準の作品が目白押しです。
ただし、私などは何も主人公が日本人である必要はないのになあ、などといつも思っていたものです。不自然なんですね。現在、日本人が世界で活躍する、といっても殆どが海外旅行者ですし、こっそり日本人同士で過ごしてはいても、やはり中国人などに比べれば、あまりにマイナーな存在です。お金だけばら撒いて、大物ぶってはいても、その地に根付いて、その社会で不可欠の存在になるには、まだまだ力不足。これで常人理事国に入りたい、などというのはどの面下げていうのか、と思います。
で、田中はそれをバッサリ切り捨てました。その割り切りが、子供のための本といえば、とかく日本人の、頭はいいけれど気が弱い男の子が探偵役、それを我儘な女の子ひっぱる、といったワンパターンに陥ることから救っています。そう、この物語に登場するのは、スーパーマンではない少女と、百戦錬磨の大人たちで、そこには、ありふれた恋はなく、子供はあくまで子供として描かれます。それが世界に通じる、と私が評価する理由でもあるわけです。
例えば、主人公はフランス人の伯爵の息子モーリスとカナダの先住民との間に生まれた16歳の少女コリエンヌ・ド・ブリクールです。それに海外で手配されている犯罪者ジャン・ラフィットがいます。身分を隠す謎の軍人モントラシュがいます。そして、自分を天才と称する作家アレクサンドル・デュマがいます。
そして、時代ですが1830年です。ナポレオンがセントヘレナ島に流され、亡くなったとされるのが1821年ですから、その9年後が舞台です。その死、というか生がこの話の核にあります。ナポレオンがフランスの皇帝になったのが1804年、とまあこういうことは全く覚えていなかったのですが、この本のおかげでスンナリ頭に入ってきました。
ですから、ベートーヴェン、ハイネ、ジェラール、メッテルニッヒが出てきます。アメリカの奴隷制、カナダの原住民、フランス革命、七月革命、カナダを巡るフランスとイギリスの話も、国債だって出てきます。マルクスだって、顔をだします。それが決して不自然ではありません。ラルフ・イーザウ『暁の円卓』にでてくる有名人オンパレードの奇妙さとは雲泥の差です。今までの子供の物語で、革命を書いたものがありますか?それだけでも田中はエライ!
素晴らしい装画・挿絵は1961年生まれのマンガ家鶴田謙二、これなら星雲賞をとってもおかしくはありません。装幀は、シリーズ全体をまとめている祖父江慎+阿倍聡(cozfish)。もし不足があるとしたら、当時のヨーロッパの地図、これだけは欲しかったですね。フランスやパリ、セントヘレナ島、ライン川、セーヌ川、プロイセンの位置関係は分るようにして欲しかった、そう思います。
投稿元:
レビューを見る
19世紀初頭、フランス。父を勘当した祖父に会うため、一人の少女がパリへとやって来ます。そして、亡き父の名誉のため、祖父の出した課題に挑戦することに。ひょんな事から知り合った3人の『おじさん』をお供に、目指すはライン川のほとりにある双角獣の塔。そこには謎の虜囚が幽閉されているという噂があって…。
16歳のヒロインも芯が一本通っていて、大人をして邪魔をしない程度に手助けしたいと思わせしめるダルタニアンのような気質の爽やかなマドモアゼルですが。ここに登場する『おじさん』、編集者と借金取りに追われる自称天才文豪、あからさまな偽名を名乗る元軍人、ダンディだけど妙にインチキ臭のする船長という一癖ある人ばかりで愉快です。実は(?)3人とも実在した人物なので、読了後、その前後を追う楽しみもあるというおまけつき。鶴田謙二さんの挿絵も素敵v
投稿元:
レビューを見る
最初から最後まで、いかにも「冒険小説」!という面白さにあふれていた。
亡き父の名誉を守るために旅をすることになった聡明な少女コリンヌがまず魅力的。
加えて、彼女を守るために共に冒険に出る、若き天才(自称)作家デュマ、紳士的な海賊ラフィット、偽名の剣の名人モントラシュの三人が、それぞれに得意分野、計略と自らの力を駆使して戦う姿は、男の子の心をときめかせてくれる。
さらに、憎みきれない悪党、次々に迫る敵、塔に潜む謎、そして最終幕……良くあるパターンではあるけど、面白いから良くあるパターンなわけだし、これだけ道具立てもストーリーも魅力的だと、展開が予想できても最後までどきどきしながら読むことができる。
いいなぁ、こういうの子どもに読ませたい。
投稿元:
レビューを見る
亡き父親の実家であるフランスの伯爵家を訪ねるため、カナダからやってきた少女コリンヌ。
初めて会う祖父は、コリンヌにあることを確かめてくるように命じた。
セーヌ川のほとりにある奇怪な塔に、死んだはずのナポレオンが幽閉されているという噂の真偽を確かめてくるようにと。
コリンヌはパリの街で出会った3人の大人と、旅に出る……。
またまた、今までのミステリーランドシリーズとは違った雰囲気の作品でした。
実在の人物、実際に歴史上にあったことなどが、お話に組み込まれていて、深く考えると混乱しちゃいそうでした。
参考図書の多さにビックリ。
投稿元:
レビューを見る
1800年代のお話で、非常に楽しく読ませていただきました。
最初は、カヴァーデザインに惹かれて買ったので
中身が大したことなくっても我慢するつもりでしたが、
そんなことはなく、久しぶりの良作に出逢った気がします。
ネタバレにならない程度に感想をいいますと、
パリからライン川の、ある建物を目指して
4人の仲間が旅をします。
「旅」というと、「行く先々で降りかかる困難」みたいな
展開がありがちで、一瞬で飽きてしまいますが、
この「ラインの虜囚」は、そのようなことはなく、
テンポが早いので、退屈にはなりません(最初は多少・・・)。
そして、意外な結末(「意外な結末」はネタバレか?)
小学生や中学生の読書感想文に「ラインの虜囚」をお勧めします。
っていっても、夏休み2005も終わってますけど。
ま、ま、そんなこととは関係なくして
ぜひ読んでいただきたい、良作です。
投稿元:
レビューを見る
今のところハズレなしのミステリーランド作品。本作は主人公を食っちゃうほどに周りのおやじたちが格好良すぎるお話。世界史に疎いので剣士も海賊も文豪も実在した人物だとは最後まで知りませんでした。ただ、ラフィットの名は聞いたことあると思ったらONE PIECEに出てきていたなぁ、と。モデルになったのはジャン・ラフィットだったことを本作で知った。話の内容からだいぶ脱線したけど、無難に面白い冒険ミステリー小説でした。
投稿元:
レビューを見る
分厚いけど大丈夫かなぁとか思いましたが挿絵もあるし行間は広いし、なにより田中茂樹の文章がとても読みやすいのでさくさくと読み進めることができました。おもしろかったのですが、ナポレオンの名前を何度も出しておきながら結局最後に登場したのは…そこらへんが少しだけわくわく感を裏切られたような気がしました。
この本の主人公達はみんな実在した人物達。(もちろんこの作品はフィクションだけど)
久しぶりに、伝記を読んでみたくなりました。
投稿元:
レビューを見る
ミステリーランド作品。ナポレオンや歴史上の人物が登場していて非常に面白かったです。絵も可愛くて好みです。女の子には受け入れ安い内容かな。さすがっていう感じです。
投稿元:
レビューを見る
子供向けに書かれたミステリファンタジーです。でも子供も大人も関係なしに面白いこと間違いなし! 歴史の授業中に聞いた覚えのある人物も登場して、ドキドキしながらあっという間に読める一冊です。
投稿元:
レビューを見る
表絵がかわいかったので、目が留まりました。しかも田中芳樹じゃない!!のわりには小難しい戦闘解説もなさそうだし、と軽い気持ちで選んだら。なかなかよかったっす。数々の名作への解説本もかねてる感じで、続けて読みたい本が沢山出てくるはず。大デュマが乱闘に加わる意外なシーンも。高学年あたりからかなぁ。
投稿元:
レビューを見る
【一八三〇年、冬、パリからライン河へ謎と冒険の旅がはじまる。旅の仲間心からドキドキ、ワクワク出来る、とても素敵な冒険小説です。歴史的背景も分かりやすく書かれていて読みやすく、ページを捲る手が本当に止まりませんでした。欲を言えば、コリンヌにもう少し活躍して欲しかったかな。
ところで実在した人物が何人か登場するこの物語。その中の一人に『三銃士』や『鉄仮面』の著者であるアレクサンドル・デュマがいます。そのデュマがコリンヌたちとの冒険後、『三銃士』や『鉄仮面』を書いた、となっている後日談が良いですね。田中氏の創作だと分かってはいても、基になったのがこの冒険だったのかなぁと想像すると、何だか楽しいです。大人がこれだけ楽しめるのだから(私だけ?)、子供が読んで面白くないわけがない!田中氏のあとがきも素敵です。
これを読んで更に読書を好きになったり、読書の幅が広がったりする子供もいるのではないでしょうか。私も昔々に読んだ『三銃士』を再読したくなりました。
投稿元:
レビューを見る
異国情緒のロマンと冒険。やっぱり田中芳樹イイよ…!
主人公の子がまた微妙な年齢なのにしっかりしてて強くて賢くてスバラシイ。こんな青春一回くらい味わってみたかった(笑
投稿元:
レビューを見る
なんだかレトロな装丁と厚紙のカバー、イラストに惹かれて買いました。
行間が広くて、子供向けですね。でも、中身は大人でも楽しめます。気軽なミステリーって感じ。
実は、田中芳樹と知らずに買った私…。友人に指摘されて気付きました(-д-;)
投稿元:
レビューを見る
「あんたがもうすこし大きくなって、すてきなおとなになりたい、と思う年頃になったら聞かせてあげよう。ライン河のほとりで冬の星空をながめながら葡萄酒を飲んだ夜のことを。自分がすてきなおとなたちにかこまれているのだ、と心から感じることができた、あの夜のことをね。」
最高だった!!!
物語が始まった瞬間に、冒険を感じることができた。
そして始まってみれば、あの素敵な大人たちの活躍。
胸が躍るとはまさにこのこと!!!
自分がいつの間にかコリンヌになっていて、彼女と一緒に、彼らと冒険をすることができた。
本当は、実は、あっという間の冒険なのだけれど、それは物凄く重厚で、とても、濃い日々だったのだ。
ジャン・ラフィット、エティエンヌ・ジェラール、アレクサンドル・デュマ、そしてコリンヌ・ド・ブリクール=オーリック、本当にあったんじゃないかと思える凄い冒険。
とっても、大好きでした。
彼らの、本当の冒険も気になる。
あぁ、凄く良い本でした。
ミステリーランドの中で今まで読んだ中で一番好き!
【3/23読了・初読・市立図書館】
投稿元:
レビューを見る
「ライン河までいき、双角獣の塔に幽閉されているという人物の正体を調べるのだ。おまえがそれをやってみせたら、孫として認めてやる」
父の訃報をしらせに絶縁された祖父をたずねる少女コリンヌは、はじめて会った祖父に孫だとは信じてもらえず、おまけにとんでもない課題まで言い渡される。
作家のアレクサンドル・デュマ、謎の紳士ラフィット、凄腕の剣士モントラシェの三人を仲間に邪魔な奴らもものともせず、双角獣の塔を目指す。
そこには本当に「あの人」が幽閉されているのか、そこに隠された真実は何なのか、そしてパリでコリンヌを待つ人々は…。
子供にも読みやすく、ちょっと大き目の字が並んでいます。
実はナポレオンは生きていた、とか仮面の男の話とか、あと街や乗り物にまつわるウンチクが沢山です。
後に仲間になるアレク達は実在の人物、もしくは有名作家の物語にでてくる登場人物だそうですが、コリンヌは田中さんの創作人物?アレクが後に三銃士を書いて有名になるので、もしかするとそれに合わせて書かれた少女かもしれませんね。