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  • カテゴリ:一般
  • 発売日:2005/11/27
  • 出版社: 新潮社
  • レーベル: 新潮文庫
  • サイズ:16cm/291p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-10-121523-5
文庫

紙の本

博士の愛した数式 (新潮文庫)

著者 小川 洋子 (著)

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた—記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に...

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博士の愛した数式 (新潮文庫)

税込 693 6pt

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紙の本
セット商品

新潮文庫の100冊 2016 109巻セット

  • 税込価格:73,601669pt
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商品説明

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた—記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。【「BOOK」データベースの商品解説】

【読売文学賞小説賞(第55回)】【全国書店員が選んだいちばん!売りたい本本屋大賞(第1回)】【日本数学会出版賞(第1回)】【「TRC MARC」の商品解説】

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著者/著名人のレビュー

80分しか記憶の持たない数学者とそこに派遣された家政婦...

ジュンク堂

80分しか記憶の持たない数学者とそこに派遣された家政婦、そしてその10歳の息子をつなぐものは数字と野球だった。
野球の好きな人は最後の5行でぐっとくると思う。
この作品が発行されて結構年月がたっているけど、
気になるのは江夏豊さんはこの本のことを知っているのかどうか、ということ。
どんな評伝よりも江夏さんの偉大さを物語る1冊ではないだろうか。

MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

みんなのレビュー2,082件

みんなの評価4.2

評価内訳

紙の本

ある機能が失われてもなお残っているその人らしさ

2008/11/28 18:35

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:wildcat - この投稿者のレビュー一覧を見る

私がこの本を読んだのは、読書メモによると2006年2月です。

私はこの時期、『博士の愛した数式』を文庫本で読んで、
『私の頭の中の消しゴム』をケータイでダウンロードして読んでいます。

『博士の愛した数式』は、その後映画も観に行き、
たいていは原作を生かしきれない映画化が多い中、
これは心底よいと思った1本だったと記憶しています。

さて、同じ時期に似たテーマを持つ2冊を読んだのですが、
悲しさ、せつなさは、圧倒的に「消しゴム」の方でした。

まだ私より若いのに、若年性の認知症で記憶が
ほとんどすべて失われてしまうヒロインの姿。

この作品は日記として書かれているため、
最初から予兆があることに読者が先に気づいてしまうのです。

そして、最後にヒロインが取った選択・・・。

読後もしばらく考えさせられました。

一方、「数式」は、交通事故による高次脳機能障害のため
新しいことは80分しか記憶していられない「博士」との日々を
その家政婦の女性の視点で描いています。

80分しか記憶できないのは深刻なことですし、
昔のままで時間が止ってしまっていることは当人にとっても
家族にとってもつらいことです。

だけど、そのつらさ、せつなさよりも、
どこかほのぼのとしたユーモラスさが感じられるのです。

どちらも、描かれているのは、
「ある機能が失われてもなお残っているその人らしさ」なのだと
思いました。

そのその人らしさが、「消しゴム」では、
「ヒロインの重大な決断」に結びつき、
「数式」では、「博士の人柄の描写」へと結びついたのです。

深刻なテーマを描きながら、
「数式」がなぜこんなにほのぼのしているのか?

そのときの私は気づいていませんでした。

そして、この本の感想はメモのまま、
投稿されないまま、私の手元に残っていました。

***

ここからは少し私事になります。

また、本の内容に戻りますので、少しだけお付き合いください。

**

この本を読んでいた頃、私はまだ彼とは出会っていませんでした。

彼と会ったのは、この半年後だったのです。

出会った時の彼は、すでにもう、うつ病で不眠症でした。

出会った当初は、恋人らしい時間も過ごしたのですが、
彼の病は次第に悪化して行き、
私は彼から何かが零れていくのを
ただただ見守ることしかできませんでした。

うつや薬の副作用は、彼から知性、体力、社会生活、
生き物としての基本的な生命維持の気力さえも、
どんどんどんどん奪っていきました。

命の玉がどんどん零れ落ちていくのを
なすすべもなく見ているしかできませんでした。

彼からいろいろなものが薄皮のように剥がされていきました。

本来は、時間をかけて失っていくものたちを彼は30代で
一気に脱ぎ捨てていかなければなりませんでした。

彼がどんどん衰えていってしまっていることは悲しかったのですが、
さすがの病気も彼の本質は奪えませんでした。

彼の優しさ、思いやりの心はずっとそのままでした。

彼は、彼の本質を残したまま、子供に還って、旅立ちました。

***

私は、人は年を重ねても、病に倒れても、死の床に瀕していても、
失われない本質を持っているのだと、自分の経験として理解しました。

そして、よく「ありのままを受け入れる」といいますが、
そのときの「そのまま」、「ありのまま」というのは、
「オンステージではないバックヤードの自分」だけではなくて、
「その人の核となる本質」をも含むのではないかと思うに至りました。

それは、「最期まで残る自分」になります。

もし、私がもう一度人を愛するのならば、その人の表層だけではなく、
その核をきちんと見られる人でありたいと思います。

そして、その本質をそのままさらりと受け入れてしまえばきっと、
博士と家政婦とルートが紡いでいたような、
温かい時間がそこに流れるのではないでしょうか。

「ある機能が失われてもなお残っているその人らしさ」について
考えたとき、読書メモは、2年半ぶりにこうやって命を持ったのでした。

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紙の本

現実は意外に、博士タイプの人は多いのです。

2008/11/20 22:16

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る

博士の愛した数式 小川洋子 新潮文庫

 そこはかとなく「今、会いにきます」市川拓司著小学館に雰囲気が似ている。このお話の場合も登場人物が少ない。家政婦とその息子ルート君、交通事故のために1975年で記憶力が止まった大学教授とその亡き兄の老妻。家政婦と大学教授を軸に数式、プロ野球阪神タイガース、そして江夏投手をからめながら静かに進んでいく。なんでもなかったことが、あとから幸せだったと思う。そんな、昔、流(はや)った歌の文節を思い出す。数式の説明はわかるときもあるし、わからないときもある。博士のこどもへの思いやりが好き。家政婦の思いやりとルート君のやんちゃなところが好き。記憶が80分しかもたないやさしい博士が魅力的です。わたしは、はたとひらめいた。人は誰しも年をとれば記憶力が低下してくる。人の名前、それからお店の名前を覚えることができなくなる。記憶時間80分間。その記憶時間はなにも博士だけに限った異例なものではない。

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紙の本

静謐な愛情

2006/02/10 17:08

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:吉野桃花 - この投稿者のレビュー一覧を見る

いつも最初に簡単な物語の設定やあらすじを書くことにしていますが、すでに多くの方が書かれているのでここでは省きます。
「数学雑誌の懸賞問題が解け、レポート用紙に清書し、郵送する前にもう一度見直しているような時、博士はしばしば、自分の導き出した回答に満足しつつ、
「ああ、静かだ」
とつぶやいた。」
この物語を読んでいると、まぶしいほど明るくもなく恐ろしいほど暗くもなく、騒がしくもなければ寂しいまでの沈黙もない、そんな静かなところに連れて行かれます。
ほんの少し、人の立場や気持ちを慮ることで、私たちはこんなに静謐な関係を人と結ぶことができるんだ。
この物語の登場人物は皆、何かしら、いわゆる世間一般の平均像からずれています。
博士の《僕の記憶は80分しか持たない》は大きなずれですが、家政婦である私も母一人(文字通り他に人手のない一人)で子供を育てているし、私の雇い主である博士の義妹も心に博士に対する複雑な思いがある。
その点を「変わってるわねえ」「大変ねえ」と解釈してしまったら、たちまち泥沼の愛憎劇になってしまいますが、皆さんごく普通に「そういうことか」と事実のみを受け入れています。そして気の毒がるでもなく、やってあげなきゃでもなく、今自分にできることをさらっとやるのです。
単にいい人ばかりでは嘘くさくなりますが、博士の苦悩も、私の離婚の痛みも、義妹の思いもきちんと書かれています。ちょっとした揉め事も起こります。
それでも、この静かさ。やはりそこには数学をモチーフに使っていることが大きいと思います。
私は文系なので、数学といっても文系数学しかやっていませんが、計算用紙として使っていたB4の藁半紙に数式を書いていくのは快感でした。本当に何かに導かれるように流れていく、ぴたっと解が決まる。それは私にとって静かな数学との時間だったに違いない。その感覚を思い出すのです。
途中で間違ってしまうと容赦なくダメ出しされます。先が続かなくなる。覚え違いとか、しまった!というミスは起こりにくく、数学は間違いをわからせてくれるとところも好きでした。解を差し出す前に正解でないものは突っぱねられる。最後までたどり着いたら、ほとんどの確率でそれは正解なのです。
博士も私も義妹もルートも、ミスの程度はそれぞれですがミスを犯します。しかし素早く”もう一度見直し”軌道修正するのです。そこが博士が教えてくれるさまざまな数の不思議、数学の考え方とリンクして、突拍子もないリアルさを生み出します。博士のそばに居たら、そうするに決まっている!とさえ思う。
最後に話がちょっとずれますが、江夏の背番号28がぞっとするほどこの物語を引き締めています。(これは小川さんご自身も、作品を完成させる最後の鍵、と語られたそうです)
江夏でなければこれほどの凄みもリアルもなかったと思います。彼がこの番号を背負っていた偶然に驚きました。
これから幾度となく読み返す本になりそうです。

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紙の本

完全数、28

2005/12/16 14:58

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:山野翔 - この投稿者のレビュー一覧を見る

来春、映画化されるそうで。
文庫化も近頃されたそうで。
是非一読をお勧めします。名作です。
私が読んだのは単行本版ですが・・・。
交通事故の後遺症での80分間しか記憶の保たない脳になってしまった数学博士。そこに現れるのは、10人目の家政婦とその息子。博士はその息子に√(ルート)という呼び名を与える。何でも優しく包み込んでしまう√。
それから年老いた博士と若い家政婦とその小さな息子の不思議に暖かいそして壊れやすい微妙なバランスの日々が綴られて行く。数字は美しい。複雑怪奇な人間のあり方よりも、よほど神に近い。というか、博士は「神が与えたもの・神の手帳にだけ書いてあるもの」という。ただの数字が背負う性格(?)、江夏豊の背番号「28」は完全数。「完全数」とは「1+2+4+7+14=28」のように素数(整数p (p ≠ ±1)は、±1と±p以外に約数をもたないとき素数であるという)の和がその数字自身になる数。また、完全数は「1+2+3+4+5+6+7=28」のように連続した自然数の和で表される。このことを博士から聞いた家政婦は「どこにも無駄がなく、研ぎ澄まされ、痺れるような緊張感に満たされていた」と感じる。
完全で調和的で静かな落ち着きを備えている数字の世界。まず、家政婦と同じように私(文化系人間)も読み進むうちにその世界の虜になっていった。「数」って面白い。「数学」って面白い。
博士はその数字で他人とのコミュニケーションを取ろうとする。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の如き優しい人柄。子どもを無条件で大切にする人。他人のことを自分より大切にする人。80分間で記憶が消えていく、悲しみと不幸を背負った人。家政婦は恋愛感情ではないが、大切な人として息子と一緒に博士に寄り添う。しかし・・・。
 共に辛いけれど美しく暖かい人間同士の関係だ。この本を読んでいると童話の世界に入り込んだような気がしてくる。悪人の出てこない、安心して読める書物。ハッピーエンドが約束されている世界。そしてこの小説の終わりも、やはりある意味ハッピーエンドである。√は中学校の数学の先生になる。江夏豊の野球カードが博士の胸で揺れる。√と博士のキャッチボール。掛け替えのないものを博士から学んだ2人。得難い友人を得た博士。小説の最後は「完全数、28」江夏豊の背番号・・・。

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紙の本

数字と記憶と愛

2006/01/14 00:12

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:礼和 - この投稿者のレビュー一覧を見る

買ったその日に読み終えた本。読み進んでいくごとに「博士」の数式の世界に飲み込まれていくようでした。
記憶が80分しか持たない博士と、家政婦、そしてその息子の√(ルート)の日常について。
毎朝自ら書いたメモで自分の病気を知り、絶望のふちに立たされる博士。
戸惑いながらも「博士」を見守り、1時間20分という限られた時間を大切に過ごす家政婦の「私」。
小学生ながらに博士の病気を理解して、そして博士から全身の愛を受ける「ルート」。
うまく言えないけれど、とにかく3人がそれぞれ3人を心から思い、愛すという日常に心が温まりました。そしてすべての数字には意味があるということに驚き夢中になって読んでしまいました。ただ“素数”“自然数”・・・何年も前に習ったはずなのに読んでいくたび「アレ?自然数ってなんだっけ」という疑問がわいたりわかなかったり(笑)
オススメの1冊です!

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紙の本

素数やゼロを愛する心は神仏への信仰に近い

2005/12/03 21:49

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:吉田照彦 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 交通事故の後遺症から記憶が80分しか持たない「博士」と、彼のもとに通う家政婦「私」とその息子「ルート」との心の交流を描いた作品。第1回本屋大賞受賞作である。
 前にも何かの書評で書いたことがあるけれど、本との出会いというのは恋に近いと思う。最初に交わすわずか数言——本でいうならば、最初の数ページを読んだだけで、第一印象の好き嫌いが決まる。ちなみに僕はこの小説の20ページ目で恋に落ちた。
 「素数を愛する数学者」というのがある種のブームにでもなっているのだろうか、最近、小説の中で「素数を愛する数学者」を描いた作品を、僕は本書を含めて二冊読んだ。確か、いしいしんじ著の『麦ふみクーツェ』にも、素数を愛する数学者の父親が出てくる。
 主人公の「博士」の言葉を借りれば、数学とは、「神の手帳にだけ記されている真理を、一行ずつ、書き写してゆくようなもの」だそうである。また「神は存在する。なぜなら数学が無矛盾だから。そして悪魔も存在する。なぜならそれを証明することはできないから」とも。これは「難しい名前の数論学者の言葉」だそうな。
 自然界に存在する個々の数字の関係性にある種の法則性を見出し、それを愛する心は、西洋的合理主義に合致した心理のように思える。僕もどちらかというと、混然と並べられた数字の羅列から一定の法則性を見出すことに快感を覚える性質だ。
 一方、素数を愛する心は、人智を超えた存在を愛する心だ。人智によって容易に法則づけられることのない神秘性をこそ愛するのだ。「素数の性質が明らかになったとしても、生活が便利になる訳でも、お金が儲かる訳でもない」、故に、「数学の秩序は美しい」と「博士」はいう。またゼロについてこういっている、「無を数字で表現したんだ。非存在を存在させた。素晴らしいじゃないか」と。無を顕現化し、人智を超えた存在を認め、美を希求する心は、神仏への信仰と似ている。
 僕ら法則性を愛する合理主義者には不合理にも見える。しかし、その不合理さ故に、信仰者は、そして世界は美しいのかもしれない。

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紙の本

数学が果てしないロマンになる魔術。

2017/05/14 00:09

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る

数学,苦手な人が多いと思う。頑張って克服した人も多いと思う。
好きで好きで,という人は稀有な筈だ。
そんな数学がロマンの題材になるなんて俄かには信じがたい。

小川さんは,数学者の藤原正彦さんに取材をして本作の
プロットを固めたそうだ。藤原さんはNHK人間講座で
講師を務めた数学者。
番組を見ていた小川さんのひらめき電球にスイッチが入ったようだ。

才能と才能のぶつかり合いは大きな火花を発して作品を
生み出す。その藤原さんによる解説なのだが,取材では
通り一遍の答えしかできなかったと謙遜している。
これだから才人達は恐ろしい。

家政婦として博士の身の回りの世話を申し付かった「私」。
博士は,80分しか記憶が持たない人だった。

毎日が初対面から始まる。博士は記憶の壁を克服する
ために,背広に鈴なりのメモ用紙をぶら下げている。
私に十歳の息子がいると知り,博士は大変心配して
学校が終わったら来るように言った。
それから奇妙な三人の友情が始まる。

博士は息子にルートと名付け,友愛数や素数の話を
熱っぽく語るのだった。

数字の不思議が抜群に興味深い。
80分の記憶制限にうまく対処する私と息子が,
せつないし、微笑ましい。
記憶の壁を越えるためにつく嘘も,優しさの積み重ねだ。

博士を喜ばせようと一生懸命になる二人の姿は,
世代を超えた友情を感じさせる。
博士に記憶の制限が課されたからこそ,色濃く浮かび
上がっている。

もし自分の身の回りの人で同じような事が起こったら,
こんなに素敵にふるまえるだろうか。
私ならまず記憶を取り戻すためにあらゆる手を尽すだろう。
記憶の戻らない相手に忸怩たる思いをし,相手と自分を
傷つけてしまうかもしれない。
あきらめた後に,せめてもの償いで喜びの時間を求める
かもしれない。

相手のことを大事に思う気持ちは決して自己満足では
あってはならず,本当に難しい。そんな事を考えてしまった。

三人の関係はいつかは終わりを迎えなくてはならない。
永遠とも思える友情の前に,今度は現実の壁が悲しく
立ちはだかる。そしてこの物語も終焉を迎える。

最後は現実の壁に分断されてしまう。
でも三人の心は温かく満たされたままと信じたくなった。
素晴らしい物語だ。

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紙の本

美談を超えて

2011/12/03 10:51

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 このところ少しずつだが小川洋子を読み続けていて、今更のようにようやく代表作である本書にたどり着いた。しかし初期の短編集を読んできた立場としては、読む前には期待と共に不安もあった。評判からすると本書はほのぼの感動系らしい。だが今までの作品から読み取れたのは、そういう要素を持ちながらも、意外にしたたかで、仕掛けが多く、一筋縄ではいかない作家の姿だった。言ってみればあまりにも世間受けしてしまった本書は、ほのぼのを強調するあまり、持ち前の毒のようなものを失って、したがって私のようなある意味ひねくれた読者には魅力を損なってしまっている恐れはないのか?
 読んでみて、たしかにこれは素直な本だろうと思った。これまで感じてきた、かすかに毒気をはらんだ謎めいた雰囲気、曖昧さが開いてみせるかもしれない可能性、という感じは、わずかに見受けられるとはいえ希薄である。
 だがこの小説は小説で、小川洋子の一つの達成であるのはたしかだろう。それははっきり感じられた。旺盛な創作活動をずっと続けているわけだし、私がまだ知らないだけで、ネットの作品紹介など見てみても、いわば謎や毒の路線の本もいろいろありそうで、それはまたそれで別の機会に楽しむこととして、今はより素直なこの小説を楽しめばいいということだろう。『博士』は、素材自体はいわゆる美談に近い、見ようによってはあからさまなまでに感動的な内容には違いないのだが、そうとしても出来が半端ではないのである。
 小川洋子は緻密な作家である。文章は隅々まで磨き抜かれている。いや、磨くというとニュアンスが違う。細やかに心配りがなされているとでもいおうか。プロットもよく工夫されて洗練されたものである。結果的に小川洋子の小説は品がよく柔らかで、かつある種の堅固さに支えられた安心感をもたらすものになる。題材自体は、しばしば困難な、問題意識の強いものだが、それでもどうしようもない不安の中に放り出されるようなことはない。これは大きな特徴ではないかと思う。
 ここでもそれはよくわかる。この小説も、優れた数学者でありながら記憶がわずかしかもたないという障がいを抱えた「博士」と、決して恵まれているとはいえない生い立ちの語り手の家政婦とその息子を描いて、設定は重い。だが、それが苦しさよりも明るい希望を展望させることになる。
 家政婦という設定にもちゃんと意味がある。変人扱いされる博士に寄り添えるだけの、いわばその資格というべき傷を抱えているということなのだ。
 博士の記憶力が衰えていくのは、たとえば『アルジャーノンに花束を』を連想する痛ましさがあって心を打つが、そうした不安要素や、また秘められた人間関係や発見の秘密をめぐって、ミステリーの要素も巧みに作者は使いこなしていて、真実が浮かび上がったときの感動は深い。
 独創的なのは、なんといっても数学と、そして、作者自身が熱烈なファンであるタイガースの、とくに江夏豊にまつわるモチーフである。それらによって三人の絆が見事に結ばれてゆく。数学の担う役割は、すでに初期短編にも現れていたが、ここでも同じだろう。要するに数学というのは、その内包する美しいまでの秩序のゆえに、決してやさしくはない生きるという営みの中での、祈りのようなものなのである。そしてその数学とタイガースとが結び合うという、一見突飛な工夫もこの作者ならではの独創であり、これまた数式のように美しい一つのハーモニーを生み出している。
 さて、設定の上で最大の問題は、なぜこのように記憶の続かない人物を描くか、ということではないかと思う。むろん答えなどどこにも書いてはいないし、ネタばれというようなことではないから、ここで私が一つの考えを述べても許されると思う。博士の記憶が保たれる80分という時間の枠は、私にはまず、小川洋子がずっと描き続けているともいえる生の不安、その不確かさのようなものを象徴する表現のように思われた。しかしそれは、物語の進行とともに、限られているからこそ、消えゆくからこそかけがえのない、すばらしい時間を意味するものにも見えてくるのである。こうして光と影とを混ぜ合わせる離れ業。その才能にあらためて脱帽である。

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紙の本

愛すべき「数学者」と、そこにある「静かな」空間

2012/01/08 11:21

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る

数字を愛する、数字にしか興味を示さない老数学者と、そこに勤務する家政婦、その息子。登場人物は少なく、「語り手」の家政婦ではなく、数学者が主役のストーリー。
事故により「80分」しか記憶が残らない数学者。そこに派遣された、息子を持つ30前の家政婦。特殊な環境は「文学的」ともいえる設定で、「不自然さ」が出てきそうだけれど、読んでいるうちに「世界」に引き込まれてしまいます。平凡な「日常」が続き、大きな「事件」はおきませんが、続きが気になってしょうがなくなっていきます。

よくある展開のように、「数学者」はかなり「特殊」に描かれています。人との接点がなく、異なる世界観を持っています。「普通の」人間である家政婦は当初はやりにくさを感じますが...
確かに「変わり者」の数学者=博士ですが、読み進めていくにつれ、その「純粋さ」が際立ってきます。そその「特殊」は、どれだけ「純粋」であるか、ということと表裏一体です。自分には無縁の世界観ですが、数学の「美しさ」を追求すると、余計なものを排除した「本来」のものに到達するかのようです。

博士の持つ、数学に対する美学は、次第に家政婦やその息子へも「よい」影響を及ぼしていきますが、それは数学それ自体が持つ魅力というよりは、そこに魅入られた博士の純粋さに打たれたことによるものでしょう。博士が「素人」である彼らに説明する際、否定的な言葉は使いません。「知らない」人に対してもそれを受け入れる度量が博士にはあります。

変人でありながらも不思議な魅力のある数学者。「80分」しかもたない記憶。それでも博士は「優しい」のです。人間関係を描くドラマはここにはありませんが、博士の魅力だけで十分に楽しめます。温まります。

数学者を描きつつも、プロ野球がストーリー中の大きな要素となっていたり。かなり専門的な数学が登場するも、文学的な香りを失うことはなく。登場人物をかなり抑えていますが、少ない分、一人ひとりが個性的であり。そもそも相当な事前準備(こと、数学に関しては)が必要だったのでは、と推測される著者の思いこみの深さに感銘を受けたり。

素晴らしい本です。「文学」が苦手な人でも、「数学」が苦手な人でも、この世界に入り込めます。両社苦手である自分が、完全に入り込んでしまったことが、なによりも「証明」。
読んだ後はなぜか博士のことを、数学のことを、思い出しています。力がある小説です。すごいなー


【ことば】「直感は大事だ。カワセミが一瞬光る背びれに反応して、川面へ急降下するように、直感で数字をつかむんだ」

非常に「文学的な」数学者の言葉ですが、ここにこの数学者の魅力が詰まっています。「直感」は、ひとつの真理を追い求める数学となにか相反するもののように思えますが、直感の重要性を大切にする博士はやはり人間的に魅力を持った人物。自分の記憶に残る人物に、小説になりそうです。

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紙の本

心が震える

2016/04/01 23:49

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Freiheit - この投稿者のレビュー一覧を見る

記憶が80分しかもたない博士と家政婦間の物語。家政婦の息子も加わり、3人の日々が驚き、歓びに変わっていく。

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紙の本

この「博士の愛した数式」は、「…

2012/01/30 09:14

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:トグサ - この投稿者のレビュー一覧を見る

この「博士の愛した数式」は、「本の雑誌」が主催する書店員が選ぶその年のベスト10のグランプリに当たる本屋大賞を1昨年受賞しています。

この「博士の愛する数式」あたりだろうかエンターテイメント小説に数学が扱われることが一つのトレンドみたいになったのは。
直木賞を受賞した(祝!おめでとう!)東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」の重要人物にも数学者が登場します。

この「博士の愛した数式」の主人公の一人も数学者です。

<感想>

僕はこの「博士の愛した数式」を読んで久々にほのぼのとした気持ちにさせられ心が洗われました。
それは、博士の持っている人柄、会う度に靴のサイズと電話番号を聞かれながらも、それに丁寧に答える私の優しさとルートと博士の心温まるやり取りによるものにもたらされます。

この「博士の愛した数式」には友愛数、完全数、双子素数、三角数など数字がが多く登場します。
その数字が大変、美しいです。意味など解らなくていいのです。その美しさを分かりさえすれば。
それが著者、小川洋子さんがつたえたかったことであるはずだから。

また、その数字の単純な美しさを表現するためか、小川洋子さんの文体は簡素でさりげない会話が心に染み入ります。

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紙の本

優しさに包まれる

2022/10/26 22:01

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投稿者:Monty - この投稿者のレビュー一覧を見る

80分しか持たない記憶、家庭環境、過去の叶わぬ恋など一見すると悲しい側面ばかりだが、3人の関係が美しく描かれていて、優しさに溢れた本。とても良い本に出会えた。

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紙の本

大好きな話です

2020/09/26 07:43

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投稿者:くまのみ - この投稿者のレビュー一覧を見る

映画でしかみたことがなかったので原作が読みたくて購入しました。 同じ話だけど少し描写が違ったり人物も深く知ることができ楽しめました。また読み直したいです。

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紙の本

数学愛が凄い

2020/09/19 11:40

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投稿者:たくみ - この投稿者のレビュー一覧を見る

数字を愛して止まない博士の日常にある数字に対する想いが凄く伝わってくる。

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紙の本

江夏豊って、格好良かったよな

2019/11/17 22:53

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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

小川洋子氏は「ミーナの行進」でミュンヘン五輪の男子バレーボールチーム(とくに森田)を印象的な場面で登場されてくれた、そしてこの作品では阪神タイガースのエースだった江夏豊を格好よく登場させてくれた、中日戦でのノーヒットノーラン(おまけにサヨナラホームランまで打った)、オールスターでの9者連続三振のことも書いてくれた。作者は年齢の私と近いこともあり登場するスポーツ選手に私も思い入れがありこちらもワクワクとされてしまう。92年、阪神が優勝しかけた時のことは今でも思い出してしまう(八木の幻のサヨナラホームランとか)、江夏の背番号だった28という数字は数学的にも素敵な数字で「完全数」だということも知った、といってもその事実をどこで発表すればいいのかはわからないが

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