紙の本
養老人間科学の原点
2006/01/08 13:49
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
自然(人体)と学問(科学的思考)と歴史(解剖史)をめぐって、平易簡明な物言いだが、実は理解=体得するには難解な養老節が炸裂する。
人は何のために解剖するのか。人体を言葉にするためである。切れないもの(自然)を切るためである。自然を言葉でできた世界におきかえること。それが学問である。
アルファベットを使う民族にとって、世界は階層でできている。単語の下につねに一つ下の階層(アルファベット)を見るからである。人体も階層でできている。その単位(アルファベット)は細胞である。
細胞は細胞からつくられる(自己複製)。細胞はウチとソトを区切る。細胞は運動し、死ぬ。この三つの性質をもつことによって、細胞は生物の基本単位である。
ここに、「情報」と「システム」の養老人間科学が胚胎する。
※
養老人間科学の「方法」を仏教思想の語彙に翻訳し、その視線に「死せるキリスト」のマンテーニャのそれと同質のものを見てとった南直哉(みなみ・じきさい)氏の解説が見事。
《…人は理解した「事実」だけを語る。理解しなかったことは語れない。当たり前である。その「理解したこと」を「事実そのもの」だと思い込む態度を、仏教では「妄想分別[もうぞうふんべつ]」と言い、「無明[むみょう]」と言う。》
《…自分が事実そのものを見ることはできなくとも、どのように事実を見ているかを可能な限り明確に書くことで、先生はその先の事実の在り処を示そうとする。
その事実を、先生は「自然」と言い、それは「切れていない」と言う。この簡単な物言いは恐ろしい。仏教が「如実知見[にょじつちけん](ありのままに見ること)」と称して見ようとしたのは、このことだ。》
《先生は本書の最後で、例によって簡潔明瞭に言う、「心は、からだがあって、初めて成り立つのである」。この「事実」を仏教は、「諸行無常」と言う。》
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まさにようこそな内容。わかりやすくて面白くて入門書としてはとてもよいのではないでしょうか。でも人体好きな自分も満足できる内容だったのは、解剖がメインだったからだと思う。つくづく自分は解剖に関することが好きだ(自分でするのは好きでない)
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分かりやすく、丁寧に書かれているので中学生や高校生、これから解剖学を学ぼうという人まで広く読めるのではないだろうか。
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人体に興味あったので購入。すぐ読み終えました。もうちょっと内臓の細かい説明とか欲しかったな。でも、説明は明快です。西洋医学の階層的な考えと、英語の言語構造の関係には、膝を打ちました。
てか、日本で初めて解剖をしたのって杉田さんじゃないんですね。
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『バカの壁』など多数の著書で有名な養老先生の本
もともと養老先生は解剖学の先生であったのだから、彼の解剖の本を見てみることは一見の価値があるだろうと思い読んでみました。
解剖をするということはものを切ることであり、切ることは名前をつけることである。切ることを行うのは『ことば』である。
日本で解剖を最初に行った医者は山脇東洋という人で江戸時代中期だったらしい。
実は日本では大宝律令で解剖をすることを禁止していたらしく、それまでされることがなかったらしい。
一番面白いと思ったのは、なぜ解剖が始まったのは西洋で東洋ではないのかということろ。
この違いは文字の違いであると分析している。
西洋はアルファベットである表音文字を使用している。一方で、中国や日本などの東洋は漢字などの表意文字を使用している。
例えば犬という動物を表す時に漢字では『犬』と言う漢字があるから犬を表すことができる。しかし、英語では『dog』というもともと意味のないd g o をd o gの順に並べることで犬を表す。そこには下の階層があり、このため西洋では単位という概念がある。このため、上記のように西洋では解剖ということが始まったと考えられる。
難しいが思わず頷いてしまった。
気になる人はぜひ一読をおススメします。
あとがきにあるように2時間もあれば読める内容です。読みやすく絵もたくさんあるので解剖や生物の基礎がなくでも楽しいです。
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高校生向けということでときどきくだけた表現になるのだけどそこで気が散ってよけいわかりにくくなる瞬間が時々あったのが残念。
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人体ってすごいな、と素直に思える本です。
文章もかなり読みやすく、分かりやすく解説されています。
また、詳細な図説も多いです。
そう、図説が多いんです。解剖学の本ですから。
ですから読むときは、周囲に配慮したほうが賢明でしょう。
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中高生向けの解剖学入門書の体裁になっているが、その内容は「唯脳論」の延長で、記述は平易になっている。構造と機能の問題、ことば(脳化)の問題から、生老病死、生の意味まで、著者の問題意識が展開されていて面白い。
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専門分野の本というより、文化の発展と法医学入り混じった、ちょっと新鮮な本。
解剖ができても、絵がへたくそじゃぁ、そりゃ伝わらないですよねぇ。
12.09.05
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面白いです。
解剖は大学では講義だけで、イメージが中々つかなかったのですが、この本を読んで興味がわいてきました。(今からわいても遅いですが)
気味が悪い・・・顔と手の役割って重要なんですね。
解剖の歴史的背景も平易に書いてあり、勉強になります。
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解剖について基礎的なことから分かりやすく書いてあります。
中高生向け、なので気軽に読めました。
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読んでるうちに頭の中というか、思考も小さくバラバラにされてく感覚が楽しい
解剖学のわかりやすい説明を聞いてるうちに小宇宙に連れてかれたようだった
理解しきれないけど、読後はなんだかすっきりする
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読書録「解剖学教室へようこそ」3
著者 養老孟司
出版 筑摩書房
p32より引用
“暁斎は幕末から明治にかけての画家。こうした独特の絵を描い
た。外国でむしろ有名な画家である。子どもの頃に、川から生首
を拾ってきて、それを写生したという話が伝えられている。”
解剖学者である著者による、解剖の歴史や方法について書かれ
た一冊。過去同社より出されたものの文庫版。
著者が初めて解剖に携わった話から心と体の問題についてまで、
多くの図表とともに書かれています。
上記の引用は、河鍋暁斎という画家による、骸骨の漫画に添え
られた解説の一文。見開きで掲載されているのですが、眼球も眉
毛も無いのに、とても楽しそうな表情をしているように見えます。
たぶんにポーズのせいではないかと思います。大変丁寧に描かれ
ているので、現代でも有効な資料なのではないでしょうか。
私としましては、昔確かセガサターンで発売された、Mr.ボーンズ
というゲームが思い出されて仕方がありません。
精密な内臓や筋肉の図が多数出てくるので、そういう類が苦手
なら読むのがツライ一冊となるのではないでしょうか。
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「死って何だろうね」
蛹が言った。
葉月はコーヒーを沸かしながら、内心ため息をついた。
「何でもいいですけど、とりあえずコーヒーでも飲みます?」
「うん、飲む」
二つのカップを手に居間に戻ってみると、蛹は縁側から海を眺めていた。
「コーヒー淹れましたけどー」
テーブルに蛹のカップをわざと音を立てて置き、葉月はソファに深々と腰を下ろした。
蛹は気づいていないかのように、振り返ることすらしない。
葉月はコーヒーを一口啜って、またため息をついた。
蛹という男は、一週間のうち六日は死について考えているのだ。残りの一日はというと、「ためしにちょっと死んでみようか」なんて考えているのだから油断できない。
「死っていうのは、世界のどこら辺に位置するものなんでしょうね」
独り言ですけど、と前置きをして、葉月は言った。
「よく、生命は死を内包しているというけれど」
蛹が、水平線に目をやったまま、言う。
「人を解剖したところで、死は見つからないね」
「解剖したんですか……」
問うて、葉月はすぐに後悔した。
人間はどうか知らないが、職業柄、動物ならいくらでも解剖しているはずだ。
それはどういう体験なのだろうかと思う。
「でもまあ、死に通じる何かしらのものを得ることはできるかもしれないね」
「死に通じるものって、つまり生きているってことですよね?」
「さあね」
ようやく蛹は肩越しに振り返り、こちらを見た。
「でも結局のところ、何かを知るためには、表面から少しずつ、皮を剥がし、腑分けをしていくしかないんだね」
「そうですね」
葉月はソファから立ち上がり、蛹のカップを手にした。
「ほら、コーヒー、冷めますよ」
「ああ、うん、そうだね……ありがとう」
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何年も前、大学での解剖実習が始まる頃に買った一冊。結局、当時は解剖実習が忙しすぎて読む気にもなれず、積読の地層に眠っていたものを先日発掘した次第です。
内容は解剖学を軸に、その歴史から生物学、心理学に至る広い内容を中高生向けに分かりやすく記したもの。途中で話が脱線したりする様は講義を聞いてるようでもあり、脈管や神経の名前をひたすら暗記した自分の解剖学の思い出と比べると、ただただ楽しい作品でした。西洋の解剖学がアルファベットに繋がる話は目から鱗。