あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
和菓子司の隠居、宇谷九一郎の住む宮脇町でも「老人相互処刑制度」が始まった。町内には、もと自衛官、神父、もとプロレスラー、そして幼なじみなど、「強敵」五十数人が犇めいている!21世紀最大の、禁断の問いをめぐる筒井文学の新たな代表作。【「BOOK」データベースの商品解説】
老人であることは悪なのか? 和菓子司の隠居、宇谷九一郎の住む宮脇町でも、70歳以上の国民に殺し合いをさせるシルバー・バトルが遂に始まった! 21世紀最大の、禁断の問いをめぐる老人文学の金字塔。【「TRC MARC」の商品解説】
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
文字通り「筒井文学の新たな代表作」である
2006/07/17 06:33
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
ベストセラーともなり映画化もされた高見広春著「バトル・ロワイヤル」の設定を,増え続ける(そして御大自らその一員であらせられる)高齢者に置き換え,しかも「そのへんの町内」で殺し合いが行なわれるという,これがスラップスティックにならなくてなにがスラップスティックになるかという舞台立て。なんつうか,軒を借りて母屋を乗っ取ったばかりかその母屋を超高層ビルに建て替えた上でゴジラに壊させたみたいなシロモノ。なにを書いているやら自分でもよくわからないが,いやはやなんともこれはスゴイ。
増え過ぎた老人対策の決め手として厚生労働省が打ち出した「老人相互処刑制度」。早い話が70歳以上の年寄りを減らすため,ブロックごとに殺し合いをしていただき,生き残ったお一人だけにその地区で永らえる権利を与えましょうというわけ。バトル期間は一か月。殺し合いの邪魔をするものは対象者でなくても殺して構わない。宮脇町5丁目で老舗の和菓子屋を営む宇谷九一郎(77歳)は,他の地区でバトルを生き残った経験のある友人猿谷を助っ人に頼む。元自衛官に元プロレスラー,白髪鬼と呼ばれる大学教授に捕鯨船の銛撃ちまで,町内にひしめく58人の強敵(?)を相手に果たして彼は生き残れるのか……。
と,いうのが大筋なんだが,この「老人に殺し合いをさせる」という発想がスゴいのだ。単に高見作品の中学生をジジババにしただけではないか,と思うあなたはガキである。いくら殺し合いという極限状況に投じられたと言っても,所詮は10数年しか生きていない少年少女,やることも考えることもガキではないか。彼らの死に様を通して,オトナの読者に人生の悲哀や命あることの喜び,愛の矛盾や相克を感じさせることができると思いますか? それが老人ならできるのである。彼らは一人一人,多種多様な過去を背負っており,それぞれの人生観を持っている。
かつて「バトル・ロワイヤル」に関して,ビデオ・ゲームのように人殺しを描いているとかいう批判を目にしたことがあるが,この「銀齢の果て」はスラップスティックの形を借りて,血も骨もある生身の生をビデオ・ゲームのキャラクターのように扱って恥じないこの「社会」を照射しているのである。面白うてやがて悲しき,オビにそうある通り「筒井文学の新たな代表作」と言えよう。
紙の本
老人同士のこ○しあい、っていうところまではいっていませんが、高齢者を若い人がこ○す、ってえのはすでに現実なんですよ。いつか来る、なんて認識は甘い・・・
2006/03/11 17:31
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公は、老舗の和菓子司三代目、蔦屋のご隠居と呼ばれている宇谷九一郎、七十七歳です。で、彼は登場早々、ワルサーで囲碁友達である正宗忠蔵七十八歳を射殺します。しかも、家族が家にいる、というのを知りながら、です。うーん、こうして書いているだけで、恐くなってきますね。
時代は、といえば、殆ど現代と言っていいでしょう。舞台となるのは宮脇町五丁目地区です。で、これからこの地区で五十九人の老人たちの殺し合いが始まるのです。年齢は皆七十歳以上で、男女は問いません。健康状態も関係なし。ぴんぴんしていようが、ボケていようが、家族がいようが孤独であろうが、愛されていようが憎まれていようが全く関係なし。
お国のために、老人たちは互いに互いを殺しあうのです。生き残る権利があるのは、ただ一人だけ。で、その争いの間、家族といても一人でいても構いませんが、この選手?たちには医療行為も許されてはいません。ただし、タッグを組むことは自由で、だから老婆たちが爺さんを襲う、なんてえ場面もありうるわけです。
で、九一郎の宿命のライバル、ともいえるのが津幡共仁教授です。もと大学の理学部教授で白髪鬼なんて呼ばれています。お金持ちでもあります。で、この二人に対抗できそうなのがもと自衛隊員の是方昭吾七十四歳です。力はあるけれどお金はないという典型ですが、若い奥さんを貰って夜な夜な励んでいる、すこぶる元気のいいお爺さんです。
今書いた人たちは、基本的には健康な老人たちで、それ以外にも女優や召使、独居老人、介護対象者などなど、様々なお年寄りが登場しては死んでいきます。で、この人たちの姿を描いているのが巨匠・山藤章二画伯で、五十九人全員ではありませんが、勘定したところ40人以上にイラストをつけています。カバーにもですが、本の中にもそれだけの人間が絵で紹介されているわけです。
この絵が、実にいいですね。例えば越谷婦美子なんて筒井康隆にそっくりですし、柏原寛丸なんて横顔はまったく犬です。常磐操は餓鬼そのもので、志多梅子はタレントさんにそっくりの人がいます。主人公の盟友ともいえる猿谷甚一は渋いですし、うどんの阿波徳は金丸信、鈴屋寿司は高名な落語家ですね。
この本、挿絵はともかく、装幀は新潮社装幀室、と思い込んでいたら、装幀も山藤画伯が担当だとか。銀色の紙に、白髪の老人達が40人以上、これってデザインによる駄洒落なんでしょうが、結構いいです。老人たちの戦闘と船戸与一の小説ばりの遣る瀬無い、そして殺戮の果ての静けさみたいなものを味わってください。筒井康隆、健在なり、です。
紙の本
高齢化社会問題の問題
2006/01/22 18:50
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萩原非出来 - この投稿者のレビュー一覧を見る
高齢化社会などとマスコミが騒いでいる。
さもそれが我が国における問題であるかのように。
大作家の筒井康隆は、
老人問題を笑いにしてしまった。
人がどんどん死んでいく。
老人達が殺し合いを始めたのだ。
人が死ぬ話は悲しいはずなのに、
面白すぎる。
笑いとは、差別だ。
差別を逆手にとって
大作家の筒井康隆は
大笑いしている。
そうだ、貴方の言うとおりだ。
問題にするから問題なのであって、
生きることには理由があり、
だからこそ、
死ぬことにも意味があるのだ。
いかに死ぬかを考えることは、
同時にいかに生きるかを考えることだ。
しかし小説家の手中に
はまってはいけない。
小説家の言うことなど信じてはいけない。
くっくっくぅ。
笑わずにはいられないから困ったものだ。
紙の本
こんな日本に誰がする‥‥
2006/02/24 13:06
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちひ - この投稿者のレビュー一覧を見る
いま、この国では急速な「少子高齢化」が進んでいる。このままでいけば就業人口は減り続け、医療費の総額は果てしなく増え続け、経済は今以上に逼迫する。抜本的な解決策はないと言われている。
いや、倫理・道徳その他を無視すれば、実は策はいくらでもある。その一つがこの作品に示されている。すなわち、帯にはこうある。
「70歳以上の国民に殺し合いをさせるシルバーバトルが遂に始まった!」
政府は日本全土から複数の地域を指定、それらの地域では70歳以上の男女が相互に、たった一人が残るまで相互に殺し合わねばならないこととなったのである‥‥。
ということで、この作品は映画にもなった高見広春『バトル・ロワイアル』(太田出版)のパロディでもあるが、筒井氏には似たコンセプトの短編が昔あった。強烈なオイルショックか何か、発端はよく覚えていないのだが、経済が疲弊し切ったこの国は他国から食料を輸入することがほとんど不可能となる。過酷な食糧不足に陥り、特に動物性タンパク質の大幅な不足に陥ったこの国で、「定年」を迎えた男性は、家族によって殺され、家族によって解体され、食肉となり、一族の食を支えることとなるのであった‥‥。
という作品である。「断筆」のはるか前、『パプリカ』や『朝のガスパール』よりも前、『大いなる助走』や『俗物図鑑』の頃の短編集に収録された作品であったと思う。
筒井氏には他にも『天の声』(たしかこういうタイトルだったような‥‥)という、現在の死刑制度が廃止され、近親者による「仇討ち」のみが死刑執行の手段となった世界を描いた作品もある。こういうのを書かせると筒井氏はとにかくすごい。
『バトロワ』で中学生同士が殺し合ったのも衝撃的だったが、老人同士が殺し合うのもやっぱりむごたらしくて衝撃的である。そしてやはり、描写に筒井康隆独特のキレがある。きびしい描写なのにところどころきちんと笑えるのはすごいと思うし、「老醜」がある種の「かわいらしさ」に転じるように感じられる場面にもあり得ないすごさがある。
オチもしっかりしてます。
紙の本
老いを描く
2018/05/25 04:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
過激なサバイバルゲームの中にも、現実の高齢化社会や年金問題への鋭いメッセージが込められていて面白かったです。