紙の本
誰がどうやって取材したのかわからないけれど、刺激的な本
2006/05/16 22:12
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある特異な事件が起きて犯人が逮捕されたりすると、何故そのような事件が起きたのかについてマスコミは執拗なくらい私たちに知らしめてくれる。確かに特異事件については、私たちの興味もそこにある。だからせいぜい、その事件がどれくらいの罪に値するのかということくらいまでしか、知りたがろうとしない。その後、その犯人がどのように更生したのか、あるいは更生するためにどんなことが行われたのかなんて知ろうともしないし、知るすべもない。ましてや、少年犯罪では言わんやをやである。
だから、この本は単にあの酒鬼薔薇聖斗のその後を知るというだけでなく、罪を犯した少年がどのようにして更生(少年だから「矯正」になるわけだが)していくのかを知らしめてくれるという意味でも画期的なはずである。
だが、“画期的”と言うには少々物足りないものがあった。
まず、これはやむを得ないところではあるが、酒鬼薔薇聖斗事件の概要と少年Aの生い立ちに著述の少なからずが割かれていることである。もちろん、この本で初めて事件のことをきちんと知る人もいるだろうから仕方ないことではあるが、矯正記録をメインにしているのならば、事件の概要などは他の本にゆずって、もっと簡略にしておいても良かったのではないだろうか。
次に、様々な証言が著されているが、その取材源がはっきりしない。事件の性質上、取材源を明らかにすることはむずかしいのかもしれないが、医療少年院の中のことである。どのような取材を通して証言を得ることが出来たのかくらいは著してもらえないと、証言自体の信憑性にも関わってくるようにも思う。
ノンフィクションがドラマチックである必要はないが、取りあげられた出来事を語る上で重要な転回点とでも言うべきところがあるとは思う。この矯正記録で言えばきっと、擬似家族として治療にあたった女性精神科医に少年Aが慕うようになっていくところだと思う。そこが割とあっさりと著されていて、何となくいつの間にか少年Aが女性精神科医を慕うようになっていったように読めてしまう。また同様に、少年Aが他の入所者と関わりを持つようになっていくところとか、贖罪意識を持つようになっていくところとか、仮退院を控えた頃とか、いくつか重要な時点のことが淡々と著されていている。重要なところこそもっと書き込んでいくべきところのように思うが、どうだろう。
最後に、「あとがき」で著者自身のことに触れているが、これは矯正記録とは別の問題ではないだろうか。著者が「ハラスメント」で法務教官を辞めたことが、この本と何の関係があるのか。また、取材中に受けた少年院職員からの「妨害」がこの本にどんな影響を与えているというのか。「ハラスメント」や「妨害」のことだけ書かれても、著者の意図しているところがわからない。私憤でもってこの本を書いたのなら、それもまた問題ではないだろうか。
いくつも注文を並べてしまったが、最初に書いたように矯正に焦点を合わせて著された本という点では画期的であるには違いない。だからこそ、もっとノンフィクションの原点に則って著してほしかったというだけである。
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性的サディズムってのは治さないとイカンものなんだろうか。そういう行為を『リアル世界で』してはいけないってことを教えるのが先なんじゃないのか。
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風化させてはいけないんだよね。犯人だった少年は今、日常の生活の中に居るんだよね。矯正出来たのかな?って疑問を持つ事は良く無いんだろうけど・・・。考えさせられるね。
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『僕はパパを殺すことに決めた』で、大騒ぎになった草薙さん。彼女の本は、まだ彼女のことを何も知らなかった中学一年生の頃に、この酒鬼薔薇聖斗関連の本でもう読んだことがありました。今思えば、なるほどな、という感じです。いろいろとあちこちで批判されているジャーナリストらしく、この本は「少年A」にかなり突っ込んだ内容となっています。少年院での「少年A」の生活が、けっこう詳細に書かれています。この事件はあまりにも衝撃的で、当時小学生だったうちも、この事件だけはなかなか忘れることができず、ずっと気になってて・・。そして、この本は、そんなうちの「知りたい欲望」を、十分に満たしてくれた本でした。
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この本を読む限り、少年Aは更生したと思う。
がしかし、『更正したからなんだっていうんだ』っていうのが率直な感想。
犯罪の罪や被害者遺族の悲しみや苦しみ、憎しみは消えない!のはもちろんの事、殺された尊い幼い、限りない未来のある命は戻らない!
少年院や刑務所の維持費や人件費、新たな建設費を考えれば、犯罪を犯してからの更正や、犯罪者を逮捕する警察の力よりも、犯罪者も出さないようする、もしくは、犯罪を未然に防ぐ努力やシステムにもっと力や、お金を使うべきだとこの本を読んで思う。
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疑問が残る部分もあるけど、とても興味深かったです。
自分と少年Aが同じ年だということに軽い衝撃。
被害者の家族が少しでも安らかな時を過ごせるようにと、
この少年Aが真から更正し、今を一生懸命に生きてほしいこと・・・。
でも、あんなことをしてしまって、それを真から心で再度受け止めることができるようになった時・・・
人はまともに立っていられるのだろうか、生きていけるのだろうか・・考えただけでも恐ろしいと思う。
犯罪の恐ろしさ、心のゆがみの恐ろしさ・・いろいろ考えさせられました。
そしてとても怖くなりました。
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事件当時は7歳で、この年になるまで事件のことは知らなかったが、少年Aに興味を持ち、関連本を読み始めた。
この本を読んで、少年Aの事と、その後を知ることができ、幼少期に母親の愛情を受けることは大切だと、改めて学んだ。
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2010年に読んだ本の中で1番考えさせられた。人の歪みはみんなで助けてあげられる。この世の中でどれだけ他人の叫びに気づけるか。
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そっか。少年A、一個差だったんだ。
なんか中学生辺りん時、淳くんのニュースめちゃめちゃやってた記憶はある。
で、犯人が中学生ってのも覚えてるんだけど、なぜか犯人逮捕の報道の記憶はないんだな。
マスコミが色々うるさく喋ってて、むしろうざーって記憶はあるが。
そんでもって、結構そういうことを家族会議するかーちゃんが、この件に関してはあんまり喋らなかった気もする。
やっぱり母として、犯人母とオーバーラップしたんかな?
ノンフィクションだから評価のしようがないけど、読み物としてはよく出来てると思った。
ただ、少年Aの気持ちとか描かれてる部分、どこまでが本当(少年Aが自ら語った部分)と嘘(作者が行動から推測した部分)なのかがはっきりしないあたり、あまりテクニカルではないんでない?
それから少年Aの更生に、ポジティブな立場をとりつつ、最後に「加害者のプライバシーが守られすぎな日本の批判」を繰り出す辺り、姿勢が180度ひっくり返ってる気がするんですけど。
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神戸児童連続殺傷事件後を引き起こした少年Aの更生記録。少年Aの父母が書いた著書を読んだ後も疑問に感じていた「なぜ少年Aは殺人を行ったのか?」が、一部納得できた本であった。少年Aの生い立ちに加え、「性的サディズム」が犯行の最終的後押しになったようだ。そのメカニズムの解明は、少年Aを医療少年院で更生教育を行う経過で分かった結論である。しかも、更生教育により彼は自分が起こした事件の罪深さを実感するに至り、かつ退院後現在に至るまで再犯を犯していない。凶悪犯罪を引き起こした少年に対し厳罰を望む世論が強まっている。一方で、著書は更生教育を行うことで事件の真相が解明されたことを示している。罪を心から理解し、自覚し、背負い、今後社会で何十年も生きていくことは、死刑以上に苦しいことではないかとも感じる。少年Aの更正を支援するに当たっては、特別プロジェクトが組まれ、手厚い教育がなされた。スタッフ達の心の葛藤も想像を超えるものだったのではないか。私個人は、死刑の推進に賛成しない。もしも、少年Aに行われたような更生教育が行われるのであれば、犯罪を犯した少年が罪を自覚して生きることの方が重い罰に成り得ると思っている。ただ、著者がこの著書で記したような情報公開を、国が社会に向けて果たすことも必要だ。真相の情報公開があってこそ、社会の安心が補完されると考える。いつか裁判員になる時がくるかもしれない。人が人の死を決めて良いものか、死が最も重い罰に成り得るのか、死刑は凶悪犯罪の抑止に本当に成り得るのか、もっともっと国民も考えていかなければならない。少年Aが罪を背負い、人生を全うすることを願っている。
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少年Aを通して脳に関する本をいくつか読みました。今まで知らなかったことが、この本を通して見えてきた感じがします。
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神戸で起きた連続殺人事件。当時少年法の運営について賛否があったことをよく覚えている。
非日常を知るにはとても良い機会だった。
酒鬼薔薇聖斗の誕生から少年Aという人間への回帰には周囲の環境がいかに大きいか、周囲の人間の並々ならぬ努力が感じられた1冊。
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友人と凶悪犯罪を犯した犯罪の背景について議論したことがきっかけで手に取った本。神戸の酒鬼薔薇事件を犯した少年Aの、事件を犯してから少年院に入り、保護観察を終えるまでの矯正の記録が描かれている。
本書を読むまで、私は少年Aの犯した神戸での事件について、事件の表面的な部分しか知らなかった。凶悪犯罪の背景に、親と子の関係性(本書では、少年Aが母親からの愛情を十分に受け取ることができなかったこと)があったことを考えると、少年凶悪犯罪が単に人ごととは思えず、子の育ち方次第で誰にでも起こりうることなのだと思う。そういう意味で、犯罪の背景を掘り下げて理解することは、自分にとっても社会にとっても、同様の事件を起こさせないために重要なことと考える。
このような犯罪を犯した子どもに矯正の機会を与えるかどうかについては、被害者の心情を考えると、否定的な意見もあると思う。確かに自分が被害者の関係者であれば、肯定的に考えることはできないだろう。ただ、第3者として館がる際、加害者の矯正をするということは、加害者のためでもなく、社会のためでもあると考える。なぜなら、矯正のプロセスから、犯罪の背景を掘り下げて理解することもでき、それが今後の犯罪の根源を発つことにつながると考えるからだ。本書は、どんなに凶悪な犯罪を犯した子どもでも、矯正が可能である(完ぺきに矯正されるかまでは、誰にもわからないが)ということを伝えているし、また、それを可能にするには、社会の許容が重要であることも伝えている。
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あの少年Aが医療少年院を経てどう更生しますかお立会い。
そういうセンセーショナルな内容であるし、アタシも俗物なので、そのへんに惹かれて読むわけです。そも、医療少年院での「矯正」とはなにをするのか。
で、有り体に申せば、「諸処の事情で普通の人間と違って精神的に育たなかった部分があるから、もう一回その部分だけ育てなおそう」となる。こうやってみるとやっていることは「正しく矯める」のではなくて、発育不良の部分を暖かく伸ばしてやろう、みたいな。
で、事件から2,500日、少年Aは手に職をつけて仮出所となります。世間に出してしまって、こやつ大丈夫なのか。本文を読む限り大丈夫そうではあります。
が、しかし、ただしかし。最終章がすごかった。
被害者の、殺された3人の家族は、まだ何も片付いてないのです。
日本の精神医療すげー! の反面、喪失から先の歴史はひとつもないのだ。
おそらく書き手も、自分の取り扱っているもののセンセーショナルさと危険性をよくわかっていらしたと思います。それゆえの配慮の行き届いた、緻密な仕事、でした。
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本書を読む限り矯正は効果があったようで評価したく、今後も見守りたい。だが依然としてこのような事件を防ぐ策は難しいし、誰もが彼のような特別な矯正を受ける訳ではない。悩み続けよう。