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商品説明
プロ野球投手として活躍していた倉沢修介は、試合中の死球事故が原因で現役を引退した。その後、雑用専門の便利屋を始めた倉沢だが、その業務の一環として「付き添い屋」の仕事を立ち上げることになる。そんな倉沢のもとに、ひとりの人妻が訪れる。それは「今週の水曜、私の息子がサッカーの観戦をするので、それに付き添ってほしい」という依頼だった。不可思議な内容に首を傾げながらも、少年に付き添うことになる倉沢。その仕事が終わるや、またも彼女から「来週の水曜もお願いします」という電話が入る。不審に思った倉沢は…。情感豊かな筆致で綴りあげた、ハートウォーミング・ミステリ。第25回横溝正史ミステリ大賞受賞第一作。【「BOOK」データベースの商品解説】
プロ野球投手として活躍していた倉沢は、試合中の死球事故が原因で現役を引退。その後、「付き添い屋」の仕事を立ち上げる。彼のもとには奇妙な依頼をする客が次々と訪れてきて…。情感豊かなハートウォーミング・ミステリ。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
伊岡 瞬
- 略歴
- 〈伊岡瞬〉1960年東京都生まれ。日本大学法学部卒業。広告会社勤務。「いつか、虹の向こうへ」で横溝正史ミステリ大賞・テレビ東京賞をW受賞し作家デビュー。
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紙の本
145gどころじゃない感動
2007/07/14 16:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはミステリーだ。なんてったって横溝ミステリ大賞受賞第一作だ。
しかし面白いのは「本当の謎=ミステリ」は最終章になってようやく姿を現す。謎ですらなかった隠された事実が主人公である彼が真に乗り越えなければならなかった壁であり、試練であり、まず認めなければならない現実だ。
主人公=倉沢はかつて有能なプロ野球投手であったが、試合中彼の放ったそのたった145gの硬球がバッター真佐夫と自分自身のピッチャー生命とを同時に奪う死球となった。
社会復帰として真佐夫の妹・晴香を加え3人で始めた便利屋だが「付き添い屋」としての仕事依頼が評判?となる。
なぜか毎週水曜日にサッカー観戦へと息子を連れ出して欲しいという未亡人。 義弟の浮気相手である外国人ソープ嬢・ウィルマをフィリピンに帰すため、成田まで見届けて欲しいという元野球知人・村越。 荷物の整理を手伝って欲しいという70代の老女の依頼、しかし泊り込むことが条件。
どれも奇妙な依頼であり、気がつくと彼の元に舞い込む依頼主達には「死」が直前まで迫っていた人間ばかりだ。そして最後の依頼もまた彼の上司・戸田と「娘」とが繰り広げる血肉の憎しみを漂わせたドライブの「付き添い屋」・・・倉沢はそれでも首を突っ込んでは彼らを救っていく、自分のことは棚に上げて、いや、棚に上げていることすらも気付かずに。
まず真っ先に思いついたのは三浦しをん『まほろば駅前~』ととても似ている展開だということ。便利屋を始めた主人公が依頼主との出会いの中でいらぬおせっかいにまで首を回し、涙あり笑いありの解決をみるという数篇の物語。
ただ違うのは、彼自身が大きなミステリを抱えているということ。その事実すら無視して物語は後半まで突き進む。
各章、短編ミステリーとして十分楽しめるのだが、やはりこの最大のミステリの解決…すなわち彼の過去への決別と現実の直視と未来への再出発が山場だ。
中途半端な希望と、不安と、期待への息苦しさで震えていた左手が、とうとう機能しなくなった時に彼は初めてそのすべてから解放される。解放、しかしそれは同時に失うということ。たった145gのあの硬球が真佐夫のこめかみを撃ったときから彼の選手生命は絶たれ、その後に起きた惨劇に目を瞑り、すべての救いの手を拒絶し、たった145gの「それ」だけを握り続けてしまった倉橋。手を失って初めて彼は気がつくのだ。こんなにも後生大事に希望と失意のつまった145gの「それ」を握り続けていたことを。
大きなモノを失い、失ったことに目をそむけ、それでも自分がしがみついていることすら自覚できずにいる一人の男。その彼がようやく失ったものを認め執着を手放し再生するまでの物語だ。
ハートウォーミングなミステリー、ととある紹介に載っていたが、ハートウォーミング?とんでもない。walm=暖かいどころかcoldからようやく溶けかかっていくまでの痛々しくすらある人生の再生を描いた物語である。