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戦争と平和 5 (岩波文庫)
敵軍侵攻!大火のモスクワを一家で引揚げるナターシャは重傷のアンドレイと再会し、赦しを乞い、死の日まで付添う。ナポレオン暗殺を誓って変装し町をさ迷うピエールは逆に放火の嫌疑...
戦争と平和 5 (岩波文庫)
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商品説明
敵軍侵攻!大火のモスクワを一家で引揚げるナターシャは重傷のアンドレイと再会し、赦しを乞い、死の日まで付添う。ナポレオン暗殺を誓って変装し町をさ迷うピエールは逆に放火の嫌疑で逮捕され、フランス軍の捕虜隊で一人の年老いた農民プラトンと出会う。新訳。【「BOOK」データベースの商品解説】
敵軍,モスクワ侵攻! 退去勧告のビラが撒かれる。引揚げるナターシャは重傷のアンドレイと再会し、ゆるしを乞い、死の日まで付添う。一方、ナポレオン暗殺を誓い大火の首都をさまようピエールは、放火の嫌疑でフランス軍の捕虜となり農民プラトンと出会う。その邂逅にロシア的生命の光を垣間見るのだが・・・ 新訳(全六冊)【商品解説】
目次
- 第 三 部(続き)
- 第 三 篇
- コラム30 アレクサンドル一世
- コラム31 馬車と橇
- コラム32 モスクワのパノラマ
- 第 四 部
- 第 一 篇
- コラム33 モスクワ大火
- 第 二 篇
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歴史を動かしているのは誰か。著者の論も明確になってくる。
2006/09/11 11:41
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナポレオン戦争を描いたトルストイの不朽の大作の新訳、第五巻は第三部の3篇、第四部の1,2篇と原著の三、四部にまたがっているが、モスクワにフランス軍が侵攻し撤退を始めるまでの部分がこの巻に収められている。
第三部の冒頭あたりから顔をのぞかせてきた著者の「歴史論」は、著者自身も書き進むうちに考えがまとまっていったのではないだろうか、徐々に主張が明確に、読者にもわかりやすい書かれ方になってくる。住民がいなくなったモスクワの街はなぜ大火に見舞われてしまったのか。フランス軍はなぜ豊かなモスクワの街をこんなにもはやく荒廃させ、撤退を決めてしまったのか。「自分の街として管理し住む人がいなくなれば、小さな火も見逃されてしまう」「人の気のない豊かな街に疲れた兵隊が入れば、兵隊は砂に水がしみこむように広がってしまう」など、トルストイは「歴史は特定の人物が動かすものではなく、たくさんの小さな動きの総和で動かされている」という自論でその理由を説明していく。モスクワを撤退したロシア軍がまっすぐ東やペテルブルグに向ったりせず、南西の方向に向ったのも、兵士たちの豊かな方へ逃げたい思いがあったからだ、というのである。
戦争の動向、歴史への意見が明確に書かれ始めると、個別的な人間模様の部分、特に男女の恋の模様ははかない、時には愚かで時には哀れなものにみえてくる。その中では、これまでどちらかというと迷いの多い人物として描かれていたピエールが、モスクワの大火の中で捕虜となり、不自由な環境の中でかえって活き活きとした性格になっていくあたりが、著者の描く望ましい生き方を示すものとして力強く描かれている。不自由であるからこそ、それしかできることのないことをこなしていくことが、かえって悩みがなく、心の自由を与えるのだ、というのがこの作品の中での著者の主張の一つであろうか。
しかし、ピエールがここでであったプラトンのような「誰をも愛し、誰がいなくなっても悲しまない」生き方を誰もが望むだろうか。(私的にはそんな愛され方ではさみしい気がする。せめて一人二人でもいい、いなくなれば悲しむ人が欲しいと思うのだが。)その対極にあるのがナターシャであろう。彼女は感情の赴くまま、避難の荷造りを嫌がっていたと思うと熱心に自ら参加し、自分の心の弱さから婚約破棄したアンドレイに再会すれば、献身的にその死までを見取る。作者はこのどちらをも「あるがままの生き方」として肯定的に描いているように思える。若い頃に読んだときには、どちらの純粋さも著者同様に好ましく感じた記憶があるのだが、今は前者は余りにも「達観」、後者は余りにも「勝手」とも感じてしまう。読み手の年齢・経験で、評価はやはり変わってくるのだろう。書き手トルストイも、晩年は少し違う観点を持っていたかもしれない。
新訳、改版の大きな特徴になっているコラム、図面の挿入はこの巻にもある。当時の馬車と橇を図入りで紹介したコラム、「トルストイと老子」のコラムは物語の周辺を理解するのに役立った。モスクワの市街図、フランス軍撤退経路図(タルチノ戦図)は、あるのでついつい本文中の地名などを対照させてしまうのだが、市街図は長い地名が見づらくしていて要所がわかりづらい。タルチノ戦図は地名と将軍の名前が区別しにくかったり、この巻ではでてこないパルチザンの動きが書かれているなど、役に立ちそうで立たなかった。
物語は次の第6巻で終わる。「あの戦争はなんだったのか。」「歴史とはどうつくられていくのか」。トルストイはどのように締めくくってくれるのだろうか。