紙の本
大化改新を新しい視点から解明しようとする試み
2006/07/08 18:05
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
大化改新(乙巳の変)は、これまで日本古代史上の画期をなす出来事とされて来た。教科書などの記述によると、蘇我入鹿の専横に危機感を募らせた中大兄皇子一派が、645年に入鹿を大極殿で行われた儀式の場で暗殺し、その余勢を駆って「公地公民制」などの一連の中央集権的な改革を成し遂げたということになっている。ところが、最近、古代史研究者から、大化改新を巡って見直しが進められている。そうした動きには、大きく二つの流れがあるようで、一つは一連の改革自体を否定し、クーデターのみが実際に行われたとする立場である。この見解に従えば、改新で行われたとされる中央集権的な施策は、後代に行われた律令的な施策を基にして脚色されたものであるということになる。もう一つは、クーデター自体に焦点を合わせる立場で、この政変劇の主役を中大兄皇子とする通説に疑いの目を向けている。
本書は、後者の見解に立っており、一連の改革よりもクーデターの真の首謀者を解明することに主眼が置かれている。
著者は、まず、大化改新の幾つかの根本的な疑問点を挙げて通説の見直しを迫っている。例えば、そもそも蘇我入鹿は何故儀式の場で暗殺されなくてはならなかったのか、時の皇極女帝は何故政変後に退位することになったのか、最大の功労者である中大兄皇子は即位せずに何故叔父の軽皇子が孝徳天皇として即位することになったのかなど。さらに、著者は、この政変の主役を中大兄皇子と藤原鎌足とすることで生じる不可解な点を挙げて、真のプランナーは別の人物であると結論している。
尤も、著者が本書の中で挙げている真の主役については、夙に別の歴史学者が指摘しているが、著者は、大化改新のはるか前に起った出来事から始めて、この政変にいたる大きな流れを精妙に辿り、根本史料である日本書紀の記述の矛盾点を徹底的に洗い流して結論を導き出している。その道筋は、実に瞠目すべきものであり、長年この政変劇の数々の疑問点に解明の道を拓くものとなっている。
ただ、これは明確に指摘しておかなくてはならないことであるが、当時の記録が「日本書紀」や「藤氏家伝」など極めて限られており、古代を論じる際にはどうしても史料の欠落部分や書き落とした箇所を推論で補わざるを得ないという危うさがあることである。勿論、そこには歴史学的な考察や厳密な史料批判が求められるが、従来とは一歩踏み込んで新たな歴史像を打ちたてようとすると、従来にも増して推論に頼るところが多くなり、ここに古代史を解明するうえでの難しさがある。本書でもそれは特に言えることで、この辺りが本書の評価の別れ目となると思われる。
本書についての私見を述べれば、著者の斬新な大化改新の像を打ちたてようとする姿勢は評価できるものの、この政変劇に中大兄皇子と藤原鎌足は全く無関係で、それは日本書紀が作り出した産物に過ぎないとしているところはにわかには賛同しがたい。さらに、中大兄皇子、後に即位して天智天皇が後世伝えられるような冷酷な君主でなく、敗者にも暖かい目を注ぐ人間味のある人物であったとする見解もそれほど説得性があるようには思われない。
本書の斬新な考察には目を見開かれる思いがするが、同時に新しい歴史像を提示することの難しさを痛感させられたことも偽らざるところである。
紙の本
偽りの大化の改新
2016/11/28 07:27
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投稿者:dzoe - この投稿者のレビュー一覧を見る
小学校以来、歴史の教科書・授業で習ってきた大化の改新。中大兄皇子と中臣鎌足による蘇我氏暗殺のクーデター。果たして黒幕は中大兄皇子だったのか?
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大化改新の首謀者は中大兄皇子では無かった?推論にすぎないもののいちいち腑に落ちてしまう。これぞ歴史ミステリー
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私は大化らへんの歴史が一番好きです。有間皇子が一番好きで、天智もおなじくらい好きだからです。
なんというか、天智ははちゃめちゃっぷりが好きなのです。
でもこの本ではその破天荒な部分を削ぎ落としていく意図があり、寧ろ弟の天武に問題を帰結させる展開を見せました。
やーおもしろかったー。
でもいろいろ疑問に残るところはありますけどね。たとえば間人皇女とのこととか。
うーん、大好き!
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中大兄皇子は蘇我入鹿を天皇の御前で殺害。
つっこまれてはじめて、この文章の不自然さに気づいた。もしこの文章が史実に近いものだとすれば、日本の古代は相当にスリリングな時代である。天智天皇と天武天皇では、どうしても前者の人気が高いが、わたしは「天武天皇あっぱれ」と賞賛さえしたい気分になった。
少し冷めて、歴史とはいやがおうにも恣意的な視点が混じるものと再確認させられたのも事実。これは現在にもつながる議論である。
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日本書紀の疑問点を中大兄皇子に絞って推考している本。この著者の考え方がすべて正しいわけではないでしょうが、いろいろ腑に落ちなかった点にひとつの答えをもらった感じです。日本書紀アヤシイもんね・・・。真正面から真面目に取り組んでるので、とても面白い。
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飛鳥・奈良時代が好きで気になって読んでみた。
読みやすくて面白かった。
日本書紀の虚飾、大化改新の姿。
中学高校時代に教科書で習ったのは一体何だったのか!
この時代の歴史が好きな人は読むとびっくりすることだらけ。
良書。
2007年12月24日読了
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大化の改新についての研究です。
日本書紀を疑う姿勢を見せ続けています。
この本が上手いなと思ったのはその並べ方。
最初に日本書紀は「天武帝が書かせたものだから、天智帝を批判する」とは書かずに単純な矛盾点を拾い上げ、
充分に読者がおかしいなと納得がいった最終版で天武帝の存在を出しています。
大化の改新が東アジアで起こっていたクーデターの一貫であり、なおかつ当時の政権の外交上の対立であるというのはすでに通説になりつつあります。今後は細かい部分を掘り下げていく必要があります。
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日本の歴史をひも解いて、本当の意味で大きな転機を三つあげろと言われれば、私は、迷わず、「大化の改新」、「明治維新」、「先の大戦の敗戦」をあげる。
その他、聖徳太子による治世、特に、隋の煬帝に送ったあの有名な親書「日出づる処の天子」により、日本という国が、初めて、明確に政治的な意図をもって外交に乗り出していったこと。さらには、信長による、これまでの戦闘のあり方そのものを、劇的に変えてしまう兵農分離という発想によって、その後の、本当の意味での武士の時代を開いていったこと。もしくは、鎌倉幕府による、曲がりなりにも、貴族から武士への主役交代。はたまた、日本にとって、ほとんど最初で最後の長期に渡る内戦である応仁の乱等々。
いずれも大きな転機ではあるが、やはり、冒頭の大転換期にその止めを刺すのではないか。
そんな、鼻息の荒さに、冷や水を浴びせかけるのが、この1,000円にも満たない新書版である。
そもそも、皇太子中大兄皇子が中臣鎌足という腹心を得て、時の権力者蘇我氏を、やはり、時の天皇の目の前で殺戮するということ。そこまでのリスクを犯して、クーデターを成しながら、自らは、すぐに天皇に即位しないということ。また、それだけの功労者(なにしろ、大化の『改新』と言われるくらいだから)でありながら、後継者擁立、指名にはなんら影響力を及ぼすことがなかった(なにしろ、自らの死後、壬申の乱という、いわゆる骨肉の争いを起こさしめているくらいだから)ということ。中臣鎌足とは何者なのか。
だれでも、ちょっと冷静に考えれば、普通じゃないわな。でも、そこが教育の恐ろしいところ。そうなんだと教科書に書いてあり、そうなんだと教えられると、そうなんだと思い込み、そうなんだと一点の疑いも持たないようになってしまう。
でも、ちょっと指摘を受けると、さらさらと、上記のような疑問点も出てくる。
この著書。決して、新説の披露でもなんでもないが、できるだけ論理の飛躍にならないよう、推測もできるだけ慎重にしながら、論を進めていく。
つまり、この「大化の改新」なるものは、中大兄皇子が「改新」なるものを念頭において行ったものではなく、皇位継承をめぐる、単なるクーデターに過ぎない。結果として、そのターゲットになったのが、当時最大の政治勢力を握っていた蘇我氏であり、蘇我氏滅亡の結果、朝廷(天皇)親政の国家が成立するきっかけになった、というものである。
私が、上記した疑問点を著者は丁寧に説明していってくれる。
「日本書紀」が編纂される、その時期や、目的なども慎重に検討しながらの論。
後日、もう一度、この著書は取り上げたい。
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〈内容〉天智天皇は蘇我入鹿殺害に関わっていない!クーデター後、権力掌握のため邪魔者を次々に謀殺した冷血漢とする日本書紀の天智天皇像を疑い、数々の事件の謎を解きながら大化の改新の実像に迫る興奮の一冊!
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[ 内容 ]
中大兄王子は蘇我入鹿を殺していない。
日本書紀が歪めた真実に迫る。
[ 目次 ]
序章 天智との出会い
第1章 大化改新前夜(疑問だらけの「乙巳の変」;『日本書紀』を疑え ほか)
第2章 作られた「大化改新」(乙巳の変の名場面;三韓進調は虚構だったか ほか)
第3章 陰謀家・孝徳の素顔(虚構だった中大兄「皇太子」;古人大兄王子の末路 ほか)
第4章 虚構の中大兄王子(つくられた中大兄像;孝徳置き去り事件 ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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えぇ〜っ!! である。小学校からずっと当たり前のように教えられてきた中大兄王子と中臣鎌足が決行した“大化の改新(この有名な呼び方も最近の学説では乙巳の変というらしい)”。このクーデターの中心にいたのが実は中大兄王子でも鎌足でもなかったなんて…んんむ それが事実なら教科書書き換えねばならないぞ。歴史はその時代の実力者によって都合の良いように書き換えられてきたわけで、何が真実で何が偽りか それは藪の中なのだけれど。そして色んな資料の解釈によっても色々と変わってくるわけなのだけれど。それゆえ 歴史は面白いのだなぁ。
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歴史解釈は、おもろい。先日読んだ本と、対極にある内容。中大兄皇子は、なにもしていない。孝徳天皇(軽皇子)が黒幕だ。
考察のスタートは同じく『勝利者による歴史書』。日本書紀を誰が作成したか。の解釈の違いが内容を分けている。この著者によると天武天皇らしい。
日本書紀を作成した人がわからないとは、、、、調べてみると面白い。
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小学校の社会の宿題で、「歴史新聞」とでもいうものを作ったのです。
歴史上の事件をテーマに、「新聞」を作るわけです。
自分は、「大化の改新」をテーマにしたのです。
時は西暦645年。(「悪い入鹿を蒸し殺す」と覚えた。)
舞台は飛鳥板蓋宮(いたぶきのみや)。
朝鮮半島からの使者を迎える儀式の場で、皇極天皇の目の前で、中大兄皇子(皇極の息子。後の天智天皇)が、当時の最高実力者である蘇我入鹿を殺害。その知らせを聞いた蘇我蝦夷(入鹿の父親)は自殺。これにより蘇我宗家は滅亡し、中大兄皇子と中臣鎌足を中心に、「公地公民」などの新たな政治が始まったわけです。
確か、自分の「新聞」では、「蘇我氏、滅亡!」といった感じの見出しを書いて、蝦夷の焼死体の絵を書いて(要は白骨を書いたのだ。)、「中大兄皇子インタビュー」という感じの見出しの下に、「そのうち天皇になろうと思います。」みたいなことを書いたのでした。
先生からは、「なかなか面白い。」みたいなことを言われたんじゃなかったかなあ。
それ以来、大化の改新のことは、気になっていたのです。
しかし、話は意外に面倒であることがだんだんわかってきた。
高校の時に、中央公論版の「日本の歴史」を読破したのだけれど、その中で、中大兄皇子がなかなか即位できなかった事情を知ったのです(あまりな内容なので、ここには書けません。)。
その後、中公新書「大化改新」(遠山美都雄)では、傀儡と思われていた孝徳天皇(政変当時は「軽皇子」)こそが、クーデターの首謀者であったという説を知ったのです。
それはかなりの衝撃だったのでした。
そして、今回、さらに事件の真相に迫ろうとする本に接したのです。
本書では、常識的な大化の改新(というか、「乙巳の変」)理解では、いくつもの、あまりに不自然な点があることを真正面からとらえている。その点に好感を持てる。
なぜ、中大兄皇子自らが入鹿殺害に関与したのか?
なぜ、中大兄皇子はクーデター後直ちに即位しなかったのか?(中公「日本の歴史」には、中大兄のアンモラルな側面が書かれているが、それだけで納得できるかどうか。)
などなど。
これらの問題に対して、ある回答を示していて、その結論部分は上記の遠山説と共通している。
「大化改新は中大兄皇子と中臣鎌足が起こしました。」という素朴な説明は、もはや成り立たなくなっている、ということなのだろうか。
そして、日本書紀がどうしてあのような書き方をしているのか?という点について、鋭く迫っている。
梅原猛の作品で、「古事記」が持統天皇のための書であることを学んだのだけれど、本作品で、「日本書紀」の正体を知ることができたのだった。
さて。
本書を読むと、「なるほど。」という気にはなる。
問題は、本書が主張する内容が、果たしてまっとうなものなのかどうかという点。
なにせ、こちらは学者ではなく、何が通説で、何が有力な新説で、何がトンでも説なのかがわからないのだ。
学術書ではないのだから、論証の根拠がきちんと示されていないのはやむを得ない。(��んなもの、書いてあっても、素人にはわからない(笑)。)
とは言え、史料の断片からの憶測が示され、さらにその憶測を前提としたさらなる憶測が積み重ねられ、その、何重にも重なった憶測の上に立った「論証」が本書の太宗を占めているわけで、それで信じろと言われるのも辛いものがある。
素人には、単なる妄想と区別が付かないのだ。
これって、どの程度確かな説なの?
これまで言われてきたことと、どっちがトンでもなの?