紙の本
今、何を考えるべきか
2007/06/16 04:42
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争の隠された恐ろしさのひとつは、人間から想像力を奪い去ることにある。
人間の生の尊厳さは、あらためて述べるまでもない。一人の人間の死が、どれほどの悲しみや苦しみを産み出すことか。かけがえの無い人を失った経験を持つ誰もが実感として知っている。
そして一人の人間の死が、その背後に控えるどれだけ多くの人々の人生に影響を与えることか、計り知れない。
戦争で敵を打つ、斬る、爆弾を発射するボタンを押す、その瞬間に兵士は人間の生の尊厳さを一瞬たりとも頭に思い描くことができるであろうか。今まさに自分の手により殺されようとしている相手の背後に、彼をかけがえなく思う多くの人たちが存在することを想像ずることができるであろうか。
戦場とは地獄である。ほんの一瞬の間に、自分の回りで何十人、何百人という数の人間が死んでいく。敵を殺さなければ、自分がやられる。生と死が隣り合わせのこの極限状態の中で、もともと人間に理性を求めることの方が無理なのだ。
政治家さんや学者さんやジャーナリストさんがわけしり顔に言う。どこの国が攻めてきても守れるような軍備を持たないといけない。攻められる前に他の国をたたくことも必要だ。などと。
それは違う。全く違う。戦争が起こってしまってからでは遅いのだ。勝ち負けじゃない。戦争がいったん始まってしまったら、敵味方両方で多くの人が死んでいく。そしてその背後には死を累乗した数の悲しみや苦しみが産みだされる。戦争にいかに勝つかを議論してもしょうがないんだ。そうではなく、戦争をいかに起こさないかを議論しなくちゃいけないんだ。それがわかってない人がどうも多すぎる。
今はまだかろうじてわが国は戦争状態にはない。今ならまだ、人間の生の尊厳さと死によって産まれる無数の悲しみや苦しみを想像することができる。それを考えた時、日本という国の進むべき方向は、すでにはっきりしているではないか。
紙の本
死をリアルに感じさせる文章がたくさんだ。戦争!それにしても、とんだことをしてくれたものだ。
2007/02/27 22:18
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うすかげよういちろう - この投稿者のレビュー一覧を見る
すごい本。
人が死ぬということを中心にして書かれた戦争の記述。
死ぬ死ぬ死ぬ。人がゴミのように扱われ、死ぬ。
大量にいっぺんに死ぬ。いろんな死に方でいっぺんに死ぬ。
そのいろんな死に方も書かれている。
死をリアルに感じさせる文章がたくさんだ。
人の心がすさんでしまうこと。
敵が死ぬと、喝采を叫び、大喜びする。
事実を連ねた文章に、驚愕する。鳥肌が立つ。悲しくなる。
人間の残虐さ、狂気におそれる。
読んでいて気分が悪くなるほど、吐き気がするほど、戦争のひどさがリアルに書かれている。
気分が悪くなるのは、本が悪いのではない、戦争がひどいのだ。
戦争になると、こうなってしまうのだ。
まったく、こんなにもして、人を殺したいのか。誰かに向かって怒りたくなる。
一番安価、安いのが人の命だという、戦時中の考え方。
若者に未来がないこと、戦争で死ぬことは決まっていて、どう死ぬか、どこで死ぬかが問題だったという考え方。
それにしても、とんだことをしてくれたものだ。
と、いうか、こういうことはやったらいけない。
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人は経験したことのないことは想像できない。過去にあった戦争は人の記憶から徐々に消え去っていく。だから戦争で死ぬということが一体どういうことかわからない。しかも近代戦争は、軍隊と軍隊の戦いではなく、女子供を容赦なく巻き込んでいく。抽象的な「戦争」ではなく、目をそむけたくなるような戦争の現実に目を向ける必要がある。
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Amazon.comでも高評価なレビューが多いのですが、わたくしもこの本は強くおすすめしたい一冊です。著者のスタンス(戦争をもう知らない大人の世代が若い世代にむけて戦争をどう語るべきなのか)も共感できますし、個々の内容も主観を偏向的に投じないでルポを淡々と叙述させるスタイルも成功していると思います。個人的には、“日本でウランを採掘していた人々”の話が特に印象に残っています。
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戦争の現実要約版といった感じ.
かなりの量の戦争記録を土台にしていて広範な事実をもとに戦争の死を淡々と語っている点が評価できる.普段は紐解きもしない戦争記録を高校生でもわかりやすくなるように書いている印象を受けた.憎しみをテコにして相手のことを考えずに殺すことがどれほど危険で怖いことかと考えさせられる.
安倍晋三が自民党総裁になり,教育基本法改革やら憲法改正だかを推し進めようとしているが,この本に書かれた現実を踏まえて言っているのか甚だ疑問である.この本を読めば正気な人間は「戦争は絶対いけない」という結論を持つにいたるはずだ.私はこれを読んで「自衛戦争ですら肯定できないのではないか?」と考え込んでしまった.思えば60年余り前のあの戦争も,元々は独立自衛を謳って始まったものだったのだから.
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戦争とは。
無慈悲で残酷で。
いかなる許容も許さない。
だからこそ、「名誉の戦死」を与えると、連呼するのだろうかとか思ってしまいました。
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戦争で死者何万人とか報道されるが、非常時の死にたいする感覚ってどういうものだろう、もしかして若干麻痺してくるのかなって思ってた。
しかし本書を読むとそれは明らかに間違いで、数万の死には同じ数だけの苦しみそれ以上の悲しみがあることが分かる。
作者は私と同じ戦後生まれ。リアルに戦争を知らない世代。
故に戦争経験者に丁寧にインタビューを行って、少しでも戦争の悲惨さを伝えようとしている。
そしてインタビューされている方皆さんが、今の社会は戦争直前の時勢に似てきていると警鐘している。
この人たちの言葉を真摯にうけとめないと。
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この本をよんで涙がでました。戦争のときのことがとても詳しく書いてありました。人を簡単に殺してしまう戦争。私は本当に許せません。戦争をすれば、何か解決できるのか?そう考えると1つもいいことがないと思います。戦争は今後絶対にやってはいけないと思います。日本は今もこれからもずっと平和でいられるように、こころから願っています。
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100316 by 布川先生 on 立平機関誌
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戦争はリアルに語られているだろうか?「大量殺人」の実態と、そこから必然的に生み出される「人間の感情」が見失われてはいないか?自らも戦後生まれである著者が、自らの感性だけを羅針盤として文献と証言の海を泳ぎ、若い読者にも通じる言葉で「戦争」の本質を伝えるノンフィクション。未来をひらく鍵がここにある。
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第1章 大阪大空襲―戦争の実体からの出発
第2章 伏龍特攻隊―少年たちの消耗大作戦
第3章 戦時のメディア―憎しみの増幅マシーン
第4章 フィリピンの土―非情の記憶が伝えるもの
第5章 殺人テクノロジー―レースの果てとしてのヒロシマ
第6章 おんなと愛国―死のリアリズムが隠されるとき
第7章 戦争と労働―生きる権利の見えない衝突
第8章 九月のいのち―同時多発テロ、悲しみから明日へ
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100405
戦争で死ぬ、ということをいろいろな角度から見た本。
戦争をする人たちは、戦争で死ぬ、ということを考えるのだろうか?少なくとも他人が死ぬということを考えることはあまりないのではないか?
自分が死ぬ。誰かを殺す。仲間が殺される。
そうまでして得たいものは何だろう?
あるいは、そうまでしないと得られないものなどあるのだろうか?
そして、そうまでして得る必要はあるのだろうか?
でも、巧妙に、そんな事はわずかも考えさせず、人々を駆り立てる力は確かにあったのだろう。
平和、戦争放棄、そんなフレーズが人口に膾炙されつつある現代でも戦争で死ぬ日本人はいる。
911の犠牲者もまた、戦死者なのだ。
日本はどこに向かって進んでいるのだろうか?
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教員として平和教育の取り組みに行き詰まったときに、
この本を読めば、何を平和教育で伝えていけばよいのか、
そのことについて考える一助となるのが間違いない本であると思う。
この本を読んで率直に思ったことは、
戦争の現実を目の当たりにしていないのに、
戦争の現実を伝え「戦争はいけません」と安易に結論づける方法は、
何と愚かな教育手法なんだと痛感させられたことである。
戦争を目の当たりにした人たちは、戦争の現実を切実に語ることが、
その人に課せられた使命であると思う。
では、戦争を目の当たりにしていない私たちがなすべき使命は、
いかにして二度と戦争を起こさない世の中にしていくのか、
その展望を子どもたちに身をもって示すことではないかと強く思う。
身をもって示すとは…?
例えば、本書でも少し触れられていたが、
教員ならば教職員組合に所属していることも、
身をもって示すことの1つになるのではないかと。
(詳しくはまた日記でも書けたらと思っているが、
この本(第3章・第7章)を読んでくれれば、大まかなところは感じ取れると思う)
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戦争は戦後生まれにとっては小説と同様に現実感の薄いことである。単に死を目の当たりにすることさえめったに無い人間に戦争での死を理解せよということは難しい。常に世界のどこかで戦争が行われているとしても。だからこそ、戦争の記憶を戦争を知らない世代に継承して行く事は重要である。戦争に正義も何も無いのだと。そしてその中で死んだ人々とそれを目の当たりにした人の記憶を伝えなければならない。そのためには、じかに話を聞くこと以上にそれを伝える手段として適するものは無い。自分では経験できないことを人を通して経験することができる。戦争の記憶は忘れられていく事で痛みは和らぎ社会の発展を促すかもしれないが、戦争を繰り返さないため決して忘れてはならない記憶でもあるのだ。
30年後、おそらく戦争体験者は日本にはいなくなるだろう。そのとき日本は戦争をせずにいられるか?不安になった。
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[ 内容 ]
戦争はリアルに語られているだろうか?
「大量殺人」の実態と、そこから必然的に生み出される「人間の感情」が見失われてはいないか?
自らも戦後生まれである著者が、自らの感性だけを羅針盤として文献と証言の海を泳ぎ、若い読者にも通じる言葉で「戦争」の本質を伝えるノンフィクション。
未来をひらく鍵がここにある。
[ 目次 ]
第1章 大阪大空襲―戦争の実体からの出発
第2章 伏龍特攻隊―少年たちの消耗大作戦
第3章 戦時のメディア―憎しみの増幅マシーン
第4章 フィリピンの土―非情の記憶が伝えるもの
第5章 殺人テクノロジー―レースの果てとしてのヒロシマ
第6章 おんなと愛国―死のリアリズムが隠されるとき
第7章 戦争と労働―生きる権利の見えない衝突
第8章 九月のいのち―同時多発テロ、悲しみから明日へ
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[ 参考となる書評 ]
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戦争で死ぬとはどういうことか。入門書としては最適だと思う。第二次世界大戦に行った人の証言や広島の被爆者の証言(肉を焼く匂いのことなど)、毒ガス工場で働いていた人へのインタビューもあり、感情に訴えるものがあった。私が毎日電車で上をまたいでいる川に死体がたくさん流れていたのかとしみじみ思った。私が特に興味を持ったのは、女性の証言や女性の戦争との関わりであり、戦争中の女性はチアリーダーと守るべきものの両面を備えていたということで、もちろん、自分も戦いたいといった人もいたようだがなんだかなーと思った。現代の女性兵士の問題と合わせて考えてみたい。死は鴻毛より軽しとは恐ろしい。人間一人の命は地球よりも重い。というのも、重すぎる気もするが。人間を特別扱いするという意味で。ただ、戦争や戦場の狂気に近い高揚感みたいなものも伝わってきて、状況がどんどんその方向に向かっていくと、空気の中に高揚が混じってきて、人間は戦争する方向に向かっていくのではないかとすら思えた。いま、日本は戦争しようとしている(ように私には思える)けれど、決断を下す人は自分が戦場に行くことを考えていないし、大事な人が死ぬことも考えていないし、敵も自分と同じように大事な人がいることも考えていない気がする。怪我をしたり身体を欠損したり、後遺症が残ることも考えていない。痛いのもつらいのも悲しいのも怖いのも、何人であろうと嫌いなはずだと私は思うのだが。生きていればいずれ死ぬのに、なぜ死期を早めるのだろう。戦争で得る利益も、死んだら終わりなのに。ある意味で、戦争をしないために戦争をやめたのではなかったのだろうか。
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戦争を知らない世代に向けて書かれた本で色々なことを感じた。一番大きかったのは自分が戦争を知らないことを知ったこと。兵器によって人がいかに残酷に死ぬのかを分かっていなかった。映像メディア等で戦争を知らないわけではないと思っていた。しかし映像では倫理的な問題で残酷な描写は放送しないのだろう。本では想像を絶する本当の死が描かれる。想像を絶するからこそ文字から想像する光景は脳に刻み込まれる。
そして自分は日本の被害にしか目を向けておらず日本が侵略した国の被害を知らなかった。テレビドラマ等は神風特攻隊や空襲がテーマになりがちで日本が侵略した事実は無視されがちだ。しかしそこを知らなければ反日感情を理解することはできない。日本軍がどれだけ残虐なことをしたのか、そして残酷な目にあったのか両方を知らなければならない。
戦争は関わる全ての人を傷つける。この本を読み正しい戦争は存在しないと改めて思った。現在もそしてこれからも戦争はなくならないだろう。そのなかで日本もまた憲法9条を改正(悪)して戦争への道を歩みだそうという動きがある。アメリカの陰に隠れて日本が戦争をしないことが偽善だというかもしれない。しかし日本は大戦後自衛隊が海外で人を殺していないことをこれからも続けていくべきだと思う。戦争への道を二度と歩んではいけない。それだけが先の大戦で亡くなった人たちの供養になる。
この本を読み自分は戦争を知らないことを知った。戦争を知らないことは危険なことでもある。しかし自分は実際に戦争を知らなくてよかった、知らなくて幸運だと思う。だからこそ私たちは戦争を知る努力をしなければならない。再び過ちを繰り返さないために。この本を入り口に戦争についてもっと知り考えていきたい。これから日本の社会を担う世代の人全てに考えてほしい。
小説とは評価基準が異なるが心に響き、人生において大切なことだと感じたので星5つ。