紙の本
いつものオースターとちょっと違う感じ
2006/10/17 23:14
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
オースターの小説はほとんど全部読んでいるが、これはいつものオースターとちょっと違う感じ。なんだか平べったい印象がある。練りこんだ跡が目に見えない。いつものように読み終わって暫し「うーむ」と唸るようなこともなかった(だが読後感は少し爽快である)。
短い小説だし、単純な設定だから仕方がないのかもしれない。話者は犬である。名前はミスター・ボーンズ。そして、最初の主人の名がウィリー。ウィリーは放浪の詩人、と言えば聞こえが良いが、悪く言えば定職にも就かず金にもならない詩を書いてばかりのイカレた中年男である。一応帰るべき家はあってそこに母親が住んでいるが、1年のほとんどをミスター・ボーンズとホームレスさながらの旅をしている。
ミスター・ボーンズは犬であるからもちろん人間の言葉は話せないが、聞くほうでは人間の言葉をほぼ完璧に理解する。ウィリーはそのボーンズの能力を知ってか知らずか頻りにボーンズに話しかける。犬に人生を説いたりする。
もっともミスター・ボーンズは人間ほどいろいろな知識があるわけではないので、時として意味の分からない単語に遭遇したり早合点したりもする。
オースターの読者であればもちろんそんなことはありえないと思うが、そうでない人は、帯に「犬と飼い主の感動的な物語」と書いてあるからと言ってテリー・ケイの『白い犬とワルツを』みたいな話だと思ってはいけない。かと言ってディーン・R・クーンツの『ウォッチャーズ』のような本でもない。
いつものオースターとはかなり趣が違うとは言え、これはやっぱりオースター以外の何ものでもないのである。そして、柴田元幸の「訳者あとがき」を読んで、「ふーん、なるほど。こういう風に読み解くのか」と驚くのである。今回はオースターにではなく柴田元幸に唸ってしまった。
確かに、柴田の指摘するように、この物語は定型的な展開を避けている。そして、そのことによって読者は自分自身に向き合うこととなるのである。
そして、この流儀に基づいて柴田は、一般的には「犬好きの方には特にお薦め」などと書きたいところを、とても控え目に「もしあなたが犬好きだったら、この本を好きになる確率は、犬好きでない人に較べてほんの少し高いかもしれない」と書いている。これには僕も同意。別にこれは犬の小説ではない。
そして、ここでも定型的に陥ることを避けたエンディングを、僕は良いと思った。こんなことを書くと怒られるだろうが、もしあなたがこのエンディングを読んで良いと思わなかったのなら、それは端からこの小説を読むべきではなかったということではないかな、などと思う。
できればオースターを何冊か読んでいる人に読んでもらいたい小説だ。
by yama-a 賢い言葉のWeb
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主人公が「犬」。だからといって必要以上に感傷的になるわけでもなく。お定まりの冒険物語になるわけでもなく。淡々とストーリィは進んでいく。そして裏の主人公は「夢」。その存在が「叡智を得る大切な回路として」(あとがきより)機能しているところが面白い。もしかしたら今、私の膝の上で眠っている愛犬も、こんな夢を見ているのかもしれない、と思わせてしまう。最近私も犬に言葉を教えている。
2006.10.04-17
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オースター和訳最新作。一応、「長編」と紹介されてはいるけれども、内容的にも分量的にもあまりボリューム感がないので、私としては小作品という印象。犬好きなもので、冒頭いきなり飼い主を失うかもしれないミスター・ボーンズ(犬)と、自分の死後のミスター・ボーンズの行く末を心配するウィリー(人間)の状況説明だけで涙腺が…。でも、やはりこれはオースター作品。お涙頂戴な動物ものにはならない。ミスター・ボーンズの淡々とした、けれども、深い愛情のこもった独白は、犬を飼ったことのある人には特に琴線に触れるのでは…。ウィリーの言葉遊びや、ハエの視点で事態を見守るミスター・ボーンズなど、オースターらしい要素もしっかりある。(2006 Nov)
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犬のかわいい写真に惹かれたけれど、内容は犬ミスター・ボーンズから見た人間社会を描いた話。犬って案外人間をこんなふうに冷静に見ているのかも。
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犬のミスター・ボーンズは考えた。優しかったウィリーに再会するために、ティンブクトゥへ行こう…。出会いの喜び、別れの悲しみ。言葉のわかる犬と放浪癖のある飼い主の、可笑しくて感動的な物語。
などと書かれていた書評、ジャケットのかわいさに魅かれて手に取ったのだけど、私には全くあわなかった・・・
犬の視点から書かれているのが、よくわからない。だからこそ、犬の気持ちがわかる著者はすごい!ということに
なるんだろうけど、なんだろ?しっかりとした犬に対して、飼い主がジャンキーすぎ??
そして、哲学的しすぎた文章。訳者の力なのか、著者の力なのか、他の作品を読んだことないのでなんともいえないが、日本で言うと村上春樹のような感じなんだろうか?
んー、好き嫌いがわかれそうな気がした一冊。
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犬好きな私が、思わず手にとってしまった可愛い表紙。表題の「ティンブクトゥ」は主人公の犬の名前ではなく、飼い主が行ってしまった黄泉の世界のことです。犬の視点で物語は進むのですが、これを人に置き換えると、そうだよなあ、って感想が出てしまいます。案外多くの人が、会社とか社会とか属するところに、無理にでも自分を合わせて生きている。ん?そんなこと考えたのは私だけかな、やっぱり。。
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『ティンブクトゥ』とは、楽園のことかしら。言葉を理解する犬のミスター・ボーンズと飼い主の詩人ウィリー、ただウィリーは死んでしまう。ウィリーとの思い出を抱えて、ボーンズは日常が過ぎていくままに生きていこうとする。チャイニーズレストランの中庭に住んだり、中級以上のレベルの家族の一員となったりする。ただウィリーは愛してくれる人間といつも一緒にいたいだけだ。だから最後はウィリーが暮らす『ティンブクトゥ』に向かっていく。
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オースター作品の中では少し異色な感じもする。
表紙がいただけない。
訳者の柴田氏は気に入っているようだが、オースター作品にあまり似つかわしくない。
ボーンズはもっとみすぼらしい犬。
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2006年、中々ポール・オースターの翻訳が出ないなあ、と思ってペーパーバックで読んだ作品。
シティ・オブ・グラスのようなオースター作品をどちらかと言うと好むモノにとって、ちょっと口に甘い感じがする作品。
オースターならではの物語の始まりは、いい。
週刊ブックレビューで堀江さんがちょっとネタバラシしてたけど、自分もそのポイントは純粋に楽しめた。
ジカ読みした後で、柴田さんがようやく翻訳を出版してくれたので読み直し。
英語ではドライな感じもまだ多少あったように感じたTimbuktuだったが、ティンブクトゥの方はもっとマシュマロ的雰囲気が出ている。
これって柴田さんの人柄か。
オースターってもっと後先考えないくらい意地悪なのか、あるいは物凄く天然な感じなのか、と思うけど、翻訳は少し「狙った」ような感じを受ける。
それにしても柴田さんの日本語はよい。
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何と言えばよいのだろう。
地味にショックを受けてしまった。打ち切りのような結末、もしくは予め予定されていた終焉。誰かにとって、欠かせない存在であることが何より必要不可欠だった生物の。
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どうしようもない詩人のウィリーが行ってしまったティンブクトゥを目指し
Mr.ボーンズの冒険がはじまる。
あっというまに引き込まれる犬の人生。犬生?
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面白いっちゃ面白いけどオースターの他のはもっとすごいぜ!ってことで★3つ。歯切れの悪い訳者あとがきを見る限り柴田さんもそう思ってる気がします。でも↓の文章はなるほどなあと思った。思い出とか夢とか幻想とか宗教とか、色んなものに当てはめられるスマートな回答だ。
「上から見てくれているその目というのが、実は自分の中にあるのだとしても、大きく見れば違いはない。なぜならそれら見守ってくれる目こそ、この世で独りぼっちだと感じることと、独りぼっちではないと感じることの違いにほかならないのだから。」
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久しぶりにポール・オースターを読んだ。この作品は短めの中編という感じで、偶然が偶然を呼ぶ彼の長編が好きな者としては物足りなかったし、初期のミニマルで観念的な作品とも違うのだけど、まあ悪くないです。
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ひさびさのポール・オースター。
ひとことも見逃せない、という気持ちになる文章を読んでアドレナリンが出る感じ、を思い出した。
よかったです。
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放浪の詩人ウィリーと旅を共にした、犬のボーンズのお話です。ボーンズは人の言葉を理解し、自らも犬的限界はあるにせよ、豊かな感情を持っています。
ドラッグやアルコールはもちろん、放蕩の限りを尽くした果てに、見知らぬ街で行き倒れとなったウィリーの心残りは、相棒ボーンズの行く末でした。死を間際にした主人の言いつけを守り、ボーンズはただひとり新たな旅の一歩を踏み出します。
その後ボーンズは、苦労しながらも幸運に恵まれ、犬好きの良い人たちに巡り会い、幸せを手にするのですが、ちょっとばかりネジの弛んだウィリーのことや、彼が生前よく口にしていた〝ティンブクトゥ〟という言葉が忘れられず・・・・・。
物語は終始犬の目線で綴られていきます。感傷的になり過ぎることもなく、だからこそ、犬好きの人はもちろん、そうでない人の心にも、シミジミ沁みてくるものがありますよ。