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転がる香港に苔は生えない (文春文庫)
転がる香港に苔は生えない
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紙の本
変化を続ける香港という国が激変する瞬間の貴重なルポルタージュ。
2012/04/11 21:23
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の作者、星野博美さんは、1966年生まれで、カメラマンです。
星野さんは、20歳の時、一年間、交換留学生として中文大学で学び、1997年7月1日
香港の中国返還の場に立ち会う為にその前の年から、一年間の予定で語学学校に通う学生ビザをとり
ますが、結局、返還をはさんだ二年間、香港で暮らしました。
その時、生で見た「香港中国返還」ルポ。
10年ぶりの香港を目にして、その激変ぶりに驚くことから始まります。
そして自分で不動産屋をたずね、アパートを見つける。
カメラマンとしての仕事もあるので、この本も写真をふんだんに使えばいいところ、星野さんの
写真は623頁のうち、5頁だけなのです。後は全て迫力、臨場感あふれる星野さんの体験が
生々しく綴られています。だからこそこの5枚の写真は星野さんにとって大事中の大事な写真。
この本は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しています。
同賞を受賞しているのが米原万理さんの『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』
米原さんが、プラハのソヴィエト学校時代から現在のロシア、東欧という流れに対して、
星野さんの香港滞在期間は比較的短いようにも思います。
しかし、星野さんは、大学時代の同級生、アパートの隣人たち、香港在住のカメラマンたち、
行きつけのお店で働く人々・・・様々な人のそれぞれの「中国返還」をびっしり書いています。
香港は期限付きでイギリスの植民地となった異例の国であり、中国(大陸)とは大変、
微妙な関係にあります。
ひとことに「香港とは」と言ってしまう「ひとくくり」を極力避けようとしているのがわかるのが、
リアルに再現された色々な人々の言葉とそのバックグラウンドの説明です。
最初に小説か?と思うような「この本の主な登場人物紹介」があったりして、お店のコックさんから
大学で学び会社でキャリアを築いた人まで、出来る限りの「その人なりの感覚」をすくいあげよう、
という心意気がびしびしと伝わります。
親英派も入れば、反英派もいる。大陸出身であることを誇りに思う人もいれば
大陸出身であることをひたすら隠して、香港人である事を異様に強調する人もいます。
夢を持ってカナダに行っても結局、思うようにいかず香港に逆戻りした人もいます。
星野さんの観察と分析は、日本人である自分は香港でどう折り合いをつけるべきかを
(星野さん曰く‘おとしまえをつける’)模索するためで、単なるべたべたとした
「香港大好き!」にはなっていないのですが、香港の魅力もたっぷり堪能できます。
もともとが移民またはダイレクトに密入国の人々が多い香港。その複雑な歴史に弄ばれる
ように人々は香港に逃げてきて、そして、またカナダ、アメリカといった国へと旅立っていく。
それが当たり前で、よりよい生活を得るためには、移民は当たり前、というまさに「転がる石」
のような変化を繰り返す香港の人々。
イギリス支配下で、とにかく勉強する、英語を身につけないと「高給取り」になれない
という強力な英語崇拝教育。苦労してやっと大陸から香港に来た人にとってそんな世界、価値観に
なじめない人たちもいるという事実。
星野さんは、香港の物価から、「いいものは高い。安いものは悪い。だからいいものが
欲しければ、金を稼ぐ。」という資本主義の基本に改めて気づき、「良いものを安くお客様に
提供」などという日本の商法は通用しない、と痛感します。
では金儲け主義一筋か、というと血縁や人の縁、人脈というものが想像以上に強い結束を
持っていることに助けられたり、戸惑ったりします。
10年前は学生として寮生活だったのが、今回はアパート一人暮らしという状況の違いからの
悲喜こもごも、苦労話から笑い話までが活き活きと描写されています。
どこの国のパスポートを持つか?に異様な関心を持たざるを得ないような複雑な法の仕組み。
星野さんが、アパートを借りる契約の時に日本では必要な「保証人」はどうします?と聞くと
「あなたは日本のパスポートを持っているでしょう。それで十分」と通ってしまうのです。
外国籍のパスポートはものすごい威力を発する事実に、星野さんが逆に驚いてしまいます。
星野さんは、香港の中でもいろいろな人がいて、その「違い」を明確に出そうとしています。
日本と香港は違う。香港の中でも、価値観は違う。どれがいい、悪いの問題ではなく「違い」を
どれだけ自分は受け入れられるか、それを自分に課しているような行動をとるのです。
そして、必要なものは、「誇り」ではなくて「多様性」であろう、と書かれています。
雑多、喧騒の街、香港。そのバイタリティと過去を振り返らず、先を読もうとする欲望の数々。
この本が書かれたのが2000年。安住の地、祖国があることは安心なことですが、苔も生えてしまう。
香港は転がり続けて苔は生えない、と言えるのですが過去の法律などの不便さの悪循環の速度も速い。
そして星野さんは、日本という国に生れ、住んで知らぬうちに「自分についてしまった苔」に気付きます。
読んでいる自分も自分なりに、日本では当たり前=常識と思いこんでいた苔に気付きました。
今、2012年、転がり続ける香港はきっとまた違う変化を遂げているということは 容易に想像できるのです。
紙の本
ガイドブックの次に読みたい香港本
2021/05/28 20:11
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひでくん - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年生まれて初めて香港を一人旅し、セントラル周辺の圧倒的な活気に衝撃を受けて帰国してから手に取ったのがこの本。
あの何とも言えないエネルギーの源泉は、常により良い場所を求めて忙しなく移動を繰り返す香港人の気質にあったのだなと思った。ガイドブックには当然載っていない香港の歴史、実像が筆者の身近な人々の生活・人生を通して丹念に描かれている。
個人的には「夢破れてカナダから戻ってきたエリート」の阿強、台湾育ちでリベラルなインテリ大学院生の文道の章が特に好き。十分おっさんになったであろう彼らが今頃どうしているのか気になる。
文道は文筆家として活躍しているようでWikiにも載っている。阿強はカナダに行った意味を見つけられているといいな。
紙の本
香港へ行きたくなる
2021/02/15 10:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふりんじ - この投稿者のレビュー一覧を見る
香港は物価が高いのでいつも数日泊まるだけの
通過する街なのだけれども、
著者はじっくりと腰を据えて住んだ。
それだけで読ませる。
分厚さは関係ない。