紙の本
貧困問題が浮かび上がる前の本
2010/09/13 10:24
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2004年の本が2007年に文庫化され、それを2010年9月に読んだ。
一点目。高度経済成長の日本を、「職業・家庭・教育の安定」で分析した点は非常に納得が行った。特に受験競争を職業選択のパイプラインであるとした上で、それを一種の「あきらめのシステム」に仕立ててあったという説明には目から鱗が落ちた。
受験と言う制度と職業選択をリンクするに際して、必ずしも思うようにいかなかった人にも「あきらめ」という形で納得させてきたシステムだったという著者の指摘は鋭いものがある。
二点目。著者は表題の通り「希望」が持てるかどうかという部分に日本の社会の強弱を見ようとしている。
本作は2004年に書かれ、2007年に文庫化された点を勘案するとしょうがないのかもしれないが、その後の日本を襲った「貧困問題」まではくっきりとは視野に入っていない。というか、おそらく2004年以降に状況が更に悪化したということなのだと思う。
希望が持てるかどうか以前に、貧困に苦しむ多くの日本人が「発見」されたことが、2007年以降の数年の特徴だ。本書では「富める人」と「貧しい人」との二極化までは説明しているが、その「貧しさ」がどういうものなのかという点において、まだ楽観的だったのではないか。
「格差社会」には、まだ議論の余地は多いが、「貧困社会」には議論の余地は少ない。本書で著者は1998年を格差が発生しはじめた年と位置付けているが、その10年後の2008年のリーマンショックが、貧困を浮かび上がらせた新しい節目の年だったのかもしれない。
そう考えながら読むと、非常に怖い。読後感は、背筋に来た。
紙の本
格差を生む社会構造は理解するが...
2012/03/13 20:19
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
流行語にもなった「格差社会」という言葉を生んだ本です。今や「格差社会」というその言葉が独り歩きしてしまっていますが、著者が主張するのは、「希望」格差であって、経済的な格差という1点ではありません。
戦後の高度成長からバブル期直前まで、いろいろな背景はあったにせよ、「将来こうなれるかもしれない」という希望は描けた。今現在の社会の方がその時期よりも「豊か」になっているのは事実だが、ひとつ失っているものが「希望」である、ということだ。
賛否両論あれど、学歴社会や年功序列という「制度」のもと、ある一定の「ルート」「コース」が目に見えた社会であったが、いまはその様相が異なる。アイデア、知的な差別化が個人的な成功のベースになる社会であるが、「安定」はないし、将来どうなるか、っていうのもまったく見えない社会だ。
そんな環境の中で若者に対して「夢がない」というのは、はたしてどうなんでしょう?という、現代若者論にもつながっているんだけど、 ことこの状況に関しては、若者だけの問題ではない。かつての構造で育った中高年も、その経験が武器にならない社会である。IT系の発展、労働力の国際的な流動化。久しく言われてきたことが、まさに今現実になっている。
...と肌感覚で分かっていること、それを「理論」で説明してもらっている感じ。以前とは社会構造が違う、家庭も教育も、そのあり方が異なってきている、というのは分かるんだけど...分かっている分、身にしみている分、ものすごく「重い」んですね。敢えて苦しい環境を上書きされた感じすらします。
望むべくは、「じゃあ、どすんの」っていう点。本書を手にとった人の多くはそれを期待していたはず(社会学者の先生たちは違うだろうけれど) 。その点が「薄い」んですね。読後はかなりネガティブになってしまいますが、それでも前を向かねばならないんですよね、私たちは。
自分の身は自分で守る。だって今置かれた環境はこうだから、ていう「現状」を受け入れることももちろん必要だし、そこがスタート地点にはなります。けれど、その前提は半分くらいでよかったかも。
読み終わったあと、「副題」を見ましたが、ちょっと扇情的すぎ、な気もしますね、
希望を持ちましょう。開き直りではなくて、前に歩いて行く原動力は、誰にでもあるはずだから。
【ことば】 つらいことに出会ったとき、それに耐え、更なる努力をして乗り越えることができるのは、それが報われる見通し、つまり希望があるからである。
その「希望」が失われつつあるのが(あるいは2極化して「選べない」層が存在することが)現在の社会環境である、という。まったくその通りだと思うが、希望は自ら見出さない限り、向こうからやってくるものではないはず。なんでもいい。それこそ、人間の数だけ希望がある。
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『パラサイト・シングルの時代』で注目を集めた社会学者、山田昌弘の著作である。
著者によれば、日本社会は二極化し、不安定なものになるという。
そして、職業の不安定化・家族の不安定化・教育の不安定化、という三つの不安定化について述べられている。
「職業の不安定化」という章では、ニューエコノミーがもたらす職業の二極分化について述べられている。ニューエコノミーとは、規制緩和・情報通信技術の進歩や労働市場の柔軟化によって、景気循環が消滅し、持続的な経済成長が可能だという理論である。ところがニューエコノミーが進展すると、労働の二極分化が起きるという。「単純労働であるが機械ではできない仕事」(ファストフードの店員や繁華街のティッシュ配りなど)と、「高度に知的な仕事」に分化するというのである。そして、知的な仕事につけない者は単純で低賃金の労働に甘んじるしかなくなる。
「家族の不安定化」という章では、家族形態が流動的になるにつれて、人生設計が予測不可能になることが述べられている。高度成長期の一般的な家族形態はサラリーマンの夫、専業主婦の妻、2人程度の子どもというものであったが、現在さまざまな形態の家族が増えつつある。これが人生の不安定化をもたらす。たとえば離婚によって父子家庭・母子家庭や単身者世帯になり、低所得に転落する場合も多いのである。
「教育の不安定化」という章では日本の教育制度をパイプラインにたとえ、パイプラインの「漏れ」という表現で不安定化について論じている。従来、日本の教育システムは若者を滞りなく勤労者として社会に送り出す機能を果たしていたが、正社員の採用が減り、一方で進学率は上がるとパイプラインに乗っていても順調に社会人になれない者が出てくる。これを著者は「パイプラインにひびが入って漏れが生じている状態」と表現する。このパイプラインのたとえが言いえて妙である。
フリーターやニートと呼ばれる若者の増加が問題になっているが、これは若者の心構えのせいばかりではなく、社会の不安定化によっ人生に希望が持てなくなっているのも大きな原因であり、若者に希望を持たせる政策が必要だとしめくくられている。
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著者は「パラサイトシングル」ということばを流行させた山田昌弘氏。「格差」をキーワードにして世相と将来を読み解こうとしている。やや悲観的に過ぎるような雰囲気も漂うが、その中から活路を見出す生命力があれば参考にできるものと思う。
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めっちゃ自分の好きな内容。お金がないと希望を持つ時点でもう差が出ているという内容。パラサイトシングルは最悪だ。
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もはや一般用語ともなった「格差社会」の本質は「希望」の格差であり、希望が持てず、努力が報われない状況におかれている者は、苦労を強いられる状況から逃れようとする。このような若者たちがフリーター、パラサイトシングルとなり、日本のお荷物となるという、希望がまるで感じられない内容。
まさに若者である自分からすると、筆者が言うほど絶望的な社会になるような気はしないが、そのためには、若者の中から新しい価値観が現れる必要があるのかもしれない。
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格差論の火付け役であり必読文献。リスク化と二極化という視点から,日本社会に何が起こっているのかを明確に説き起こしている。希望=「努力が報われるという感覚」が共有されなくなっている。それでも努力しなければチャンスはない。司法試験に受かっても,弁護士として就職できるとは限らない,でも試験に受からなければ弁護士になるチャンスははい。自身に置き換えると切実に身につまされます。希望の喪失の影響として,犯罪の質的変化,すなわち自暴自棄型の犯罪の増加を指摘するくだりは,今読めばまさに秋葉原の事件を予言していたとさえ感じられる。彼が特殊だったのではなく,希望が二極化した社会においては,誰が犯してもおかしくなかったのだと思う。「勝ち組」の人たちにはこの感覚はなかなか理解されないのですけどね。
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「格差社会」という言葉そのものが誕生するきっかけとなった本。
格差社会を考える上で避けては通れない一冊
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「お金持と、そうでないひと」
という格差は、べつに以前から存在していた。
じゃあ今になって突然、このとてつもない国ジャパンで騒がれている「格差」とは、一体何なのか。
ジツは単なる所得の量的な格差だけじゃなく、気持ち、つまり質的な格差が大きいのでは?
という切り口から、わかりやすいデータをもとに以前の高度経済成長期なる“黄金時代”と現代社会を比較しつつ、今がどれだけ希望を持てない、また持ちにくい時代なのかを客観的に述べた本。暗〜い、重たい気分になる。
でも、そうした現実を見据え、危機感を持ったのちに出てくる生き方への「答え」自体は、おそらく至って平明かつ凛とするしかないもののはずだ。つまり
「今いるこの場所この現状で、希望を持って生かなきゃならん。」
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自己責任では解決できない問題。でも社会福祉ですくうとなると莫大な資金が必要になる。徐々にでも取り組んでいかなくてはいけない問題。
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著者の考えかたが気に入ったから購入
俺の考えてることを、もう20歩くらい踏み込んで考えてるみたい
すごく、勉強になった
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今、お金ではなく、身分でもない。
希望の格差が問題だ。
新聞やニュースでも格差問題をいうワードをよく聞くので
「希望格差問題」という本を読んでみました。
書いたのは山田昌弘氏。
学芸大学の教授の方だそうです。
昔、30年ほど前は希望に満ち、
理想的な未来生活の到来を信じている世の中だった。
大阪万博のテーマが「人類の進歩と調和」
理想的な社会の到来をみんな信じていたらしい。
そのころは、ものづくりを中心とした大量生産・大量消費の時代。
多教くの企業は生産を効率的に進めるために労働者を自社の生産システムに合うように育し、
長期間抱え込むことが合理的だった。
だから長期安定で、賃金の上昇が期待できる職に多くの人が就くことができた。
人並みの努力をすれば報いとして豊かな生活が手に入れられた。
しかし今、
温暖化だの食糧危機がくるだの国債問題年金問題少子化問題グットウィル停止だの
明るい未来なんて思い描けない人が多い。
グローバル化やIT化が進み、生活するには困らない程度の豊かな社会。
その世界では豊かになったゆえに多種多様な商品をより安く提供しなければいけない圧力が加わり続けている。
現在企業によって求められる人材とは「変人」と「精神分析家」だとライッシュ氏が述べている。
「変人」はオタク的に物事の可能性を追求できる人。
「精神分析家」は人々が何を望んでいるかを分析できる人。
この種の人々が「専門的な中核労働者、アナリスト」となり正社員になれて、
残りの人々は労働力のコストを下げるために単純労働者となる。
そして、フリーターが増える。
フリーターはマニュアル通りに動くだけなので賃金があまり上がらず、
食べてはいけるが、ゆとりのない生活になりがち。
なので年金を納付しなかったり、保険に入っていなかったり。将来の不安要素となる。
さらに今は若者だから職があるが、中高年になれば雇ってもらえなくなる可能性が高まる。
そうなると社会福祉の対象にしなければならないが、その費用は莫大なものになってしまう。
さらにフリーターじゃない、正社員でも、
30年前なら終身雇用、その後厚生年金でゆとりのある老後が保証されていたが、
今は大企業に就職しても倒産や解雇とは無縁でいられない。
さらに年金の破綻が懸念され、老後が不安という人も多い。
あと、戦後は多くの人が中流の意識を持ち、大きな格差を感じずに生活できていたらしい。
今は年功序列が崩れ、能力主義の賃金体系が浸透し始めている。
同じ企業に勤めていても、月収やボーナスに格差が広がっていく。
そのようなことが1〜8章まで書いてあって、読んでいるとだんだん暗い気持ちになる。
最後の9章だけにこれからどうすればいいのかが書いてある。
経済的に生活保護などの制度はあるが、心理的にも助けていける制度を構築するべきだ。
それは大きく分けて2つになる。
?このままどんどん規制を自由にしていく。
自己責任を強調し、規��緩和、自由の拡大、個人主義の確立をしていって
?過去存在した、「安心社会」の復活を再現する。
企業はアルバイトを雇わず、正社員雇用のみに強調していく。給与も年功序列に戻す。
?は能力のある人が活躍の場を提供されることは確かだ。
しかし、自由化は失敗者も生み出す。
誰しもが成功できるかのような感覚になるが、全員が全員夢を実現できるわけではない。
そのような人達には最低限の生活は送れるようにはなっている、しかし、現在の社会では、人間はパンだけで生きていいけるわけではない。
希望がないと生きてはいけない。
?これはまず完璧な実現は困難だ。
まず、これ以上企業に負担をかけるのは不可能だ。
経済がグローバル化しているので、海外との競争に負けてしまう。
内的にも、年功序列、終身雇用賃金を復活すれば、才能のある若い人の不満が高まる。
さらに、やる気のある企業や、才能のある人は必ず、海外に出て行ってしまう。
残った人も、今まったく心配がなくなってしまえば、かえって逆に安穏としてしまい、活き活きと暮らせなくなってしまう。
「希望のない安心」は停滞をもたらす。
過去の制度は、そのとき、実現できる経済成長があったからこそ、皆は豊かな生活を手に入れたいという希望になり、成立していた。
「生活に対する考え方を変えて、不安定な社会を乗りきろう」
という考え方もある。
能力をつけて、上を目指すのではなく、年収300万円くらいを前提に生活を組み立てて、楽しく暮らすという考えだ。
公共的な取り組みとしては、
能力をつけたくても資力のない人に、さまざまな形で機会を与える。
これは職業訓練校などあるし、もうやっていると思う。
私も1年少し前に色々見た。
でももっと、努力したらその分報われるとわかる具体例などをHPで挙げたほうがいいと思う。
どれくらい努力すれば、どれ位の地位が得られるのかという基準が加われば、将来の見通しがつき、希望につながる。
さらに過大な夢を持っているために職業に就けない人のために、クールダウンさせる「職業カウンセリング」をシステム化する。
納得させ、あきらめさせ、転進する。
アメリカではカウンセリングシステムが発達しているので、もう始めているらしい。
また最後に逆年金制度はどうだろうかと述べている。
「自活できるようになるまでお金を貸し出し、後で返済させる」システムらしい。
このような打開案を早急に打ち出さないと、日本の社会の不安定さは、深刻さを増すに違いない。
私はとりあえず、まだ努力して、コツコツ日々やると決めたことをやっていこうと思います。
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「リスク化」と「格差の拡大」の共犯が本書のテーマ。その結果、若者のあ間にやる気の格差(インセンティブ・ディヴァイド)が広がっている。
ここでいうリスクとは天災、戦争、テロリズムのことをさすのではない。「みずからの選択の結果生じる可能性のある危険」である。リスク化とは、好むと好まざるとに関わらず「自己決定」を強いられる社会になった結果すべての人にリスクの可能性が開かれることを指す(リスクの普遍化)。だが、資本の多寡によりリスクへの対処は異なる。持つものは、リスク社会を泳ぐことができる。だがしかし、持たざる者はリスクに蝕まれる。
この本、構成もデータも上手に出来てるから読むに値する。
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まだ社会に出てないし、社会がどういう状況か分からないので、なんとも言いようがない。社会学者ってネガティブな人が多いんじゃないかと思うけど、この本も読んでいて暗くなった。でも、読んでよかった。
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「昔は良かった。今の若い者は…」という世代に読んでほしい本。
確かに、昔と違って人生のあらゆる場面(仕事、結婚)において、不確実なことが増えた。
でもそれは、選択肢が増えたこと、自由の裏返しでもある。
昔は、受験勉強を頑張って、高学歴になれば、自動的に豊かな未来を手に入れることができた。
今は、努力しても報われない、気がついたら人生のパイプラインから漏れてしまう、一度漏れたら二度と這い上がってこられない仕組みになってしまっている。
”日本社会が、将来に希望が持てる人と、将来に絶望している人に分裂していくプロセス”をデータを使って説明している本。
昨秋からの不景気で、この本(初版は2004年)に書いてあることが現実化していて少し怖い。