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紙の本
クルンバーの謎 (創元推理文庫 ドイル傑作集)
著者 コナン・ドイル (著),北原 尚彦 (編),西崎 憲 (編)
スコットランドの辺疆に越してきたインド帰りの陸軍少将が、クルンバー館に高塀を繞らし食糧を買い込んで篭城の構えを見せる。家人を禁足し訪客を峻拒する将軍の振舞いは、人智及ばぬ...
クルンバーの謎 (創元推理文庫 ドイル傑作集)
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商品説明
スコットランドの辺疆に越してきたインド帰りの陸軍少将が、クルンバー館に高塀を繞らし食糧を買い込んで篭城の構えを見せる。家人を禁足し訪客を峻拒する将軍の振舞いは、人智及ばぬ危殆に瀕するが故だという。運命の十月五日が迫る頃、突如海は荒れ風は猛って帆船ベリンダ号が難破。嵐の中にも威風けざやぐ三人のインド僧こそ、将軍のもとへ遣わされた宿悪の清算者であった。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧
競売ナンバー二四九 | 白須清美 訳 | 9-60 |
---|---|---|
トトの指輪 | 白須清美 訳 | 61-86 |
血の石の秘儀 | 西崎憲 訳 | 87-102 |
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紙の本
ロンドン、エジプト、アフガニスタン
2010/09/23 00:23
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
コナン・ドイル作品集の第3巻は、東洋を題材にした怪奇小説を集めている。
なんか、東洋から来る人は不思議だと思われていたらしい。
2編はエジプトのミイラに関するもの。それからアフガニスタンに近いインド。最も長い「クルンバーの謎」もインドの仏教僧に関わる話。「血と石の秘儀」だけが、ウェールズ奥地の秘儀の恐怖となっている。
細かいことは抜きにして、とにかくアジアには古代からの秘められた叡智が息づいていて、ヨーロッパ人が軍事力と残虐さでその土地を征服したとしても、それらの叡智を知ることも理解することもできない、というアイデアで成り立っているようにも見える。
そういう構成になっちゃってはいるが、じゃあそれでヨーロッパ文明に対する批判が含まれているかと言えばそうでもなく、ただもう不思議だからしょうがないというような筆致になっている。内容とスタイルがアンバランスのようにも見えるが、批判や告発という形をとるのでなく、ただ彼らは畏れている。大英帝国のために身を粉にして働き、常に公正明大に振舞ってきたのに、恐ろしい目に逢わなくてはいけないような理由はなんなのか。
「クルンバーの謎」は、そういう追い詰められた心理が見事に描かれた力作だろう。彼らは魔力を恐れてスコットランドの片田舎に移り住むが、なぜ自分が誇らしい戦果を挙げたアフガニスタンから追われ続けているのか、戦闘のことを繰り返し思い起こしてしまうのはなぜかも分かっていない。ただ傍目には、異様なほどの恐れを帯びていることだけが分かる。一方でインド人僧は清々しく、涼やかで気高い人々として現れる。
「競売ナンバー二四九」「トトの指輪」は、たしかにエジプトがイギリス支配下にあるゆえの物語ではあるが、こちらはミイラ生成の頃の怨念が巡りめぐって、現代では理解し得ない科学あるいは魔術とともに現代のロンドン、あるいはパリに現れるという話で、それはそれで面白いのだけど、インドやアフガニスタンに対する、その場所、存在自体が不気味であるという印象から比べると、まだ合理的な理解が届く範囲と感じているようでもある。
こうして考えてみると、ウェールズの古代宗教でさえ、被征服民族の怨念の物語に見えてきてしまうのだが、文章からはその気配はなく、正しい深読みとは言えないかもしれない。
むしろ作品中で明らかにされないところに、ブリテン島を覆う見えない霧に対して、ドイルの感じる漠然とした不安が現れているのかもしれない。