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満州事変から日中戦争へ (岩波新書 新赤版 シリーズ日本近現代史)
著者 加藤 陽子 (著)
1931年の鉄道爆破作戦は、やがて政党内閣制の崩壊、国際連盟脱退、二・二六事件などへと連なってゆく。危機の30年代の始まりから長期持久戦への移行まで。日中双方の「戦争の論...
満州事変から日中戦争へ (岩波新書 新赤版 シリーズ日本近現代史)
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商品説明
1931年の鉄道爆破作戦は、やがて政党内閣制の崩壊、国際連盟脱退、二・二六事件などへと連なってゆく。危機の30年代の始まりから長期持久戦への移行まで。日中双方の「戦争の論理」を精緻にたどる。【「TRC MARC」の商品解説】
目次
- はじめに
- 第1章満州事変の四つの特質
- 1 相手の不在
- 2 政治と軍人
- 3 事変のかたち
- 4 膨張する満蒙概念
- 第2章特殊権益をめぐる攻防
- 1 列国は承認していたのか
著者紹介
加藤 陽子
- 略歴
- 〈加藤陽子〉1960年埼玉県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。同大学院人文社会系研究科准教授。専攻は日本近代史。著書に「戦争の日本近現代史」「戦争の論理」など。
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2007/07/20 23:43
26人中、22人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:いぬくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナントカという人が「侵略戦争に反対した人間がいなかったように書いてある」とか「戦争責任が隠蔽されてる」とか見当外れの難癖をつけていますが、この本はそういうことを書くための本ではなく、「日中対立の起源と全面戦争に至る経緯」を説明するための本なので、戦争責任論とかが読みたい人は別に良書がたくさんありますからそっちを読んだほうがいいんじゃないでしょうか。それから「赤点」云々は著者の謙遜であって、それを字面通り受け取っちゃうような人はそもそも読書に向いてないと思います。
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日本は最後の最後の最後まで中国という国の実力と動向を見極めるのに失敗し、ある意味、中国人を舐めきっていたということなのだろう。「じゃあ、お前なら出来るのか」と言われれば「私にも出来ません」と答えざるをえない。今も昔も中国という巨大なる隣国の現状をどのように認識し、この国と如何なる関係を取り結ぶかが日本という極東の島国の命運に直結するという思いを強くした。
2009/12/09 18:42
16人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本が国を誤り、滅亡への坂を転げ落ちていった1920年代から1930年代の中国を中心とする外交を活写した好著である。
1920年代の日本外交は幣原外交と田中外交という二項対立で語られることが多い。幣原=経済重視=平和主義、田中=軍事重視=武断外交と連想されがちだが、事実はそう単純なものではない。
そもそも幣原や外務省は中国侵略に反対でもなんでもなかった。むしろ時として軍よりも強硬に中国侵略を主張したりしている。ただその主張内容が、条約を楯にした、あくまで「合法的」な経済侵略を主軸とし、軍事行動はその手段の一つという程度であったに過ぎない。この時期の外務省は対中融和的でもなければ平和主義でもなかった。ひたすら「国益の増進」を錦の御旗に対中対満権益の拡大に取り組んでいた。なかでも特筆されるのが、幣原外交の中身である。幣原外交は英米との協調重視、国際協調重視とよく言われる。しかし仔細に見ると、1925年前後に中国で反英暴動、英貨ボイコットが勃発した時、幣原は英国に対し極めて冷淡な態度をとった。日英同盟が失効していたとはいえ、この英国の事情を無視し、英国の犠牲のもとに日本権益の増進を図るがごとき態度が後々に響いてくるのである。
田中義一が陸軍全体を必ずしも代表してはおらず、むしろ幕僚中堅からは浮き上がった存在であったことも私には発見だった。田中は満州における実働部隊を満鉄と看做し、満鉄の意見を100%尊重して外交を展開しようとした。田中は山本条太郎満鉄総裁らの意見を重視し、張作霖を通じて北満における日本権益の拡大を追及しようとしたのだ。しかし外務省本省では森政務次官らを中心とする勢力が別の見方をとっていた。関東軍や外務省本省では張作霖に見切りをつけ、彼に代わる別の傀儡政権樹立に向けて動き出していたのである。だから張作霖爆殺事件が起きたとき、何も知らされていなかった田中は言葉を失い昭和天皇の前でへどもどしてしまったわけである。
満州事変を巡るリットン調査団の報告書も、今改めて読むと日本に対して非常に気を遣っていたというか、配慮していたことが読み取れる。「何もあそこまで反発しなくても」というくらい日本側がリットン報告書に過剰反発していたように、今となっては読み取れる。もちろん中国側にも配慮はしている。満州で圧倒的実力を持っていたのは日本だが、あまりに日本の実力行使を認めてしまうと中国側が反発し、国際連盟そのものの存在意義が問われてしまうからである。国連という組織が出す文章は今も昔も玉虫色であり、曖昧である。そうならざるを得ない構造に国連というものは置かれているのだ。
満州事変だけなら、まだ良かった。しかし満州事変の首謀者たちが「陛下の軍隊を勝手に動かした国家反逆者」として処分されるどころか次々と出世し叙勲されるに及んで、「んなら俺たちも」と思う勢力がワンサカ出てきて、戦火を上海に飛び火させてしまい事態は絶望的になる。英米の権益が集中する上海に戦火を広げたことは、痛かった。
ただ英米もこの当時、必ずしも「日本憎し」で凝り固まっていたわけでもないことが分かった。英米にとって中国の利権は所詮二義的なもので、最大の勢力である日本と何とか折り合いをつけながら妥協点を見出そうと彼らも苦労を重ねている。日本はこうした英米の融和的態度を弱さの現われと看做し、ひたすら強硬姿勢を貫いたわけだが、これが後々高くつくことになる。
気に食わないのがドイツの態度だ。ドイツは三国同盟締結の直前まで中国に対する最大の軍事支援国で、上海事変の際、わが帝国陸軍を最も苦しめたのがドイツの最新式装備で武装し、ドイツ将校団によって訓練された蒋介石直属のエリート部隊だった。「1936年の統計ではドイツの武器輸出総量の実に57.5%」が中国向けで、同時期の対日武器輸出は1%未満。「日中戦争が勃発すると、中国国民政府軍はドイツのプラント工場でつくられた武器を用い、ダイムラー・ベンツのトラックで輸送し、ドイツ人顧問団に軍事指導を支援される状況にあった」のであり、この意味でドイツは、いわば我々の敵だったわけである。こういう連中を、どうして日本は信用してしまったのだろう。
著者は松岡洋右に対して一貫して同情的である。確かに松岡は国際連盟脱退に最後まで反対し英米との協調を重視するよう訴え続けていたようだ。その松岡が、どうして「十字架上の日本」なる芝居がかった大演説をして国際連盟脱退を宣言してしまうのか。どうして英米に敵対する日独伊三国同盟の推進役になったのか。このあたりの松岡の変節についてもっと書いて欲しかった。もっともこの現状維持勢力英米に対抗する日独伊ソ四国同盟なる構想が、何も頭に血が上った松岡の思いつきではなく、意外と古い歴史を持った構想であったことも発見だった。最初に言い出したのはソ連でありコミンテルンで、彼らは英国によるソ連圧迫を回避する手段としてこれを思いついた。蒋介石も後にこの構想を支持したりしている。
この間、アメリカと英国の間もかなりギクシャクしている。英米はいがみ合い、対立しており、その意味でアングロサクソンは決して一枚岩ではなかった。
中国という国もかなり滅茶苦茶で、いわば群雄が割拠する状態であったことも日本には不幸だった。こうしたなかで印象に残るのが汪兆銘による次のような指摘だ。「中国軍は自立するための経済的な裏付けをもたない。よって軍隊が海岸線に移動すれば他国の傀儡とならざるをえず、軍隊が西北地方に移動すれば地方の盗賊になるしかない。英米ソは勝利するが、勝利までの間に中国は必ず破壊される。中国は共産党が支配されるソビエトになるか、領地が分割されるか、国債共同管理を選択するしか道はなくなる」。その後の中国の歴史は汪兆銘が予測した通りの道をたどっている。胡適は「日本切腹中国介錯論」などをぶっていたが、その過程で肝心要の中国自身が深く傷つき、漁夫の利を得たのが毛沢東だったわけである。
日本があそこまで拘った「満蒙利権」の実体についての分析も興味深い。1926年の統計によれば日本の対外投資の68%が満州向けで、その93%が国家がらみの投資だったという。日本は満州へ進出したが、実際に出て行ったのは民間ではなく国家だった。民間資本なら行動原理は「得か損か」となるから軍事行動も行き過ぎればブレーキをかけようとする。ところが軍の後押しを受けた国家機関なら「得か損か」は必ずしも通用しない。「当面、赤字覚悟でも断固としてやりぬく」ことも可能なのである。国鉄の赤字ローカル線、田舎の高速道路、田舎の赤字空港、整備新幹線。みんな国家がらみだから出来てしまう赤字事業だ。満州もこれと同列に見ると分かりやすい。この発見こそが、本書の最大の「売り」なんだろう。
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外交力の欠如
2007/09/09 22:44
11人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:dimple - この投稿者のレビュー一覧を見る
加藤陽子『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書、2007年)を読了した。
日露戦争後獲得した中国東北部の権益を維持・発展させるにあたって、外交的努力が思うような成果を上げられなかった結果、陸軍の省部幕僚や関東軍を中心とした軍部が武力によって植民地政策を遂行していく過程がよく描かれている。
わが国は歴史的に見て、外交能力が諸外国に比べて見劣りすることがよくわかる。例えば、リットン調査団の報告書や国際連盟の外交交渉においても、英国は日本の権益を認めうるシグナルを送ってきていたのだが、わが国政府はこれらをすべて見落としている。
軍部はというと、中国東北部に対するロシア(ソビエト)の脅威に備えることが最大の政策目標であるにもかかわらず、さしたる見通しを立てずに日中戦争の戦線を拡大していく。
そこにあるのは戦略的思考の欠如だ。同じ島国でも、英国との彼我の差に嘆息を禁じえない。
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歴史から学ぶ
2022/04/09 17:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:なつめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
満州事変から日中戦争につき進んでしまった過程が、わかりやすくてよかったです。歴史から学ぶことが、たくさんありそうです。
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地獄への入り口
2019/07/07 09:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nobita - この投稿者のレビュー一覧を見る
外交も戦争も失敗した時代。謀略の満州事変、連盟脱退、大政翼賛会、日中戦争、三国同盟など愚かな政治家、軍人により大衆が悲惨な目にあった。賢明であるべき大衆が常に監視すべき。
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幻滅した「シリーズ日本近現代史」第五巻
2007/06/29 05:59
29人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
岩波新書からシリーズで発刊されている「シリーズ日本近現代史」の第五巻が発売された。以前、このシリーズを評価する書評を書いたが、この第五巻は幻滅する内容だった。
岩波書店はこのシリーズを「家族や軍隊のあり方、植民地の動きにも目配りをしながら、幕末から現代に至る日本の歩みをたどる新しい通史」をうたい文句に発刊を続けている。
ところが、この第五巻にはまったくそのような視点がない。それぞれの巻の著者が違うとはいえ、ここまで趣旨と違うものを発行していいものだろうか。岩波書店の姿勢を問いたくなる。
歴史認識が問われる現在、侵略戦争の真実に目をそらすような記述に憤りさえ感じる。また、侵略戦争に反対した者がいなかったような印象を与える記述もあり、あまりにも欠落した内容だ。著者自身が「赤点」だと記しているが、そんな本を読まされるものはたまったものではない。
この第5巻は、「赤点」どころではない。以前にこのシリーズに注目と書いた責任から、幻滅したことを知らせておきたい。